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84話 今ね、本当に今、向こうから嫌な気配を感じたの

「この近くの町の子どもか?いやその格好はそうではないな…。」

「俺はこう見えても冒険者っス!」

「冒険者…?お前が?」

白銀の鎧を纏う青年は興味深い様子でラッフェルを見た。

「何がおかしいんスか?」

「別に何も。」

「何もって…一体なんスか。って!」

立ちあがろうとしたラッフェルを全身の激痛が襲う。

「お前…全身ボロボロだな。」

「…。だったらどうだって言うんスか?」

「そう喧嘩腰にならなくても良い。見せてみろ。」

青年は半ば強引にラッフェルの怪我を見た。

「これはいけない。直ぐに回復しないと。」

「そんな!俺は大丈夫っス!」

「そうか?とてもそうは見えない。無理をする必要はない。これを見ろ。」

青年は右手に魔力を集中させる。その魔力の輝きから、青年は相当な実力者であることが窺える。

「すごいっスね…。」

「だろ?俺に任せればこの程度どうってことはない。さあ目を瞑るんだ。」

「分かったっス…。」

ラッフェルはゆっくりと瞼を閉じる。

「よし、良い子だ。」

青年が右手をラッフェルの頭に乗せようとした時。

「ラ…ルー」

「師匠!?」

ラッフェルは思わず目を開け、返事をした。

「師匠!ここっスー!」

「師匠?」

「師匠は師匠っス!おーい!ここっスー!」

「…ちっ。」

青年は軽く舌打ちをし、白馬に跨ったかと思うと何処かへ走り去ってしまった。

「あ!え?え?」



「ラッフェルー!」

「ここっスー!」

「何でそんなとこにいるんだ?待ってろ。」

ザザザーっと斜面を下るヒッカ。

「師匠!会いたかったっスー!」

「あれほど離れすぎだと言っただろ?それにラッフェルは怪我しすぎだよ…。」

「面目ないっス…。」

「やれやれ。」

そう言ってヒッカはラッフェルの肩に触れる。

「少し静かにしてくれ。直ぐに治るさ。そしたら一旦ジェイクさんたちと合流しよう。」

ヒッカは魔力を高め、【キュアブリーズ】を発動した。ラッフェルの傷が癒えていく。

「だいぶ痛みが引いたっス!さすが師匠!ありじゃす!」

「騒ぎ過ぎだ。傷口が開くぞ。もう一回。」

ヒッカは再び【キュアブリーズ】を発動した。ラッフェルはピョンピョンと飛び跳ね、回復をアピールした。どうやら怪我は回復したようだ。

「そうだ師匠!俺、人に会ったっス!」

「人?どんな??」

「えっと、白い馬に乗った凄そうな人っス!」

「それ…、この町を襲った奴か?他にどんな感じだった?何人いたんだ?」

「眩しい色の鎧を着てたっス!人数はその人だけっしたね。他には誰もいなかったっス。あと、喋り方がジェイクさんぽかったっス!」

「眩しい色?赤じゃなくて?」

ヒッカはその男が走り去ったと見られる道を見た。そこには人の影も形も見えなかった。


「ともかく、ジェイクさんたちを待たせてるかもしれない。まずは帰ろう。」

「了解っス。」

ヒッカはラッフェルに肩を貸した。

「じゃあ、行くぞ!【エアライド】!」

ヒッカとラッフェルはたちまち空に翔けあがり、帰りを急いだ。

(オーズィエルの町長が言ってたのは、『白馬に乗った赤い鎧を着た男』だったな…。エイデルの町長からの手紙でも同じこと言われてた気がする。鎧をわざわざ着替えたりはしないだろう。となると別人の線もあるな。だとすると、何の目的でこんなところに来てたんだろ?)

ヒッカはウーンと唸りながら空を翔けていった。




「あ!ヒッカくんたちが戻って来たよ!」

「思ったより遅かったな。」

ラッフェルがライクたちに手を振る。ヒッカはそのままゆっくりと高度を落とし、着地した。

「ごめんなさい。ちょっと遅くなりました。」

「構わない。それよりも何か見つかったか?」

「怪しいヤツを見たっス!白い馬に乗った眩しい色の鎧を着てたっス!」

「眩しい色?赤ではなくてか?」

「っス!」

「それは確かか?ヒッカ、お前は見ていないのか?」

「見てないです。ラッフェルの前に現れたらしいんですけど、すぐいなくなったっぽいです。」

「そうか。二人の町長が言っていた赤い鎧が間違いなのか、ラッフェルが見たのが間違いか…。あるいは全くの他人か…。」

「同じことを考えてました。仮に鎧が白色や銀色だったら、太陽の光の加減で赤く見えるかもしれません。」

「…。」

「でも…。そもそも、こんなところを一人で行動するなんて怪しいですね。」

「確かにな。」

「ジェイクさんたちは何か見つかりました?」

「ん?ああ。こちらは魔獣の死骸が見つかった。同士討ちしていた。」

「同士討ち…っスか?」

「そうだ。今回の魔獣の周辺でも炎が使われた形跡があり、俺の標的が関与している可能性が高いと考えている。」

「確かにそれも考えられますね。」

「ああ。ただ、魔獣の死骸は冷たかった。炎が燃え盛った後もすでに鎮火していた。」

「えっと、つまりはどう言うことっスか?」

「俺たちが見つけた時にはすでに、それなりの時間が経過していたと言うことだ。近くに何かいる気配もなかったのでな。」

「もっと南に下ったのか…、あるいは北に行っていたのか…、ですね。」

「そうだな。」

「俺、南の方も見て来ましょうか?一人ならすぐ戻って来れますよ。」

「いや、一人は危険だ。俺たちが見つけた魔獣の墓場や、お前たちが出会った男も気になる。ここからはパーティーで行動する。」

「空から見るだけでもやめた方が良いですか?」

「ああ。標的が対空攻撃手段を持っていないとも限らない。そうでなくても数で攻められるとお前も厳しいだろう。」

「分かりました。では南と北、どちらに行きましょうか。」

「北の方だな。魔獣の墓場も気になるが、ラッフェルと会った男が気になる。」

「では決まりですね!」

「っス!腕がなるっス!」

「あの…。」

ライクがおずおずと声をかけて来た。

「私の気のせいかも知れないんだけど…。」

「構わない。どうした?」

「今ね、本当に今、向こうから嫌な気配を感じたの。」

そう言ってライクは北にそびえる山の方を指差した。

「…特に何も感じないな。」

「ちょっと待ってね。」

ヒッカは地面に耳を当て、大地の声を聞いた。だが…。

「ちょっと分からないな。距離が離れすぎてるからかもしれない。」

「だよね。ごめんね。変なこと言って。気にしないで。」

「気にすることないっスよ!」

「何でラッフェルが言うんだよ。」

「そうよ。お兄ちゃん。」


はしゃぐ少年たちを横目にジェイクのみが静かにその山を見つめていた。

「…。」


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