83話 お前、何処から来たんだ?
ヒッカの発動させた【サイクロン】がゴブリンの群れを巻き込む。
「…すごい。」
空に打ち上げられたゴブリンの群れはなす術が無い。
「ラッフェル、今だ!」
「っス!」
ラッフェルは高めていた魔力を両手で撃ち出した。
「【ファイアボール】」
ボン!ボボン!と連続して発動する。発動した火炎弾の大きさはまだまだ不揃いではあるものの、テンポ良く安定的に発動ができている。ラッフェルの魔法の扱いもそれなりに上達しているようだ。
「上出来!」
両手の人差し指を空に構え、ヒッカはそう呟いた。全身の魔力を両手に収束させていく。
「【ガストシュート】!」
ヒッカの放つ風玉がラッフェルの火炎弾に重なる。その瞬間、それは一際大きな炎となり、周囲を滅却する。ラッフェルとヒッカのユニオン魔法でゴブリンの群れは壊滅状態となった。
「あとは…。」
ヒッカが群れの奥に佇んでいた一回り大きなゴブリンに目を向ける。
「あの親玉だけっスね!」
ラッフェルも渾身の【ファイアボール】の構えをとる。
「ギャギギギィー!」
耳をつんざくような雄叫びがあたりに響く。だがそれに対し、パーティーは落ち着き払った様子で相対する。
ゴブリンの親玉は真っ直ぐこちらに向かってくる。ラッフェルは高めた魔力を解き放った。
「くらえっ!【ファイアボール】!」
撃ち出された火炎弾はラッフェル自身の体の半分ほどの大きさだ。
(いいぞ…!)
ヒッカは右手の人差し指と中指に収束させた魔力を解放する。
「【ガストバースト】!」
ヒッカの支援を受けラッフェルの火炎弾が一際巨大な炎なり、辺りを焼き尽くした。その威力は距離をとっているヒッカたちにも熱風として届くほどだった。
「…俺の出番が無くなってしまったな。」
ジェイクが剣を納めながらそう語る。ゴブリンの親玉も倒れたまま動かない。ゴブリンの群れは呆気なく壊滅した。それはゴブリンが弱かっただけなのか、ヒッカたちが強くなったのか…。
「ひとまず様子を探るぞ。町長の話も聞ければいいが。」
ジェイクは辺りを見回した。攻撃された町並みは酷いものだった。オーズィエルの町より被害が大きく、町の人は見えなかった。
「誰かいないか?ゴブリンどもは討伐している。話を聞かせてくれないか?」
…………。
返事が返ってくる様子はない。
「誰もいないんですかね?」
「かもしれんな。もう少し探すか。」
五人は連れ立って歩き始めた。
「…最初の場所に戻って来ちゃったね。」
「っスね…。もうこの町には人は居ないってことっスかね…?」
「…。」
「もしかしたら森の奥に逃げたのかもね。」
「無事だと良いですね。」
「見た感じ、壊されてる家が目立つくらいだから…多分逃げたんだと思うけど…。」
「くそ!!」
不意にジェイクが大声で叫んだ。
「後少しなんだ。後少し!何処に隠れたんだ!」
「どうしたんですか?」
「落ち着いてください。ジェイクさん。」
「これが落ち着いていられるか!奴は即刻討たねばならん!いつまでも指を咥えて見ている訳にはいかない!!」
その迫力にヒッカたち四人は驚いてしまった。
「ど、どうしたんスか?この間の時といい、ジェイクさんらしくないっスよ。」
「…すまない。感情的になってしまって。」
意外にもラッフェルの一言でジェイクは冷静さを取り戻した。
「それで、どうしましょうか。」
ヒッカが口を開く。
「ここにいたゴブリンはみんな炎を使ってるように見えました。」
そう言って、ゴブリンが持っていたであろう棍棒を拾い上げる。棍棒は僅かに焦げ跡があった。
「炎を使って建物を延焼させ、そこをこれで殴ってたんだと思います。」
「何のためそんな事をするんですか?」
「それは分からないな。元々ゴブリンはそこまで知性がある訳じゃないしね。燃えた場所を叩くと壊れやすいってのを、感覚で理解してやってたのかもしれない。他にも何かの練習や、遊びの可能性だってあると思う。」
「遊び?っスか?」
「例えだよ。全然的外れだってありうる。」
「もしかしてっスけど、案外当たってるんじゃないっスか?」
「それはどう言うこと?」
「ゴブリンは炎を使うような魔獣じゃなかったんスよね?それが炎を使えるようになって、嬉しくて色んな事をした結果こうなったんじゃないっスか?」
「良く…分からないな?」
「えっと、スね。」
「炎属性魔法と言う力を得てその破壊力を楽しんでいた、と言いたいのか?」
「そんな感じっス!」
「それじゃあ、この町はそんな理由で襲われたって言うの?お兄ちゃん。」
「多分!」
「それって酷くない?遊びでここまでされるなんて。」
フィリーは背後の町の様子を改めて振り返った。全半壊している家屋が殆どで、無事な家は殆ど見当たらない。
「それは俺に言われてもなぁ。魔獣の考える事なんて分かんないぜ。」
「でも…。」
「このままではらちがあかない。二手に分かれて少し情報を集めるか。何か痕跡が残っていないか調べてここに戻って来てくれ。ヒッカはラッフェルと、俺はライクとフィリーで組むぞ。」
「分かりました。それじゃ、俺は町の北側を見て来ます。行くぞ、ラッフェル!」
「っス!」
「頼む。俺たちは南の方を探る。お前たちは警戒しながらついて来てくれ。」
「「はい!」」
「師匠ー?」
「どうした?ラッフェル?」
「何かあったっスか?」
「いやー。特にこれと言った収穫は無いな。」ヒッカはラッフェルの方に向き直りながら返事をした。気付けばラッフェルはかなり離れた場所にいた。
「おーい!ラッフェル離れすぎだ。戻ってこーい!」
「ちょっと待って欲しいっス!この辺りに何か見えた気がするっスー。」
ラッフェルは森の中をどんどん歩いていく。
「これは道…か?」
眼下に人が踏み均したであろう道が出て来た。
「ここを辿れば、何か見つかるかも…!」
良く見ようと身を乗り出したその瞬間、足元が崩れ落ちる。
「うわーっ!」
ラッフェルはそのまま山の斜面を転がり落ちて行った。
ドカっと大木にぶつかり、ようやく止まったラッフェル。
「いてて…。」
「お前、何処から来たんだ?」
ラッフェルは今までに聞いたことのない男の声を耳にした。
「え?」
見上げると白馬に跨った青年がラッフェルを見下ろしていた。
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