82話 …お出迎えのようだ
ヒッカの魔法で大空を駆け抜ける五人。
「見えた!」
ヒッカが指差す方向に町の形が見える。煙が立ち上っている雰囲気を察し、ラッフェルも声を上げた。
「何だかやばそうっス!」
「お前たち、油断するなよ。」
「っ。はい!」
ジェイクの声に緊迫した様子のフィリー。ライクも少し顔色が悪い。
「どうかしたの?」
「何だか…、嫌な予感がする!」
「嫌な予感?」
その言葉を聞いてヒッカは無意識に飛行速度を緩やかにした。不意に町の方を観察する。オーズィエルの町の様に攻撃されているのだろう。家が燃えているのも見える。攻撃されて鎮火に手間取っているか、あるいは今攻撃されているのか、だろう。
ヒッカは遠目に炎を抱えた黒い影が動いているのを見つけた。
(何かいる…!)
「ジェイクさん!」
「どうした。」
ヒッカは町の中心部の建物を指した。
「今まさにあの町が攻撃されてます。俺見ました!」
炎を抱えたたナニモノかが動き回っている。そのナニモノかが首を空に向けた。ヒッカとそのナニモノかは目線が合った。そんな気が気がした。
「ゴブリン?ジェイクさん!ほら、あそこに…」
そのゴブリンは大きく口を開け、空気を目一杯吸い込む。ゴブリンの上半身が膨れ上がり赤みを増す。
ヒッカはゴブリンの行動から攻撃を察した。
「まずい!」
ヒッカは咄嗟に回避行動に移る。五人は空中で大きく弧を描く。
「きゃっ!」
フィリーの真横を火炎弾が突っ切る。
「ごめん!大丈夫!?」
「大丈夫です。ちょっと…びっくりしました。」
「良かった。」
(ゴブリンが火炎弾を…?)
眼下には数体のゴブリンが集っている。いずれもヒッカたち、上空からの侵入者を威嚇しているようだ。
「降りれるか?」
「はい。何とか…!」
再びゴブリンたちが攻撃の構えを見せる。先ほどと同じ様に火炎弾を撃ってくるようだ。
先頭のゴブリン一体が火炎弾を撃ち出す。
「…!」
ヒッカは咄嗟に上昇し、回避を成功させる。
「みんな、行くよ!」
ゴブリンは五月雨に火炎弾を打ち出してくる。その合間を縫うように飛行するヒッカたち。
「このまま裏手の建物のところに降ります!」
「頼む。」
ヒッカが飛行高度を下げつつ、着陸態勢に入る。ゴブリンの群れから一回り大きな個体が前に出る。まるで、それを待っていたと言わんばかりに、ヒッカたちに狙いを定めた。配下のゴブリンもそれ続き、火炎弾を連発する。
(あと…ちょっとだ!)
「ヒッカくん!!」
それはまさに、一回り大きな個体のゴブリンが火炎弾を撃ち出す瞬間だった。
「!!」
撃ち出された火炎弾が空気を焦がす。他のゴブリンたちによって誘導された場所におびき寄せられたと言うわけだ。
この状態からの回避は間に合わない。
「みんなごめん!」
ヒッカは【エアライド】を解除する。と同時に纏う全魔力を右足に集中させる。火炎弾はもう目の前だ。
「はっ!」
ヒッカは火炎弾をその右足で上空に蹴飛ばした。
(やった!)
そのままヒッカは地面に転がり落ち、受け身を取った。
「みんな、大丈夫!?」
「…何とかな。」
ジェイクはそう言って涼しい顔で立ち上がった。
「さすがにこれは痛いっスよ〜。」
ラッフェルもどうにか無事のようだ。
「びっくりしちゃった!でも私も平気!」
ライクは土埃まみれだが意外と平気なようだ。
「着地、失敗しました。」
フィリーは膝と手のひらを擦りむいていた。どちらも血が滲み出ている。
「ごめんね。」
慌てて駆け寄るヒッカ。
「このくらい大丈夫です。」
フィリーは魔力を集中させ、【ヒーリングミスト】を発動させた。
全員は土埃を落とし、怪我も回復した。
「ありがとう。楽になったよ〜。」
「さすが我が妹っス!助かったぜ!」
「そうだな。感謝する。」
「良かったです♪」
「これで一安心。」
「それはどうかな。」
「どう言うことっスか?」
「…お出迎えのようだ。」
ジェイクは剣に手を伸ばす。
「…いつの間に!?」
ふと周りを見渡すと、ゴブリンの群れがヒッカたちを取り囲んでいた。
「ゴブリンくらい!俺でもやれるっス!」
そう言ってラッフェルも剣を抜いた。
「甘く見るな!コイツらは炎を扱う。それにこれだけの数だ。」
確かに先ほどの威力の火炎弾を撃たれては厄介だ。まともにくらえばそれなりの痛手を負う。また回復が間に合わなければジリ貧になる。
(コイツら一体、何体いるんだ…?)
ゴブリンはざっと二十体近くいる。パーティーの一人ずつが袋叩きにされては、全滅にも繋がりかねない。
「ギギギ!」
「ラッフェル伏せろ!」
ラッフェルに飛びかかったゴブリンを咄嗟にヒッカが切り伏せた。手に伝わる嫌な手応え。
(何…だ。コイツ…!)
ゴブリンは斬られてはいたものの、両断はされていなかった。幾ら咄嗟の対応とは言え、攻撃にはそれなりの魔力を込めていた。
(両断できなかった…?)
「ギ、ギギ…。」
立ち上がろうとするゴブリン。にじりよるゴブリンの群れ。その最奥で構える一際大きなゴブリン。恐らく群れのリーダーなのだろう。
「…ジェイクさん。」
「何だ?」
「少し、時間をください。」
「何か考えがあるのか?」
「はい。俺の風魔法とラッフェルの炎魔法でゴブリンの群れを焼きます。」
「…できるのか?」
その質問にヒッカは静かに頷いた。
「いいだろう。」
ジェイクはパーティーの先頭に立った。ヒッカはすでに魔力を高め始めていた。
「ラッフェル。いつでも【ファイアボール】を撃てるようにしてて。」
「っス!」
「ギェー!」
「ギー!」
ヒッカの魔力の高まりを感知したのか定かでは無いが、ゴブリンの尖兵が突撃してくる!
「させん!」
ジェイクは力任せに二体のゴブリンをまとめて切りつけた。続け様、すり抜けた三体目のゴブリンに背後から刺突した。
「ギ、ギギ…。」
「すごい…!」
そのあまりの早技にライクは言葉を失っていた。
「私もたちもがんばろ!」
「はい!」
ライクとフィリーは周囲の警戒を続けた。
「はっ!」
続く四体目と五体目のゴブリンを打ち倒すジェイク。だが…。
「コイツは思ったよりタフだな。」
倒したはずの五体目どころか、先ほど倒した一体目のゴブリンたちも立ち上がってくる。
(こんなのがまだ後何体いるんだ?長くは付き合ってられんぞ。)
ジェイクはヒッカの様子を見た。溢れんばかりの魔力が集中していることが見て取れる。
「ヒッカ!まだかー!?」
「行きます!」
ヒッカは高めた魔力を高々と掲げる。それはヒッカ十八番の魔法だ。
ゴブリンたちを見据え、紡いだ呪文と共に魔力を振り下ろす。
「【サイクロン】!」
凄まじいまでの嵐が吹き荒れた。
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