81話 友人の町を助けてやってほしい
その日の朝食は静かな物だった。過去のジェイクの話を聞いたことで、何となく遠慮がちな雰囲気になったのかもしれない。
「各自、準備ができたら外に集合してくれ。」
そう言うとジェイクは席を立ってしまった。
「今日のジェイクさん、何だかちょっと怖いっスね。」
「そうかな?考えすぎじゃないか?」
「そうスかねー?」
「ジェイクさんはいつも冷静じゃないか。きっと作戦を考えてるからそう見えるだけだよ。」
「それもあるかもしれませんが、私はちょっとだけ寂しそうな感じがしました。」
「そう、かもね。」
ヒッカはその言葉を否定できなかった。
「…。」
「…。」
「…。」
「あはは。何だか…暗い…ね?」
「今までよりも危険度が高い相手だからね。気をつけないと。」
「寄生されちゃうってこと?」
「ああ。どんなリスクがあるか分からない。話を聞いた感じでは召喚獣は炎属性っぽいな。元々炎属性を使うジェイクさんやラッフェルはともかく、俺たちが寄生されると何が起こるか分からない。」
「意外と炎属性も使えるようになったりして?」
「可能性としてはあるかもね。それだけだとまだいいんだけど。」
「あの、ヒッカさん。」
「ん?」
「アーシェさんを治療した時、使ってた魔法って水魔法なんですか?」
「え?急にどうしたの?」
「…。」
フィリーは真剣な眼差しでヒッカの顔を覗き込んでいる。ヒッカが無我夢中で発動した魔法は確かに水属性魔法だった。
「あれは…水属性の魔法だよ。」
途端にフィリーの顔がぱぁっと明るくなった。
「ですよね?ですよね?すごいです!アーシェさんあんなに大怪我してたのに、あっという間に治しちゃうなんて!」
フィリーは興奮した様子で捲し立てる。
「回復魔法も極めるとあんなことできるんですね!ヒッカさんは風属性使いじゃなくて、実は水属性使いじゃないんですか?」
「そんな。よく分からないんだけどさ、何となく感覚でできちゃったんだよ。」
「本当ですか?実は全属性習得のために朝昼晩寝ずに特訓してるとかですか?」
「からかうなよ。俺だって説明できないんだ。」
「本当にそうなの〜?」
フィリーに続いてライクも追従してきた。
「だってさ、一人で複数の属性を使える人ってあまり見たことないよ?それをヒッカくんは四属性全部!これってすごくない??」
確かにそうだ。通常、一人が使う属性は一属性であることが多い。高名な魔導士であれば得意とする属性の効果を高めるために、二つ目の属性の魔法も修めることはある。他には、低位魔法に限れば複数魔法を操ることができる人もいる。だがそれにしても、やはりその人の絶対数は少ないものとなる。
「…。」
「どうしたの?」
「確かにそうかもって思ってさ。ただ…。」
「ただ?」
「何で使えるんだろうね?俺?」
「何それ〜。そんなの私たちが分かる訳ないじゃない。」
「そうだよね。俺も…。」
「『俺も何故使えるのか、うまく説明できないんだ。』」
「うふっ。やめてお兄ちゃん!似てる〜。」
ラッフェルのモノマネにフィリーは吹き出した。ヒッカはヤレヤレと言った表情だ。
(でも何でだろ?勝手に魔法の使い方が頭の中に流れ込んで来た感じ。)
ヒッカは腕組みをして天井を仰いだ。
(…。俺の風属性魔法、バトルガルーダを倒した炎属性魔法、ライノス種を倒した土属性魔法、そして今回は治癒の水属性魔法。)
確かに四属性を抑えている。これならば一人でも多くの場面に対応できそうだ。ただ、風属性以外の魔法はそれなりのレベルのため、小回りが利きづらそうではある。
そろそろヒッカたちも準備に戻ろうとしたところ、バン!といきなり宿の扉が開かれた。
「ヒッカ殿!」
そう声をかけてきたのは町長だ。朝も早いのに一体何事か。ただ…。
「ヒッカ殿に…、お願いがあって…、来ました。どうか…、話、だけでも聞いてくださらんか?」
ゼイゼイと肩で息をする町長。自宅からここまで余程急いで来たのだろう。
「どうしたんですか?話聞きますから少し休んでください。」
ヒッカとラッフェルはテーブルの上を片付け、その間にライクはコップに水をもらってきた。フィリーは町長の背中をさすっている。
「ありがとう。ありがとう。」
町長の様子も落ち着いてきたところで、改めてヒッカが質問した。
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
「君たちは冒険者なんだろ?もう一つ頼まれてくれないか。」
「どう言うことですか?」
「友人の町を助けてやってほしい。」
町長は必死の様相だ。
「ここから山を一つ挟んだ先に友人が町長を務めているエイデルと言う町がある。そこが襲われているみたいなんだ。」
町長とその友人は若い頃、よく山を越えて遊んでいたとのことだ。だが寄る年波には勝てず、最近は鳥で手紙のやり取りをしていたようだ。
「それがその手紙ですか?」
町長は頷いた。
「見てほしい。」
そう言ってヒッカに手渡された手紙にはこう記されていた。
『危険な男が攻めてきた。白馬に乗った赤い鎧の男に注意されたし。』
「これは…!」
「恐らく、この町を襲った奴が暴れてるんだろう。君たちに言えた義理ではないが、どうかお願いできないだろうか?」
すがるような目線で町長はヒッカに訴えかけた。
「…目的地が決まったな。」
いつの間にかジェイクが背後に立っていた。「詳しい場所が知りたい。お前たちは急いで準備してくれ。」
「はい!」
「「分かりました!」」
「っス!」
駆け出す四人。
「場所はどの辺りだ?」
地図を広げながらジェイクは町長に尋ねた。
「ああ、それはここの山の…」
ヒッカとラッフェルが準備を終え、戻ってきた。
「来たか。場所はここだ。」
そう言ってジェイクは地図を指し示す。なるほど、少し距離がある。
「町長さん、この山を実際に見たいです。教えてください。」
そう言って町長を外に促す。
「山?それなら構わんが…?」
「お待たせしましたー!」
ワンテンポ遅れて、ライクとフィリーが戻ってきた。
「ごめんなさい。遅くなりました。」
「構わない。行くぞ。」
ジェイクはライクたちに一瞥くれ、四人は宿の外に出た。
「分かりました。何とか行けそうです。俺たちに任せてください。」
「ありがたい。重ねて頼みます。」
町長はヒッカに頭を下げた。
「師匠ー!」
「ああ、ラッフェル。向かう場所は分かった。早速行こう。」
「ヒッカ、今回も頼めるか?」
「はい。全力で行きますよ!」
「感謝する。」
ヒッカの元に四人が集合する。そこに町長が声をかけた。
「エイデルに行くには、ここを下った街道から行くのが近い。そこの入り口までなら案内も…」
「ありがとう町長さん。でも俺たちは別の近道を使います。」
「別の近道?」
「はい。」
そう言ってヒッカは、にこやかな表情で空を指差した。
「空?」
「はい。空です。みんな、準備はいいかい?」
「ええ!」
「っス!」
「もちろんです。」
「頼む。」
「…では。」
ヒッカが静かに魔力を高める。風がざわめき、木々が揺れる。
「行くぞ!【エアライド】」
瞬く間に五人は空に舞い上がった。
「何と…。」
五人の姿が小さくなっていく。町長は驚きのあまりその場に立ち尽くしたままだった。
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