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59話 それじゃ、俺はそろそろ行くよ

窓の外から小鳥の囀りが聞こえる。

いつものようにヒッカは目覚めた。

(今日からしばらく、みんなに会えなくなるのか…。)

隣のベッドを見てみると、ラッフェルはまだ夢の中のようだ。まだしばらくは起きないだろう。

ヒッカはラッフェルを起こさないように静かに準備をし始めた。

「師匠?」

「!どうした?ラッフェル?」

不意に声をかけられ、ヒッカは驚きの表情と共にラッフェルに振り向いた。

「もう、行くんスね。」

「ああ。ちょっとでも早くコレを仕上げてもらいたいからね。」

そう言ってヒッカはジェイクから預かった剣を手に取った。ズッシリと手応えのある重さや手に馴染むような感覚を覚えた。同時にヒッカは、この剣がジェイクと共に歩んできた戦いの歴史を感じた気がした。

そんなヒッカをラッフェルは少し寂しげに見つめていた。

「朝ごはん、良かったら一緒に食べるか?」

「もちろんっス!すぐ準備します!」

ラッフェルは身だしなみもそこそこに、バタバタと着替えた。



ヒッカとラッフェルは静かに朝ごはんを食べ始めた。別にお互いに気まずい訳ではない。ラッフェルもみんなの前では賑やか師だが、案外一人の時は真面目なのかもしれない。それに二人は、昨日の夜時点でそれなりに言葉も交わしている。

「俺はこっちに戻ってくる前にユニオン魔法を練習してくるつもりだ。ラッフェルは何かするのか?」

「そうっスね。俺の場合はまず、自己強化魔法を今の倍の時間まで維持するようにしたいっスね。そのためには…。えっと、魔力最大値や魔力回復量、魔力圧縮比も鍛えないとっスね。」



魔力最大値とは名前のとおり、本人が抱えうる魔力の全体量だ。当然多ければ多いほど魔法を潤沢に利用できる。努力で魔力最大値を増やすことはできるが、一般的には女性の方が多い傾向にある。これは出産のように一度に大きな力を発揮するために、そのような特性が備わっているのでは?とされている。

魔力回復量は、本人の魔力が回復するスピードだ。同じ時間でも魔法一回分の魔力が回復する者もいれば、魔法二回分ほど回復する者もいる。こちらも回復量を向上させることはできるが、魔力最大値とは逆に男性の方が高い傾向にある。男性が狩猟で日々の糧を得ていた頃、長時間獲物を追い続けるために発達した力ではないか?と言われている。

魔力圧縮比は、魔力をマナに変換して魔法を発動させるための効率のことだ。こちらは圧縮比が高ければ高いほど、同じ魔力でより多くの魔法・よりレベルの高い魔法を使える。こちらは男女差は特に見られない。



「そうだな。簡単に倍って言っているけど、それなりに難易度が高いからさ。普段の行動も意識しておくんだぞ。ジェイクさんから、ちゃんと進歩してるって聞いてるからしっかりな。ラッフェルが前衛としてできることが増えると、ラッフェルだけでなく俺やジェイクさんにとっても大きな戦力となる。」

ヒッカは素直にラッフェルの成長を褒めた。

「ありじゃす!」

ラッフェルもまた、素直にそれを受け取った。



「それじゃ、俺はそろそろ行くよ。」

椅子から立ち上がったヒッカにつられて、ラッフェルも椅子から立ち上がった。

「ここでいいよ。今日からはいよいよ本格的な旅路だから少しでも休んでおかないと。もっと強くなって再会だ。」

「っス!お気をつけて!」

ヒッカはラッフェルに右手を差し出した。二人は握手し、ヒッカはそのまま外に向かって歩き出した。

「ヒッカくーん!気をつけてねー!」

後ろからライクの声が聞こえる。振り向くとライクがちょうど階段を降りてきていたところだった。ライクの隣にはフィリーの姿も見える。

「ヒッカさん!早く戻ってきてくださいねー!」

「ああ、任せときなって。」

(って言っても鍛冶屋のオヤジさん次第かもしれんけどね。)

しばしの別れの挨拶も済み、いよいよとばかりにヒッカは宿のドアを開けた。

(…まてよ?もしかしたら??)

ヒッカは昨日ジェイクと会った場所に向かった。

(思ったとおりだ。)

「ジェイクさん!行ってきます!」

その声に反応したジェイクは素振りを止め、ヒッカに手を振って応えた。



ヒッカは駆け出していた。

(よし。体力も魔力も満タンだ!一気に行くぜ!)

「【エアライド】!」

お得意の風魔法で空に舞うと、そのまま彼方に消えていった。



ヒッカはひたすら真っ直ぐにフレアランドに向かっていった。ほとんど休みも無しにぶっ続けだ。昼食も持参している携帯食料で済ませている。それも【エアライド】で飛んでいる最中に補給していたのだ。【エアライド】の発動はそれなりの難度ではあるものの、十分に習熟が進めば片手間でも使える種類の魔法だ。もちろん、その習熟度に至るまでにはそれなりの努力が必要となる。

(見えた!)

ヒッカは視界にフレアランドの王宮を見つけた。このままラストスパートと言わんばかりに、【エアライド】による飛行速度を一段と上げた。



フレアランドの町の端の方に到着したヒッカは、そのまま真っ直ぐ鍛冶屋に向かった。



「オヤジさん。こんにちは。」

幸いなことに、鍛冶屋の親方は店先に出ていた。

「おお。ヒッカか。その顔は上手くいったと言うことじゃな。」

「はい。ちゃんとディムデルの木材を買ってきました。一式預けたいんですけど、どこに置けばいいですか?」

「構わんからここに置いとくれ。」

ヒッカは用意された机にディムデルの木材を置いた。そしてジェイクから預かった剣と盾も置いた。

「これは正しくディムデルの木じゃな。状態も良さそうじゃし、コレで問題ないじゃろう。そしてこれが例の武器に改造する剣、そして盾…。ふむ。」

「どうですか?」

「任せておれ。ワシがバシッと素晴らしい武器を作ってやるわい!」

その言葉にヒッカは安堵した。

「それで、どれくらいでできそうですか?無理を承知で早めに欲しいです。」

ヒッカは懸命に親方に訴えた。

「そうさな。二週間はもらいたいところだ。」

「二週間ですか。分かりました。お願いします!」

「はいよ。完成が近くなったらお前さんの家に使いを出してやろうか?」

「ぜひお願いします。あと料金はどの程度ですか?前金も含めてこれで足りますか?」

ヒッカはジェイクから預かった金貨を数枚差し出した。

「これで十分じゃ。しばらく待っておれ。とびっきりの一振りをこしらえてやるわい。」

ガハハと豪快に笑う親方。

「どうか最高の剣をよろしくお願いします。」

ヒッカは深々と頭を下げた。


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