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58話 師匠、ご無事で

ジェイクから剣を受け取ったヒッカは自室に戻った。盾も預かったが木枠の部分はそのままにしている。無理に木枠を外すよりはプロの鍛冶屋に見てもらおうと言う腹づもりだ。

そんなヒッカをラッフェルはずっと目で追っている。ラッフェルはヒッカを待っていたようだ。

「師匠。またすぐ行っちゃうんスね。」

「ああ。それはそうだけど、またすぐ会えるだろ。半月もあれば合流できるかな。」

「っスね…。」

「…。」

「師匠、ご無事で。」

いつになく神妙な顔つきのラッフェル。

「どうしたんだよ。急に?」

「何となくっス。」

「何となく、か。」

「…。」

「ラッフェルなら大丈夫だよ。きっと。ライクとフィリーを頼んだよ。そしてジェイクさんと一緒に戦ってくれよな。」

「了解っス!それに俺、少しずつ強くなってる気がするっス!」

確かに最近のラッフェルの成長は目に見えて分かる。そしてそれはライクやフィリーも同様だった。我流で覚えた魔力の使い方に、ジェイクの指導や適切な実践経験が役に立っているのだろう。

フィリーは元々自力で攻撃魔法と回復魔法を習得しているので、それなりに素養はあったのだろう。今後は魔導書からも理論を学んでいけば、大きく成長できると期待できる。

ライクは攻撃魔法しか覚えていなかったものの、水属性では珍しい高威力のものだ。その上、この短期間で回復魔法もほぼ実践で使えるまでに精度を高めている。何より、姉妹のようにライクとフィリーで教えあっているのが良い刺激となっているのだろう。

このパーティーはもっと強くなる。ヒッカはそう言う確信があった。

「…またコレ、やってみるか?」

ヒッカはファイティングポーズの構えから、軽くジャブを繰り出した。

「望むところっス!」

二人は飽きもせず、宿から抜け出した。




「驚いたな。本当に強くなってるよ。ラッフェル。」

宿への帰り道、汗を拭いながらヒッカは素直に感想を述べた。

「へへ。師匠に褒められると素直に嬉しいっス。俺、もっともっと強くなるっス!」

ラッフェルも興奮気味だ。ところどころのアザは名誉の勲章と言ったところか。

「ん?」

「あれ?」

宿の裏手に人影が見える。

「あれって…、ジェイクさんかな?」



「何だお前たち。早く寝てろ。休むのも仕事のうちだぞ。」

ジェイクはバスターソードの素振りを行なっていた。

特訓バカとも言えるこのトリオは、どうもじっとしているのが苦手らしい。

「ジェイクさん。聞いてください。ラッフェル、また強くなってますよ。さっき拳で特訓してたんですけど、少しくらっちゃいました。」

そうして左手のシャツを捲り、真新しいアザを見せる。

「何とか入れられたっス!でもその後、何倍にもなって返ってきたんスけどね。」

確かにラッフェルのアザはヒッカの比ではない。

「全く、お前たちときたら…。」

ジェイクは半分呆れたような顔をしている。

「ジェイクさん。ものは試し、でラッフェルとやり合ってみてはどうですか?」

「…。」

「いいスか?」

ラッフェルはパン!と左手のひらに右拳を当てた。

「…。良いだろう。少しばかり興味がある。」

ジェイクはバスターソードをヒッカに手渡し、ラッフェルの前に立った。

「かかってこい。大人の余裕と言うものを見せてやろう。」

「…!」

ジェイクのその発言は決してラッフェルを見下しての発言ではない。むしろ、ここ数日のラッフェルの働きを誰よりも見ているのはジェイクだ。ヒッカが言わずとも、ラッフェルの成長は認めている。認めているが故に全力で相対すると言うものだ。

ジェイクとラッフェルでは戦いのキャリアに天と地ほどの開きがある。成長を見届けた上で完膚なきまでに叩きのめすと言う、ジェイクなりの発破のかけ方だった。



結論から言うとジェイクとラッフェルの戦いは、まさに大人が子どもと遊んでいるようなものだった。ラッフェルはパンチやキック、【ファイアボール】を繰り出すもジェイクを捉えることはできなかった。それどころか、ジェイクは右手一本だけで防御と攻撃を繰り出していた。明らかに疲労が見えるラッフェルに、トドメと言わんばかりの強烈な一発をお見舞いすると、ラッフェルは吹っ飛ばされてしまった。

「っててて。やっぱジェイクさんも…強いっス…。けどっ!」

それでもなお立ち上がり魔力を纏うラッフェル。

「…!」

「ああああ!」

ラッフェルの雄叫びと共に纏う魔力が爆発したかと思うと、そのまま魔力は一気に霧散しラッフェルは倒れてしまった。体力も魔力も限界だったのだろう。

「やれやれ。少し近所迷惑だったかな。」

「ですね。」

苦笑いのヒッカ。

「悪いがヒッカ。ラッフェルを部屋まで連れて行ってやってくれないか。」

「はい。元よりそのつもりです。特訓、ありがとうございました。」

「礼には及ばないさ。俺もラッフェルがどれほどのものか気になっていたのでな。」

「それで…どうでした?」

「ああ、強くなっている。少なくとも以前見られていた無駄な魔力消費は格段に減っている。思い切りもいいし、タフさも磨きがかかっている。」

「ベタ褒めじゃないですか。いいな。」

「俺は客観的に事実を言っているだけだ。」

「それなら俺とも特訓…いいですか?」

「遠慮しておこう。これでも俺は疲れているんだ。」

「そう、ですか。」

「お前は明日からも忙しいだろ。お前の力量は認めているから今日はもう休め。」

「そうですね。でもまたいつか、お願いしますね。」

「そうだな…。いつか、な。」

ジェイクはヒッカからバスターソードを受け取りながらそう答えた。

「約束ですよ?」

そう言ってヒッカはラッフェルを抱えて歩き出した。

「では今度こそ、お休みなさい。俺は朝イチでフレアランドに戻りますから、次会う時はヒュージアル都市で!」

「ああ。気をつけてな。」

「はい!」

ヒッカを見届けると、ジェイクはまた素振りを再開した。



自室に戻り、ラッフェルをベッドに運んだ後はヒッカもベッドにダイブした。

(ラッフェルも強くなってたな…。俺ももっと強くなるぞ!)

ヒッカは手のひらに風玉を作った。開けた窓の外から風が吹き込んでくる。

(まずはフレアランドに戻って…後はどうしようかな。)

パタンと窓を閉めた。部屋にはラッフェルの寝息が響く。

(【大地の賢人】と風属性のユニオン魔法ができるか試すか。それにもう一回、あの跡地も見てみたいな。しまった。どれくらいで武器改造が終わるのかも確認しないとな…。)

毛布に包まれると途端に意識が遠のいていく。

そのままヒッカは泥のように眠りに落ちた。


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