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60話 さて、今日も行ってきますか!

ヒッカはベッドから体を起こし、大きく伸びた。

ヒッカがフレアランドに戻ってから、すでに十日以上が経過していた。だが今日は待ち侘びた日だった。

(どんな感じになってるんだろう。)

昨日、鍛冶屋の親方の使いから連絡をもらった。ジェイクの武器が完成するから明日の昼過ぎにでも取りに来るように、とのことだった。

(これでジェイクさんも全力で戦えるんだろうな。早く届けたいな。)

ヒッカはまるで自分のことのように浮き足立っていた。

「さて、今日も行ってきますか!」

ヒッカは独り言を呟き、ベッドから飛び起きた。

このところ、父グランも母シェリーも帰りが遅かったり朝が早かったりと多忙な日々を送っているようだ。日によっては帰ってこないこともある。それでも、夜はどちらか一人は家に帰るようにしていた。

弟ローグは家にいる時は一人で過ごすことが多くなっていた。このことに対して少し寂しさを感じていたようだ。それだけにヒッカの突然の帰宅には、驚きよりも喜びが勝っていた。無論、グランとシェリーも喜んでいた。たまに家族四人で食事をすることになれば、それは軽いお祭り騒ぎだった。話題は尽きない。

(家族っていいな。)

旅の僅かな期間の帰郷で、ヒッカは改めて家族という存在の大切さを噛み締めていた。

(旅をしなかったらこんなこと思ってなかったかも。)

そばで寝ているローグを起こさないよう、手早く着替えていつもの母との特訓場に向かうヒッカ。ただ今日は、ヒッカ一人で向かう。向かう道中、ヒッカはグルングルンと宙返りを繰り返しながら飛んでいる。

機嫌のいい時のヒッカの癖だ。



特訓場に着いたヒッカはある魔法の練習をしていた。

「はっ!」

ヒッカは何度となく、魔法の練習を繰り返す。

「はぁはぁ。」

呼吸を整え、魔力を高める。

(だいぶ形になってきたぞ。これなら実戦でつかえそうだ。)

ヒッカは両手の人差し指をそれぞれ崖の岩山に向かって構えた。大きく呼吸をする。

「はっ!」

左手の人差し指から魔力を打ち出し、ワンテンポ遅れて右手の人差し指から魔力を打ち出した。右手から打ち出した魔力が左手から打ち出された魔力を包み込み岩山にぶつかる。その瞬間、魔力がぶつかった場所は隆起した。

(よし。感覚はこんなものか。)

ヒッカは手応えを感じていた。これでまた一つ、戦術の選択肢が増えたわけだ。



「そろそろ帰るか。」

気付けばいよいよ日も昇り始め、人々が活動し始める時間だ。ローグと話すのもまた、しばらく先になるのかもしれない。そう思ったヒッカは早々に家路に着いた。

「兄さんお帰り。」

「ただいま。」

ローグはすでに起きていた。朝食がまだのところを見ると、起きたばかりなのかもしれない。

「兄さん上手くいったの?」

「ああ。これでもっといろんなことができるぞ。」

「すごいな兄さんは。」

「ありがと。もっともっと特訓するぜ。」

「負けないよ!」

ローグのその言葉は強がりではなかった。それが事実、ローグはヒッカ旅立ち前に比べて、魔力量が増大していることが感じられた。毎日、魔力がスッカラカンになるほどの追い込みをかけてローグなりに特訓しているのだ。特訓メニューはグランが考案したものであり、グランが休みの日には特訓相手にもなっているようだ。

グランとローグの特訓にヒッカもついて行ったが、中々に興味深いものだった。

(負けてられないな。)

ヒッカは素直にそう思った。いつも兄ヒッカの後をついてきていたと思っていたローグ。それが今ではヒッカとは別方向の力をメキメキと付け始めている。ローグ自身もヒッカのことをいつまでも尊敬の対象のままではいられなかった、と言うことだろう。

「戻ってきたか。ヒッカ、おはよう。」

朝食の用意をしているグランが顔を出した。

「父さんおはよう。」



ヒッカはこの帰郷中、グランに【大地の賢人】を見せていた。

「これは驚いたな。一体どんなところでこんな魔法を覚えたんだ?」

初見のグランの反応は驚きに満ちたものだった。無理もない。シェリー仕込みの風属性を使っていたと思っていたヒッカが、まさか土属性魔法を使うとは思ってもみなかった。

グランの目算では【大地の賢人】は中位魔法相当に思えた。効果、発動の速さ、柔軟性、いずれもバランスが良い。魔法効果から、どちらかと言うと対人向きな【大地の賢人】はグランの興味を惹いた。

「土属性魔法はどちらかと言うと大雑把な効果が多い。それがお前のその魔法のはまるで子どもの遊びのような柔軟性のある効果だ。土でできた拳で殴るなど考えたこともなかった。作る物次第では戦いの幅も広がる。それに込める魔力量を大きくすればそれだけ効果が長くなり、より大きな物も作れるだろう。」

この時ローグは、ヒッカの魔法に少なからずショックを受けたようだ。『すごい兄さん』と言う想いよりも『自分もああなりたい』と強く思った。



ヒッカとグランとローグは食卓についた。今日はシェリーが不在の日のようだ。

「父さん。俺、今日から旅に戻るよ。」

「そうかそうか。もう少しゆっくりしていけ、とも言えんしな。気をつけて行くんだぞ。」

「兄さんもう行っちゃうの?早く帰ってきてほしいな。」

ローグは寂しそうな表情だ。グランもそれは同じ想いだろうが、はっきりと表情に出さないあたりは大人の余裕というところだろうか。

「次はいつ帰ってくるかはまだ分からないな。だけどローグもこの短期間で随分強くなっただろ?驚いたぜ。俺ももっと強くなるからどっちが強くなるか勝負だ。」

「うん。負けないよ。」

「その意気だ。」

ヒッカとローグはハイタッチをした。三人はしばらく話をしていたが、あっという間にグランが家を出る時間になってしまった。

「俺は城に向かう。ヒッカ、くれぐれも気をつけてな。母さんにも顔を出してから行ってやってくれ。」

「分かったよ。鍛冶屋のオヤジさんとこに行くのは昼過ぎの約束だからそれまでには。」

「ん。」

それを聞いて安堵したのか、グランはそのまま家を出た。家にはヒッカとローグの二人が残された。

「俺は家を出るまでまだ少し時間があるから、それまで話をしよう。」

思えば、ローグと面と向かってじっくり話し合う機会は久しぶりな気がする。ヒッカは旅に戻りたい気持ちがある一方で、ローグと過ごす時間もずっと続いてほしいとも思った。


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