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40話 直接、斬る!

「やっぱ炎属性相手には水属性なんスね。」

倒れたベアー種を見て、ラッフェルが感心したように呟いた。だがそれも束の間、ベアー種は再び立ち上がり、強烈な敵意を向けてきた。

「グォオオオ!グガォオオオ!!」

「そんなバカな。」

「あれだけの攻撃受けてもまだ向かってくると言うのか?」

怒り狂うベアー種。

「ゴオオオ!!」

地鳴りのような声が響く。ベアー種は再び炎の鎧を纏う。ライクの【ハイドロジャベリン】によって傷つけられた傷跡からも炎が吹き出している。

「まだやるんスね。」

「グォオオオ!ゴァ!ゴァ!ゴォオオオ!」

手当たり次第に火炎弾を打ち出すベアー種。

(無茶苦茶だ。だけどこんな戦い方、コイツ自身ももつのか?)

ヒッカは冷静に考えていた。



(いくら新種とは言え、そんなに簡単に炎属性に適合するのか?)

ヒッカの疑問はもっともだ。確かに野生動物から派生する魔獣の殆どは風属性か土属性を使う。それ故に炎を扱うにしても、もっと低位種別の魔法を操るものだと推察していた。

(ずっと魔力を纏っている…。いや、どちらかと言うと垂れ流していると言う表現に近い。その一方で、中位以上の威力の魔法をポンポンと連発する。魔獣だからと言って知能がないわけではないだろう。いや、むしろ知能はそれなりにあるはずだ。だったらこの後先を考えない戦いはしないんじゃないのか?まるで…。)

不意にヒッカは背筋が凍るような違和感を覚えた。

「グルルル…。」

低い唸り声が聞こえる。

「ひゃっ!」

「…!。」

「何故こんな時に!」

後方からウルフ種が姿を見せた。口元には炎をよだれのように垂れ流している。

「ばかなっ!」

「グルルル…。」

「ウウウ…。」

「囲まれてます!」

フィリーは完全に怯え切っていた。

「一、二、三、少し離れて四体か…!」

ヒッカはライクとフィリーの前面に立ち、剣を構えた。

「ジェイクさん!こっちにウルフ種が四体来てます!」

「何?」

「コイツらも同じく炎を使いそうです!ウルフ種は俺が何とかします!ベアー種はお願いします!」

「お前も無理はするな。敵わないと思ったらお前たちだけでも逃げるんだ!」

「分かりました!ジェイクさんもご武運を!」

ウルフ種は攻撃の機を狙っているのか、ジリジリとにじり寄ってくる。遠目に見える四体目は微動だにせずに様子見している。

「ライク!フィリー!大丈夫だからね。」

不安げな二人に優しく笑いかけるヒッカ。二人は不安そうながらも頷いた。無論、ヒッカとて不安がないわけではない。二人を守りながら複数体を相手にするのは容易ではない。

(…コイツらも炎を?一体どうなってるんだ?明らかにおかしい!)

ウルフ種がジリジリと距離を詰めてこようとする。ヒッカは抜剣したまま、ウルフ種をジェイクたちから離そうとしていた。

(…こっちに来い。)

ヒッカはライクとフィリーを一瞥した。ライクは動揺しつつもフィリーの背を撫でているあたり、他者を気にかける余裕はありそうだ。一方のフィリーはこれ以上の戦闘は酷だった。纏っている魔力も不安定であり、先程のように渾身の一撃が放てるかは疑問だ。

(大丈夫。俺が…。俺ならできる。)

ヒッカは自身を鼓舞していた。

(確実に一体ずつ仕留めるんだ…!)

大きく深呼吸し、魔力を集中させる。身に纏う魔力を一段と引き上げた。

「グググ…。」

ウルフ種は攻撃の機会を狙っているのか、ヒッカたちを睨みつけたままだ。バキバキバキと遠くで大木が倒れる音が聞こえた。

(ジェイクさんたちか?こちらも負けてられないな。)

ヒッカがそんなことを思った矢先、ウルフ種たちが攻撃を仕掛けてきた。奥でたたずんでいた一体が遠吠えしたのを皮切りに、三体が火炎弾を打ち出した。

「っ…!」

咄嗟に左手で【ガストシュート】で撃ち落とし、魔力を込めたバスターソードの腹で続く火炎弾を打ち払う。

「!!」

最後の火炎弾は魔力を込めたマントでどうにか逸らした。

(危なかった…。)

ヒッカは安堵したのも束の間、とてつもない悪寒が背筋を走った。

(奥の一体がいない?どこに??)

ザザザーッと、近くの茂みが揺れる。

(やられた!)

ボス格なのだろうか。取り巻きのウルフ種より一回り大きいそのウルフ種は真っ直ぐフィリーに向かっていた。

(させない!)

ヒッカは咄嗟に【エアライド】で突撃する!勢いそのままに魔力を込めたバスターソードを深々とウルフ種に突き立てた。ぶつかった衝撃でウルフ種は倒れ、ヒッカも空に投げ出された格好だ。

(まずい!)

バスターソードはウルフ種に突き刺さったままだ。取り巻きのウルフ種はボス格に続けと言わんばかりにフィリーたちに向かっている。ヒッカはすぐさま【エアライド】で体勢を立て直す。

「フィリー!下がって!!」

ヒッカは【ガストシュート】を放った。だが、無理な体勢で強引に打ち出した【ガストシュート】はウルフ種の火炎弾で撃ち落とされた。

(なら…!)

ヒッカは地面に降り立ち、【サイクロン】を放った。二体のウルフ種を空高く打ち上げることに成功した。

(一体足りない!どこに…!?)

地鳴りが聞こえる。

(いや、フィリーたちは?)

ヒッカはフィリーたちの方に目線を向けた。二人とも無事なようだ。

(無事なら良かった…。)

そう思ったのも束の間、【サイクロン】から逃れた一体がヒッカに向かってきた。ヒッカは瞬時に魔力を高め、指先に魔力を集中させた。

ドン!と大きな何かがヒッカの目の前を横切り、ウルフ種を弾き飛ばした。ギャン!と悲痛な声をあげ、地面に横たわるウルフ種。続いて、ドンドン!と空に打ち上げた二体のウルフ種が落下してきた。

「コイツは…!?」

大きな体躯に、ツノが特徴のライノス種だった。

「こんなことってあるのか?」



ヒッカがそう思うのは無理からぬ話だった。この辺りに棲息しているライノス種はキングライノスくらいだ。だが、コイツも炎を纏っている。

(何でこんなに炎を操る魔獣が多いんだ?)

だがヒッカにそれを考える余裕はなかった。あたり構わず木々を薙ぎ倒しながら荒れ狂っている。

(今のうちに…!)

ヒッカは剣を突き立てたウルフ種に向かう。

「ガルルル…」

まだ息はあるようだ。だが、剣が刺さったままで動きは鈍い。ヒッカはチャンスとばかりに攻勢を仕掛ける。

「【ガストバースト】!」

ウルフ種の頭部を跳ね飛ばし、バスターソードを回収する。そして地面に横たわっている残りのウルフ種二体にも素早く止めを刺した。

「残りは…。」

ヒッカが魔力を纏った大立ち回りを演じたため、ライノス種はヒッカをターゲットに見定めたようだ。

「…。」

呼吸荒くヒッカを見つめるライノス種。その刹那、地響きをたててヒッカに突進してくる。

「【サイクロン】」

ヒッカは十八番の魔法を放った。が、ライノス種は全身の炎の鎧と突進するスピードで【サイクロン】を真正面から打ち破った。

(まずい!)

ライノス種の動きに対して咄嗟に避けるヒッカ。ライノス種はスピードを落とすことなく目の前の大木を薙ぎ倒していく。

(さっき見たのはコイツが通った後だったんだ…。)

足を止めたライノス種はゆっくりとヒッカに振り向いた。

(【サイクロン】がダメなら、これで…!)

ヒッカは指先に魔力を集中させる。それを見るが早いか、ライノス種も再びヒッカに向かって突撃してきた。

「【ガストバースト】!」

凄まじい風圧の魔力がライノス種目掛けて放たれる。だがライノス種は構わず突っ込んでくる。

(…!)

ライノス種は自慢の角に一際大きな炎を携え、ヒッカの【ガストバースト】にぶち当たって行く。

ッパァン!と大きな音と共に【ガストバースト】は弾けた。

「くそ!」

(やはり単純な風属性魔法だけだと厳しいか。なら…!)

ヒッカはバスターソードに魔力を込める。

「直接、斬る!」

得意の【エアライド】で一気に距離を詰めるヒッカ。そして勢いそのままに、バスターソードを真っ直ぐに振り下ろした。


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