41話 二人とも逃げろ!
ヒッカはただただ驚いていた。
「こんなことって…!?」
ヒッカが驚くのも無理はない。ヒッカ渾身の一撃は、ライノス種の角に阻まれていた。思わず咄嗟に距離を取るヒッカ。ライノス種は何事も無かったかのように振る舞っている。
(いくら自慢の角でもバスターソードを受けて無傷だなんてありえない。いや、そもそも剣を角で受けるだなんて、そこまでの知能はあるのか?)
ヒッカはバスターソードを握りしめた。
(とにかく、この新種は危険だ!)
再びヒッカに向かって突撃してくるライノス種。攻撃をかわしながらバスターソードで切り付ける。だがライノス種の纏う炎の魔力が、ヒッカのバスターソードを拒む強固な鎧となっている。
(もっと魔力を上乗せするか…?)
ガン!ギン!ブン!ヒッカの剣はライノス種の角に阻まれ、或いは炎の鎧でいなされていく。
(剣では分が悪いか。風魔法も通じないのにどうすれば…?)
ライノス種は再び突進の構えをとっている。
(一か八かでバトルガルーダの時の炎魔法なら!)
ヒッカはバトルガルーダを打ち倒した際に放った炎魔法のことを思い出した。
(えっと。どうやったんだっけ?)
ドドドと地響きが起こる。ヒッカは我に戻り、ライノス種の突撃をかわした。
「はぁあああ!」
大きく身を翻したヒッカは、魔力を集中させる。ライノス種がヒッカに向き直った。
「はっ!」
無我夢中で放ったあの時の構えで集中させた魔力を打ち出す。だがそれは以前に放った炎魔法ではなく、魔力をそのままぶつけるものだった。バァン!と大きな音と共にライノス種が大きくのけ反る。
(よし。こないだの炎属性の魔法じゃなかったけど少しは効果あったかな。)
ヒッカは再び魔力を集中させ始めた。
一方、ジェイクとラッフェルはベアー種との戦いを続けていた。
「ラッフェル下がれ!」
「っス!」
「おおおぉ!」
大きく振りかぶり、ベアー種に斬りかかるジェイク。ラッフェルに気を取られていたベアー種はジェイクの一撃を受けた。
「グォオオオ!」
「浅いか!?」
「ええい!」
ジェイクに向き直ったベアー種に向けて、ラッフェルがフレイムソードで追撃を加える。ザシュッ!とベアー種を切り裂いた。
「これでどうだ!」
切り抜けた後にすかさず【ファイアボール】を傷口に目掛けて放つ。
「ギャウウ!」
ラッフェルの追撃に怯んだベアー種に対し、ジェイクは剣に十分な魔力を込めた一撃を加える。その一撃はベアー種の右腕を切り飛ばした。
「ギャゴオオオ!」
「止めだ!」
「っスね!」
ジェイクはベアー種の胴体を切り裂くように剣を振るった。
「とりゃー!」
ラッフェルはその好機を逃さず、ベアー種の頭部に燃え盛るフレイムソードを突き刺した。
「…!!」
倒れ込むベアー種。
「やったか?」
「手応えありっス!」
「いや待て。何かおかしい…。」
ベアー種はピクリとも動かない。だが、まだ纏う炎は消えていない。
「ラッフェル。下がれ。」
「…。」
コクリと頷き離れるラッフェル。ジェイクは用心深くベアー種に近づいた。ベアー種が動く気配はない。
「…。」
静かに魔力を高め、ベアー種の首に剣を振り下ろした。切り落とした切断面から炎が溢れた。
「くっ!」
ベアー種から距離をとるジェイク。それでも吹き出す炎は徐々に弱まっている。
「…どうやら、倒せたみたいだな。」
「疲れたっス〜。」
二人とも呼吸を整え、小休止している。やがてベアー種から吹き出す炎は、かなり小さくなっていた。
「ヒッカたちは?」
「ここからは離れてるみたいっスね。」
「焼け焦げた跡がある。こっちの方か。急ぐぞ!」
「了解っス!」
(相手の数が多かったから逃げてくれてればいいが。無事でいてくれ。)
二人は森の奥に向かった。
「はぁはぁ。」
「ゴシュー。ブシュー。」
(コイツ本当にしぶといな…。いい加減倒れてくれよ。)
ライノス種はヒッカに向けて攻撃体勢をとっている。
(次は特大のをぶちかましてやる!)
今一度、全身の魔力を高めるヒッカ。それに呼応する様に突進するライノス種。
「いっけえぇぇぇー!」
ギリギリで突撃をかわし、特大の魔力をぶち当てるヒッカ。巨体のライノス種を吹き飛ばす、正に渾身の一撃だった。
「やった!」
ガッツポーズをするヒッカ。
「ヒッカくーん!」
茂みから顔を出すライクとフィリー。
「まだ危ない。少し離れてて。」
無事である二人の様子を見て安堵したヒッカ。が、不意に背後から悪寒を感じた。
「なっ?」
「ゴヒュー。ゴヒュー。」
ライノス種が纏う炎はさらに巨大となっていた。ボロボロと外皮が焼け剥がれている部分も見える。口元からは光を帯びた炎が顔を覗かせている。
「やばい!」
咄嗟にヒッカは【サイクロン】を放つ。同じタイミングでライノス種は火球を連続で打ち出してきた。【サイクロン】が巨大な火柱となり、天を貫く。ライノス種の火球は全て【サイクロン】で受け止めることができたが、攻撃にはなり得ていなかった。
(また直接魔力をぶつけるしかないか?)
再びライノス種の口元に炎がたぎる。ヒッカは魔力を高めながらライクたちと反対側に移動していった。正確にヒッカを捉えているライノス種は再び口を開け、今度は炎熱線を吐き出した。
「うわぁあああ!」
木々が炎熱線で薙ぎ倒されるのを見たヒッカは、直感で【エアライド】で空に逃げた。
(…!)
ヒッカは炎熱線の通った跡を見た。
(マントで受けてたら無事ですまなかったかもしれない。)
ライノス種は空に逃げたヒッカに一瞥をくれ、彼方に視線を落とした。その先にはライクたちがいる。
「二人とも逃げろ!」
ヒッカはそう叫びながら、ライノス種に向かい降りていた。
(まずい!)
「師匠!降りてこないで!」
ラッフェルの声が聞こえ、思わず空中で停止するヒッカ。
「【ファイアバースト】」
ジェイクの炎がライノス種に直撃した。
「きゃあ!」
ライクたちに向けられていた熱線は、ライクたちに直撃することなく逸れた。ジェイクのその凄まじいまでの炎で、ライノス種は大きく体勢を崩したからだ。
「ジェイクさん!」
「話は後だ!まずはコイツを仕留めるぞ!」
「はい!」
どうやらライノス種は今度はジェイクを攻撃対象と認識したようだ。ジェイクも剣を抜く。
「ラッフェル!お前はフィリーとライクを連れて離れるんだ。射程距離ギリギリで良いから水魔法をアイツに打ち込むようにしてくれ。」
「了解っス!」
「ヒッカ。お前はまだ戦えるな?」
「大丈夫です。それにジェイクさんたちがいれば勝機が見えます。」
「そう言うのは後だな。お前はアイツの体勢を崩してくれ。俺が奴を仕留める。」
「分かりました!」
再び魔力を高めるヒッカ。その魔力はさらに力強さを持ち、まるで魔力の嵐をその身に纏っているかのようだ。
「行くぞ!うわぁあああ!」
ジェイクも魔力を高める。
「はぁああああ!」
危機を察したのか、ライノス種が熱線を放つ体勢になった。盾を備え、鎧を着込んでいるジェイクとて、あの威力の熱線が直撃すれば無事ではすまないだろう。それでもジェイクは真っ直ぐにライノス種に向かっていく。ライノス種の口元の炎が一段と大きくなる中、そこに向かって突撃するジェイクの行動は、常人には理解し難い蛮行であった。
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