38話 どれが本当のことか分からないっスね…
「食べながらで良いから聞いてくれ。今日の予定を話す。」
ヒッカたちは、それぞれコクコクと頷きながらジェイクを見た。
「俺はギルドで炎のウルフ種の依頼を受けてくる。情報収集もするが、フレアランドのギルドの反応から期待できないかもしれない。ヒッカはラッフェルの冒険者登録をしてやってくれ。」
「はい。」
「師匠!よろしくっス!」
「それでお前たちはどうする?」
ジェイクはライクとフィリーを見た。
「私はみんなについて行きたいな。」
「私もついて行きたいです。」
「その意気だ。ヒッカ。ライクとフィリーも冒険者登録を頼んだぞ。受付で手続きを聞くと良い。」
「分かりました!」
頷いた後にジェイクは話を続ける。
「さて、お前たちは冒険者登録が終わったら今日一日の馬車を手配して俺を呼び出してくれ。食料を調達したらいよいよ討伐に向かう。」
パシ!『腕がなるぜ』と言わんばかりにラッフェルは左の掌に右拳を打ち当てた。
「食べ終わった者から準備して、この宿のフロントで待ち合わせだ。あまりに遅いと置いていくぞ。」
そう言うとジェイクは席を立った。
(炎のウルフ種…。どんなやつなんだろ。)
ヒッカは空になったスープ皿を見つめていた。
(分からない…。ここは慎重に行くべきだな。そう言えばフォーメーションはどうする?普通に考えたらジェイクさんとラッフェルが前衛で、俺が中衛、ライクとフィリーが後衛だよな。)
ちらりとライクの方を見た。ライクはフィリーとのおしゃべりに夢中のようだ。
(危なくないかな。いや、二人の魔法は見せてもらった。炎属性相手の今回の討伐では二人が切り札になるかもしれない。それに…。)
ヒッカは腕組みをしたまま天井を仰いだ。
(ライクもフィリーも俺がしっかり見ておけば良い。俺ならできるはずだ。そのためには…。)
「師匠?」
「どうした?ラッフェル?」
「そろそろ行くっス!もう師匠だけっスよ?」
ふと周りを見渡すと皆は朝食の片付けまで終わっていた。後は自室で準備するだけだ。
「うわ!みんないつの間に!ごめんすぐ行く。」
慌ててヒッカは手に持ったままのパンを口に入れ、ミルクで流し込んだ。
「これでよし。」
「後は待つだけっスね!」
「何だかワクワクしちゃうね〜。」
「はい。私も冒険者になるなんて思ってもなかったです。」
ギルドでヒッカは三人の冒険者登録を終えた。朝も早いのに、他にも大勢の冒険者がいる。
「あれ?ヒッカくんは?」
「師匠ならあそこっスね。」
ヒッカは受付で何やら話をしている。やがて、こちらに向かってきた。
「冒険者ライセンスが出来るまでまだ時間かかるみたいだ。俺は今のうちに馬車を手配しておくからみんなはここで待ってて。」
「え!俺も行くっス!」
「すぐに戻ってくるさ。それにラッフェル。君はいざと言う時に備えて、大事な妹とライクを守ってて欲しい。」
「…確かにそうっスね。」
少し考えラッフェルは素直に待つことにした。入れ替わりでジェイクが戻ってきた。いつも以上に眉間に皺を寄せている。
「どうかしたっスか?」
「少し変なんだ。」
「変?」
「ああ。今回の討伐対象はどうやらウルフ種ではなく、ホース種のようだ。」
「ホース?ウルフ種とホース種だと全然違うっスよね?それにホース種ってそんなに凶暴なイメージないっス。」
「ホースって馬だよね?なんなら私たちはそこまで馬車で行くんでしょ?本当に凶暴なら人に慣れることもないと思うし…。」
「そうは言ってもな。何せ情報が少ないんだ。見間違いかもしれないし、あるいは新種かもしれない。」
「気になりますね。少し怖いです。」
少し怖気付くフィリーの肩にラッフェルが手を置く。
「大丈夫だって。俺に師匠やジェイクさんがいるんだぜ?きっと楽勝で倒してくれるって!」
「私もいるよ!私を忘れるなんて酷い!」
「そ、そんな。ちょっと…いや。秘密兵器だから敢えて伏せたんスよ!」
「なるほど。秘密兵器ね。」
「っス!」
「ってその手には乗らないわよ!調子いいんだから。」
「ごめんス!ライクさん。」
「もうお兄ちゃんたら。しっかりしてよ。」
吹き出すように笑うフィリー。良くも悪くも緊張感は薄れたようだ。
「ところでヒッカは馬車の手続き中か?」
「そうっス!そろそろ戻ってくると思うっス!」
「そうか。しばらくここで待つとするか。」
やがてヒッカが戻ってきた。
「馬車の手配をしてきました。外に待っててもらってます。」
「すまないな。よし。みんな行くぞ。」
「あ!その前に俺たちの冒険者ライセンス!」
「そうだね。そろそろできてるかも。ジェイクさん。みんなの冒険者ライセンス取りに行ってきますね。」
「ああ。」
「じゃあみんな、行くよ。」
ヒッカは三人を連れ立って受付に向かった。それを見送ったジェイクはまた一段と眉間に皺を刻んだ。
(…この件、やはりお前なのか…だとしたら、俺は…!)
「うわー!」
「お兄ちゃん、はしゃぎすぎだよ〜。」
「そう言うなって!これは俺の偉大な始まりの一歩なんだぜ!」
「もう。本当に子どもなんだから。」
「いいじゃない。私だって自分の冒険者ライセンスが貰えてちょっぴり嬉しいよ。」
「ほら!ライクさんもテンション上がるって言ってるんだぜ!?」
「はいはい。」
まるで子どもを嗜めるように話すフィリーにヒッカは思わず笑ってしまった。が、すぐに口元を引き締めた。
「浮かれる気持ちは分かるが、みんなで行う初めての本格的な討伐依頼だ。頑張ろうぜ!」
「っス!」「うん!」「はい!」
「よし。ジェイクさんとこに合流して出発だ!」
「お。」
ヒッカたちを見つけたジェイクは椅子から腰を上げた。
「ジャーン!」
ラッフェルは元気よく自らの冒険者ライセンスをジェイクに見せつける。
「良かったな。さて、行くぞ。」
「え〜。ジェイクさんつれないっス〜。」
「…。」
ラッフェルを一瞥して歩みを進めるジェイク。
「俺、何かしたんスか?」
「ほら、俺たちも行くぞ。」
「…。」
「気にしすぎさ。それに『偉大な始まりの一歩』なんだろ?早く行くぞ!」
「っス!」
五人は馬車で作戦会議を始めようとしていた。ジェイクが持ってきた依頼書を囲むように皆が座る。
「あれ?」
ヒッカの素っ頓狂な声にみんなが注目する。
「どうした?」
「これ、、、ホース種なんですか?」
「そうだ。ウルフ種と聞いていたんだがな。もしかしたら新種かもしれない。慎重に行くぞ。」
「ん〜。聞き間違いかもしれないんですが。」
「何かあったのか?」
「それが、俺聞いたんです。ギルドで『仲間が炎を使うベアー種にやられた』って。」
「ベアー種?ウルフ種でもホース種でもなくか?」
「はい。何でも炎を纏う爪で、武器や防具もあっという間に壊されてパーティーはなす術なく壊滅状態になったみたいです。」
「…。」
「…。」
「どれが本当のことか分からないっスね…。」
「まるで牧場みたいだね!」
「…。」
「…。」
「あはは。ごめん。」
ライクは努めて明るく振る舞ったが場の空気は重いままだ。
「ライクごめんね。ジェイクさん。まずは依頼書にあったホース種の対策から練っていきますか?依頼書に書かれているくらいだし、複数人で目撃されてるかもしれません。」
「そうだな…。だが、ここまで情報が錯綜している以上、ウルフ種とベアー種についても特徴と対策を練っておくぞ。」
「「「はい!」」」「っス!」
ジェイクはそれぞれの特徴を説明した。ヒッカも書物や両親から教わった知識を披露した。
それぞれの役割も決めたところで、やがてヒッカたち一行はイベルンテの町の更に東方の開けた山に入ろうとしていた。
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