37話 何だ?二人して秘密の特訓か?
「よし!今だ!」
「っス!【ファイアボール】」
「【ガストシュート】」
ラッフェルが放った【ファイアボール】にヒッカが【ガストシュート】をぶつける。ドン!と空に大きな爆発音が響いた。
「だんだん要領を掴めるようになってきたな。」
「っスね!にしてもユニオン魔法ってすごいんスね。俺の【ファイアボール】の威力がめちゃくちゃ上がってる気がするっス!」
「そうだな。実際には魔獣なんかにぶつかるタイミングで発動させると良さそうだ。」
ヒッカが笑いかけながら言った。
「俺たちのユニオン魔法があれば怖いもの無しっスね!」
「おいおい。それはちょっと早計すぎないか?魔獣との実戦ではお互いの連携が取れてないとうまく発動できないんだぞ。」
「えー。」
「えーじゃない。合わせるのもそれなりに難しいんだぜ。タイミングや魔力量を適切に計らないと、効果的なユニオン魔法を発動できない。早すぎても遅すぎてもそれはただの単発の魔法になる。魔力量が低ければ消費魔力に見合った威力にはならないし、逆に魔力量が多すぎると相殺してしまうことだってある。」
「無駄うちになるってことなんスか?」
「もちろんだ。ただ、優位属性が打ち消されるほどになるには、よっぽどの魔力量差がないとダメだけどね。そうなったら悲惨だぜ。お互いに魔力を使った結果、ただの目くらましにしかならない場合だってある。」
「むむむ。」
「そんなに難しい顔をするなよ。俺が合わせるんだから、ラッフェルは自分のタイミングで攻め続ければ良い。」
「っス!」
「よし、その意気だ!あと三十本行くぞ!」
「師匠。それはマジっスか?」
「ん?そうだよ。せっかく要領が分かってきたんだ。もっと精度を高めたい。」
ヒッカの提案に驚きを隠せないラッフェル。
「師匠の魔力は底なしっスね…。でもこれが冒険者への一歩なんスよね!」
「かもね。俺は魔導士が目標だけどな。」
少し意地悪く言うヒッカ。だがすぐに真剣な眼差しになる。そして、それをラッフェルに特訓再開の合図と受け止めた。
「それじゃいくっス!【ファイアボール】」
「【ガストシュート】」
先ほどより一際大きな爆発音が響いた。
「っはあ。はぁ。」
「…。」
「【ファイア…ボール】」
ぼすっと言うやや魔の抜けた音とともにラッフェルの【ファイアボール】がヒッカの眼前で爆ぜた。いや、不発と言った方が近いか。
「師匠。ちょっと無理かもっス。」
「そうか。」
汗だくでへたり込むラッフェルとは対照的にヒッカは涼しい顔をしている。
「宿に戻って少し休むか。」
「面目ないっス。もうちょっといけるつもりだったんスけどね…。」
結局、ラッフェルは【ファイアボール】を十八発放ったところでギブアップとなった。十八発目を不発とするならば成功数は十七発であり、どうにか当初予定の半分までは撃てた。
「仕方ないかもね。ラッフェルは元々戦士タイプとしての訓練を積んでたんじゃないのか?」
「そうっスね。自己強化の授業は受けたことあるんスけど殆ど我流っスね。【ファイアボール】も見よう見まねで覚えたんス。」
「そうか。見よう見まねってことは何か切っ掛けがあったのか?」
「そうっス。フィリーと食べ物を探して山に入った時なんスけど…。」
ラッフェルは、少し昔の話をした。山の中でどうにか果物を得ることはできたが道に迷ってしまったこと。日も暮れて魔獣に襲われる危険を感じて二人して不安になり、フィリーが泣き出したこと。その泣き声にひかれるように魔獣に囲まれていたこと。
「多分五、六匹はいたと思うんス。ああ、俺ここでコイツらに食われちゃうんじゃないかと思ったもんス。近くの石を投げたり持ってきてた剣をブンブン振り回してたっス。でも全然逃げてくれなくて…。」
少し自虐的に笑うラッフェル。
「その時なんスよ。偶然冒険者が俺たちのとこに来てくれて、あっという間に魔獣をやっつけてくれて…。」
「…。」
「その冒険者は炎使いした。あっという間に魔獣を倒して、冒険者ってすごいなって思ったんス。」
「それは運が良かったな。」
「スね。今でも思うっス。それで、安心してたところに横からもう一匹飛び出して来たんスよ。フィリーを狙ってたんスけど、怖くて動けなかったっス。」
「…。」
「でもあの冒険者さんは、まるで魔獣が来るのが分かってたのかソイツに巨大な火の玉をぶつけたんス。」
「それって。」
「ソイツはそのまま消し炭になっちゃいました。その後、俺たちはその冒険者に町まで送ってもらったんスよ。」
「それってジェイクさん?」
「違うっスね。ジェイクさんもすごいっスけど、戦い方が全然違ったス。炎の拳で殴りつけたり、蹴りで魔獣とやり合ってました。最後の一匹を倒したのも火の玉でしたし。ジェイクさんよりもオジサンスね。」
「そうか。それでその人は今どうしてるんだ?」
「分かんないっスね。町まで送ってくれた後はそのままお別れしたんス。何でもすごい炎使いがいるから、その人を探してるみたいした。その人は冒険者だったし、炎使いならフレアランドに向かったのかなって思ってここまで来た感じっスね。」
「そうだったんだ。」
「フレアランドに向かう途中でも危なかったから、俺本当に運が良かったっスよ!」
いつもように歯を見せて笑うラッフェル。
「そう言えばジェイクさんも人を探してるんだっけかな?」
「案外探し合いっこしてるかもっスね!」
「だな。さて…。」
「?」
「そろそろいいか?宿に戻るぞ。」
「師匠は本当にタフっスね。」
差し出されたヒッカの手を取るラッフェル。
「よし、行くぞ。」
【エアライド】を唱えたヒッカはラッフェルを引き連れて空高く翔け上がった。
宿の裏庭で長剣を片手で振り回すジェイク。
「ん?」
「あれ?」
空を見上げたジェイクとヒッカは目が合った。
「おはようございます。ジェイクさん。」
「ああ、早いな。」
「おはようっス!ジェイクさん。」
「何だ?二人して秘密の特訓か?」
「そうっス!必殺技習得してきたんスよ〜。きっとビックリすると思うっス!次も任せて欲しいっス!」
「ほう。随分な自信だな。ユニオン魔法でも練習してたのか?」
「え!?何でそれを?」
「当たりか。」
「当たりっスけど何で分かったっスか?」
「何でと言われてもな。ヒッカと一緒にいて必殺技と言うくらいのものとなるとユニオン魔法くらいしかなくてな。こないだのガッツは認めてるが、基礎無くして応用には至らない。となると魔法に精通しているヒッカがお前に合わせて何かするのが早いだろう。それに炎属性は風魔法に対して優位属性だからな。お前たち二人の相性も良いだろう。」
「なるほどっス!」
「で、実際どうだ?ヒッカ。実戦では使えそうか?」
「そうですね。威力はそこそこだし、速さもあるので小型程度の魔獣なら一撃でいけそうです。」
「そうか。今回の相手はウルフ種だが当てられそうか?」
「大丈夫です。手だては考えてあります。」
「なら問題ないか。よし。頼んだぞ。」
「はい。では俺たちは朝食まで少し休んでおきます。」
「ああ。」
「それじゃっス!」
ヒッカとラッフェルは自室に戻って行った。ジェイクは二人を見送った後、再び長剣を振り回し始めた。
「はっ!はっ!はっ!!」
ジェイクのその表情はどこか鬼気迫るものがあった。
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