36話 待っていろギース…!
「それではいただくとしよう。」
「「「「はーい!」」」」
彩鮮やかな料理が並ぶ。皆はそれぞれに食事を口に運ぶ。とりわけ、ヒッカとラッフェルは凄まじい勢いで食べている。
「まったくお前たちは…。」
少し呆れ顔のジェイク。
「これうまいっスー!」
「ジェイクさん。これもう一皿良いですか?めちゃくちゃ美味しいです!」
机に並んだ料理が瞬く間に空になっていく。
「構わないが明日も魔獣を狩ってもらうぞ。」
「了解っス!」
「ジェイクさん。明日の魔獣の特徴を教えてください。」
「ああ。そうだな。次も大型ウルフ種と聞いている。」
「またウルフ種っスか?この辺てそんなに多いんすね。」
「そうだな。ただ、魔獣討伐の依頼はここまで多くなかった。ここ最近、数が増えてきている。少し異常かもしれない。それに、次の相手は一筋縄ではいかないかもしれない。」
「と言うと?」
「魔獣では珍しく炎を使う、らしいと言うことだ。」
「炎を操る魔獣か…。」
顎に手を添えるヒッカ。ヒッカは自分の知識を振り返ってみた。確か、本で読んだ限りでは炎属性を操る種族はドラゴンやその近縁種が殆どだったはずだ。特にウルフ種のように山に棲家にしている種族は、一般的に風属性を操る。土属性であることもあるが、やはり数は少ない。
(それに…。)
風属性にとって炎属性は相性が悪い。
(自分にとって苦手とする属性を習得して、多種族より優位に立とうとした結果なのか?)
ヒッカは腕組みをしながら天井を仰ぐ。
(いや、それならもっと昔から炎を操る魔獣の目撃例があってもいいはずだし、研究も進んでるだろう。事例が少ないからこそ、こうして討伐依頼がギルドに来てるんだろう。)
ここでヒッカは一つ、気にかかることをジェイクに質問した。
「ジェイクさん。」
「ん?」
「敢えて『討伐依頼』が出てるってことは、やっぱり危険な相手なんですかね?」
「そうだ。」
「何で『討伐依頼』だと危険な相手なの?」
「単純に生け取ることが難しいと思われるんだ。生け取りには相手の生態を知っておく必要があるけど、俺の知る限りでは炎属性を操る魔獣は聞いたことがない。つまり、新種や変種の可能性があるんだ。」
「ふむふむ。それが討伐にどう関係してくるの?」
「この手の場合、研究者たちは研究対象にするために生け取りを希望すると思うんだ。だが、それが現実として生け取りではなく、『討伐依頼』になっている。これは研究よりも討伐が優先されていることになる。」
「うん。」
「生け取りの方が得られる研究として得られる情報は多いのに、討伐を優先すると言うことは生け取りが難しい相手の可能性が高いと言うことだ。もしかしたら、当初は『捕獲依頼』だったのかもしれないけど、依頼達成されずに被害が拡大するためにやむなく『討伐依頼』にしたことも考えられる。」
「なるほど〜。」
「それだと、今日倒したウルフ種よりもやばいってことっスか?」
「そうだね。」
「それならまた俺にやらせて欲しいっス!」
腰の剣に手を添えてラッフェルが言う。
「ラッフェル。今回のやつは昼間の奴らとは訳が違う。一人で任せることはできない。」
「そんなぁ。俺だって今日結果出したのに…。」
「誤解するな。お前に任せるのは無理だと言っているつもりはない。討伐にはパーティーで臨むつもりだ。ただ、今の状況では俺たちは殆どターゲットの情報を待っていない。」
「…。」
「それに、昼間の奴らは風属性の魔獣だ。お前の炎属性は風属性に対して優位に立てる。が、今度の相手にはその優位さがない。」
「そうかもしれないっスけど…。」
「単純に考えれば、炎属性相手には水属性だ。ただ、俺たちのパーティーが使える水属性魔法は今回の戦いに相性が悪い。ライクとフィリーの魔法はどちらかと言うと大型向きだからな。素早く動く標的には当てづらいだろう。」
「そんなの、動きを止めれば何とかなるっスよ!」
「どうやって?力ずくで押さえつけるにしても、炎を纏われていたらこちらもただではすまない。魔法で抑えつけられそうなのはヒッカだが、ヒッカの風属性は炎属性に相性が悪い。」
「そんなぁ。それなら打つ手ないじゃないっスか!?」
「今のままではな。だからこそ情報収集して、対策を取るのさ。」
「それで情報収集すると勝ち目はあるんスか?」
「それをどうにかするのが冒険者だ。蓋を開けてみれば全然大したことないと言う可能性もゼロではない。」
「それじゃ罠を仕掛けるのはどうなんですか?」
「落とし穴とか?いいね!穴に落ちたところを私たちの水魔法でやっつけられるかも!」
「落とし穴か…。現状では何とも言えないが、試す価値はあるかもな。」
「私、頑張ります!」
「頼もしいね。」
「俺だって穴くらい掘れるっス!」
「まあ待て。魔獣討伐は遊びではない。特に今回は事前情報を得られない可能性もあるしな。下手をすると怪我をするだけではすまないかもしれない。魔獣討伐には俺の指示に従うように。」
全員がこくりと頷く。
「よし。ならそろそろ各自の部屋に戻り、明日に備えておくように。朝のうちにギルドに行ってそのまま情報収集するぞ。」
「はい!」「っス!」「はーい!」「はい!」
それぞれが元気よく応え、夕食会は解散になった。
「師匠は…。」
「どうした?」
「師匠は炎属性相手にどう戦うんスか?」
ヒッカと同室のラッフェルは、ヒッカにそう質問した。
「どう、って。どうかな?俺は俺にできることをするだけだしな。」
「でもジェイクさんが言うには風属性は不利なんスよね?しかも怪我するかもしれないって。」
「かもね。」
「何だか余裕っスね。やっぱり何か奥の手があるんスよね?」
「そんなものはないさ。確かに一般的には炎属性に対して風属性は不利だ。だからと言って、何もできない訳ではないだろ?」
「例えばどんなことっスか?」
「例えば、属性攻撃は一切しないでひたすら無属性強化で攻める。風属性の攻撃は牽制程度に使って攻撃の機会を作る。ユニオン魔法でラッフェルやジェイクさんの炎属性を強化する。とかさ。」
「色んなことがあるんスね。でも俺、ユニオン魔法なんて使ったことないっス。どうやるんスか?」
「そんなに難しい話ではないさ。攻撃のタイミングでそれぞれの魔法を合体させるイメージかな。基本は俺がラッフェルたちに合わせる感じで風魔法を放つ。」
「了解っス!」
「そうだ。明日早めに起きて少し練習するか?」
「さすが師匠!ぜひぜひお願いっス!」
「なら明日に備えて今日はゆっくり休むか。」
「っスね!」
ヒッカとラッフェルはそんなやり取りをしている頃、ジェイクは武器の手入れをしていた。
(今度こそ…。)
剣を磨きあげる。
(仕留めてやる。)
右手で剣をゆっくり構える。
(逃がしはしない。何処までも追いかけてやる…!)
ジェイクの魔力が高まる。
(ふー。)
目を瞑り、大きく深呼吸する。
ジェイクは危うく高めた魔力を解放した。
(ここまで来たんだ。それに今度は一人ではない。落ち着け…。)
「待っていろギース…!」
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