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35話 冒険者の夢が叶うね

「ジェイクさん?」

ヒッカは少しウンザリした顔でジェイクに呼び掛けた。

「なんだ?」

ジェイクは至って涼しい顔だ。

「馬車の旅ってこんなに魔獣と出くわすんでしたっけ?」

「そうだな。少し多いかもな。」

「えー。」

ラッフェルが疲労を露わにする。

「冒険者になりたいんだろ?いいじゃないか。何事も練習は大事だ。」

ジェイクは淡々と語る。


「旦那ぁ。あそこの茂みからまた出そうでさぁ…。」

馬車の御者が弱々しくジェイクに声をかける。

「分かった。ラッフェル、出番だ。」

「人使い荒いんスからぁ〜。」

そう言いながらも剣を手に取り、馬車から飛び降りるラッフェル。

「ラッフェル。行けそう?」

「大丈夫っス!もう慣れたもんスよ!」

ラッフェルは音のする茂みに向けて【ファイアボール】を放った。

「ギャウ!」

と、黒い影が飛び出した。大型のウルフ種が三体だった。

「…へへ。」

ラッフェルは物怖じせずに剣を構えた。ウルフ種はラッフェルを見据え、攻撃の機会を探っている。かに思えたが、迷わず二体が飛び込んできた!

「それ!くらえ!」

ラッフェルは瞬く間にフレイムソードに魔力を込めて剣を振るう。二体のウルフ種はそれぞれ一撃の元に切り伏せられていた。

「どうだ!」

ラッフェルは楽勝だとでも言わんばかりの表情を浮かべている。そのラッフェルの死角から残り一体のウルフ種が飛びかかる。

「ラッフェル!逃げろ!」

ヒッカの声で咄嗟に走り出すラッフェル。

「【サイクロン】」

巨大な竜巻がウルフ種を空高く打ち上げた。左手で竜巻をコントロールしながら、ヒッカは右手の人差し指と中指に魔力を集中させている。

「【ガストシュート】」

凄まじい勢いの魔力が打ち出される。ヒッカの放った風玉はウルフ種の頭部を吹き飛ばした。

「よし。危なかったね、ラッフェル。」

呆然した表情でヒッカを見るラッフェル。ドン!と大きな音を立てて、打ち上げられたウルフ種が地面にめり込む。

「さて、魔力核を回収しておこう。」

手早く作業に取り掛かるヒッカ。

「ん?どうした?」

「いやいやいや。何と言うかムチャクチャっスね。」

「無我夢中だったからね。気付いたら慣れた魔法が出ちゃってた訳さ。」

「いくら慣れてても魔獣一体に対してオーバーキルな気がするっスね。」

「まあそう言うな。危ないところだったんだぞ。」

ジェイクが割って入る。

「そっスね。師匠、ありあとやした!」

「ん。そしてヒッカ。お前の腕は認めているが、もう少し魔力量のコントロールを意識した方が良いな。旅をする中で無闇に魔力を消費するのは禁物だ。」

「そうかもしれないですね。と言っても母さんとの特訓で鍛えているからあれくらいは平気ですよ。」

「その慢心がお前の身を滅ぼすことにもなるかもしれんぞ。」

ジェイクは少し語気を強めて言った。

「気をつけます。ジェイクさんが言いたいことは分かります。ちょっと旅で浮かれてました。」

ヒッカは素直に反省した。

「お前は立派な魔導士になるんだろ?なら魔力コントロールは必要な技能だ。意識しておくと良いだろう。」

「それにしてもヒッカくんはすごいね。いつも魔法ガンガン使ってるよね?魔力底なしなんじゃないの??」

「そうですね。私もすごいって思います。あの竜巻の魔法だって高位魔法じゃないんですか?それに移動魔法まで使えて、身体強化もずっとかけてますし。」

「そうなの?ずっと?すごすぎでしょ?」

「確かに身体強化はしてるけど、みんなもそれくらいはしてるでしょ?俺だって魔力使い果たすほどまでは行ってないし。」

「だってヒッカさんはご飯中や買い物中も強化してますよね?普通の人はそんな時までしませんよ?」

フィリーは白い歯を見せながら言う。

「思い出した!確かにいつでも全力な感じだもんね。そっか。」

ふふふと思い出し笑いしながらライクが言う。

「そんなにおかしいことかな?魔力量を高める修行の一環さ。」

「それマジっスか?なら俺もやってみるっス!」

こともなげに言うヒッカに対してラッフェルが言葉を被せ気味に言う。

「そこまで言うなら好きにすれば良いさ。」

ジェイクは呆れた言い方をしてはいるものの肩は震えていた。

「もうそろそろイベルンテの町に着くだろう。この後は俺が魔獣の相手をしておくから試してみるといい。」

「さっすがジェイクさん!やってみるっス!」

「ついでだ。フレイムソードにも火を灯しておくようにな。」

「?」

「戦いの練習だ。」

ニヤリとジェイクが笑う。

「お兄ちゃん頑張れー!」

フィリーはどこまでもにこやかだ。




やがて三十分は経過しただろうか。

「ぐっ!」

フレイムソードの炎が揺らめく。蝋燭に灯るようなその炎は、今にも消え入りそうだ。

「ぎぐ!」

歯を食いしばり、言葉にならない言葉をあげるラッフェル。全身は汗だくだ。滴り落ちる汗が水溜りのようになっている。

「お兄ちゃん頑張るね〜。」

フィリーが少し退屈そうに見ている。

「思ったより続くな。」

ジェイクは少し驚きの表情だ。

「ジェイクさん。また来てるみたいです。切り払いしておきますね。」

「そうか。頼むぞ。」

気だるげな感じのジェイク。

「はいっ!」

ヒッカはそのまま馬車を飛び出し、空を滑るように夕闇に消えた。

ゴオオォ!と凄まじい竜巻が巻き起こる。

「っ!あー!」

その轟音に緊張の糸が途切れたのか、ラッフェルは馬車に倒れ込んだ。

「はぁ。はぁ。ふぅー。」

呼吸を整えるラッフェル。

「はいはい。よく頑張りました〜。」

フィリーが回復魔法をかける。

「サンキュ。いやぁ〜。もうちょっと行けると思ってたんだけどな。」

「なかなかやるな。」

「思ってたよりキツイっス。体力には自信あったんスけどね。」

そこに魔獣を倒してきたヒッカが戻ってきた。

「ただいま。ラッフェル。頑張ったね。お疲れ。」

「疲れたっス!それにしても師匠は何でそんなにピンピンしてるんすか?」

「ピンピンしてるって言われても、俺だってしっかり休んでるよ。」

「そんなもんスか。師匠への道は遠いっス。」

「おいおい…。冒険者の夢はどうするんだ?」

「それは両方っス!師匠みたいに強くなって、立派な冒険者になるっス!」

飛び起きたラッフェルが元気に答える。

「俺は冒険者じゃなく、魔導士になるぜ?」

意地悪く笑うヒッカ。

「良いじゃないっスか!師匠は俺の目標なんスから!」

「はいはい。」

「見えてきたな。全員準備をしておけよ。しばらくはここを拠点にするからな。」

全員がこくりと頷く。

「町に着いたらまず食事にしよう。」

「ジェイクさん。質問です!」

「何だ?」

「しばらくここに滞在するのって、何が目的なんですか?」

「目的か。話をしたかもしれないが、この辺りで凶暴な魔獣が現れた噂があってな。そいつの退治をしようと言う訳さ。」

「そうなんですね。ってことはしばらく冒険者稼業ってことですね。」

「そんなところだ。旅に資金はあって困ることもないしな。」

「へへへ。それに今日は大量っしたからね。」

「そうだな。ついでにお前たちも冒険者の登録をしておこう。俺の旅についてくる以上、その方が色々と都合がいいからな。」

「やったー!」

歓喜の声をあげるラッフェル。

「冒険者の夢が叶うね。」

ニコニコしているフィリー。

「そうだな!もっと頑張るぜ!」

「ふふ。楽しそう。」

「そうだね。」

ヒッカが少し言葉に間をおく。

「ライクも冒険者の登録をしておけば、お母さんを探す助けになるかもしれない。」

「…うん。」

夕闇が一歩迫る中、ライクは少し悲しそうな、寂しそうな顔をしていた。


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