29話 ジェイク殿、息子を頼みます
ヒッカは食事をひたすら食べる。食べる。まだ食べる。一体その体のどこに入るのか、と言うくらい食べる。
ラッフェルも負けてない。なんならローグも負けずに食べている。料理の山は瞬く間に小さくなっていく。何せここには食べ盛りの少年少女が六人もいるのだ。
だが、それでも料理の山が尽きないのは、母シェリーと祖母ナーシャの手腕によるものだ。次から次へと持ってくる。とは言え、さすがに料理の第一弾が終わったころ、父グランも帰宅した。
「今帰った。遅くなった。」
やや息の上がったグランは家族と来客、そしてテーブルに上がっている料理を交互に見て回る。
「おっ。なかなかやってるな。」
「「「お帰りーー!」」」
それを三重奏で迎え入れる子どもたち。
「元気になったか?」
グランは鎧姿のまま、まずミリィを抱き上げた。
「うん!元気になったよ!でも離してよ〜。」
照れながら応えるミリィ。
「よしよし。」
グランはミリィを床に下ろし、頭をワシワシと撫でた。
「父さん。この人がジェイクさんだよ。前に話したけど、俺はこの人の旅について行くんだ。」
「そうか。」
柔らかな声色のグランだが、ジェイクを見つめる眼差しは鋭い眼光を放っていた。
「初めまして。ジェイク=アンダーソンです。まずは大事なご子息を旅に連れ出す非礼をお詫びします。私自身は冒険者をしており、この街に来る前に、彼に危ないところを救われました。故あって東の方に旅を続けているのですが、道中の苦難を考えヒッカに旅の同行を依頼しました。」
「…。」
腕組みをしたまま黙って聞くグラン。
「包み隠さずに申し上げると、旅の道中、危険な目に遭う可能性は否定できません。しかしながら、私の冒険者ランクはAと言う実績を持ち、某国にて元聖騎士の称号を持っておりました。そのため、ヒッカに伝えられることは多いと考えております。彼自身は魔法士と聞きましたが、体術もかなりの物とお見受けし、この旅を通じて一回りも二回りも成長する機会になるものと考えます。」
「言いたいことは分かった。」
「…。」
「そろそろヒッカも新しい世界を見る経験が必要だと考えていた。ここ最近、魔獣や魔物の出現率も増加しており、必ずしも街にいることが安全を保障するわけではない。事実、この街も襲われたばかりだしな。」
「…。」
「貴殿を見れば、これまでの旅の苦労が偲ばれる。聖騎士という肩書きから冒険者になるとは、何か強い意志や覚悟あっての旅なのだろう。」
「…。」
「ヒッカは私たちが大切に育てた息子だ。親の贔屓目かもしれんが、魔力、運動神経ともに十分外でも通じると思っている。ここで貴殿が現れたのも何かの縁だろう。」
「…。」
「ジェイク殿、息子を頼みます。」
グランは深々と頭を下げた。
「…ありがとうございます。私の手で必ずヒッカを次のステージへ引き上げます。」
「ああ。頼んだぞ。」
そう言ってグランは右手を差し出した。それに力強く応えるジェイク。
「っといけねぇ。湿っぽくなってしまったな!まだまだパーティーはこれからだ。お前さんもしっかり食べて飲みな。明日からの旅に向けて力蓄えないといけないしな!俺も腹が減ったわ。」
ガハハと笑うグランだったが、どこか寂しげな空気を覗かせた。
肉をがっつき、お酒を煽り一息ついたグランにヒッカが言う。
「父さん。気をつけて行ってくるね。それに心配しないで。旅について行くのは俺一人だけじゃないんだ。」
「どういう事だ?」
「ここにいる三人も連れて行きます。彼らもまた、ヒッカとは違う原石たちです。」
ジェイクが代わりに答えた。
「ん?となると孤児院の方には行かないという事か?」
「そうなります。ラッフェルは元々冒険者志望なので旅の途中で冒険者のライセンスを取らせます。」
「待ってください。ジェイクさん。ラッフェルはまだ旅には危険かも。」
「案ずることはない。明日、それをラッフェル自身が証明する。」
「…。」
ヒッカは少し不安げな表情だ。
「少女二人も我々の旅に有用な力を持っています。それに私とヒッカで三人を守れます。」
「そうか。そこまで言うなら任せるが…。くれぐれ無理はするなよ。ヒッカ。お前なら五人でもどうにかこの街まで連れて戻れるだろう?時には引くことも忘れるな。この街がお前の故郷だからな。」
「分かったよ。父さん。」
「ヒッカ。貴方の力はすごいのよ。母さんが言うから間違いないわ。ちゃんとみんなを守ってあげて。」
母シェリーは少し酔っているのだろうか。顔が熱っているように見える。
「お兄ちゃんいいなぁ。私ももっと色々外行きたい!」
「貴女ももう少し大きくなったらね。それにヒッカお兄ちゃんは遊びに行くんじゃないのよ?」
「分かってるもん!」
膨れっ面のミリィ。
「大丈夫だよ。ミリィ。ミルク飲んでいっぱい食べればいいよ。」
優しく諭すローグ。そして二人のやりとりを温かい眼差しで見つめるグランとシェリー。ジェフとナーシャも孫のやり取りに目を細める。
久々に揃った家族の楽しそうな光景を見て、ヒッカは家族のことを改めて思った。
(離れてたって心は通じてる。いつでも家族に戻れるんだ。)
ヒッカは明日の旅立ちに一抹の寂しさをおぼえた。
(また会える。すぐに帰ってくるさ。)
ヒッカ自身、ジェイクから旅の同行を打診された時は戸惑った。だが、母から様々な英雄の話を聞くうちに、いつしか新しい世界を見たいと幼少の頃より願っていた。それに元聖騎士のジェイクは剣技だけに留まらず、魔法にも造詣が深い。剣も魔法も一流の使い手だ。そんな彼との旅はきっと学び多き道となるだろう。それに父から渡されたバスターソードのことも大きい。
(英雄が使っていたとされるこの剣。必ずものにして見せる…!それに父さんも母さんも俺を認めてくれてるんだ。そうだ。俺が三人を守る。)
ヒッカは腰の剣に手を置き、静かに闘志を燃やしていた。
そんなヒッカの背中に、ラッフェルは決意の眼差しを向けていた。
(師匠。俺、必ずついて行きます。まだまだ未熟かもしんないっスけど、自分の身くらい自分で守ってみせます。)
ラッフェルは深呼吸をした。居ても立っても居られない。このまま外に飛び出してしまいそうだ。
(いや、落ち着け。焦りは禁物だ。)
二度、三度と深呼吸をする。
(よし。もう大丈夫。)
(お兄ちゃん。大丈夫かなぁ?)
フィリーは兄の忙しない様子を遠目に見ていた。冒険者を希望しているラッフェルがこの旅について行くのは、彼自身にとって大きなチャンスだ。だがそれには明日ヒッカとの再試験で旅の同行許可を勝ち取らなくてはならない。
「美味しい〜。」
フィリーは注がれたジュースを飲んだ。
(お兄ちゃん。ジェイクさんとどんな特訓してたのかは分からないけど、大丈夫だよね?必ず合格してね?)
フィリーは心はコップの中のジュースのように揺らいでいた。
(ヒッカくん。ラッフェルくんにキツイんじゃないかな?なんでだろ?)
ライクは今日のヒッカとラッフェルの試験に少し疑問を持っていた。
(私とフィリーちゃんはあっさり合格にしてくれたけど、いいのかな?それにラッフェルくんはそんなに弱くないよ?多分。)
そして何より、ライクはラッフェルの勇敢さをかっていた。バトルガルーダとの戦いでもそうだった。
(あの時、バトルガルーダに立ち向かって行ってすごかった。誰にでもできることじゃない。魔法だってこれから覚えていけばいいんじゃない?)
それはライクも同じだ。
(私だってそれは同じ。ラッフェルくん。頑張ってね。私も頑張るし、応援してるよ…!)
ライクは心の中で、ラッフェルにエールを送った。
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