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28話 あれ?秘密の特訓してるとこに入って行っていいの?

(ん?)

ヒッカの家の前に人影が見える。規則正しく剣を振るうその人物はラッフェルだった。ヒッカとジェイクがラッフェルから少し離れた位置に降りようと着陸態勢に入った時、ラッフェルはそれに気付いた。

素振りを止め、二人の元に駆け寄るラッフェル。

「お帰りなさい!師匠!ジェイクさん!」

「ああ。ただいま。素振りしてたんだ?」

「そっスね。なんだか落ち着かなくて、つい。」

苦笑するラッフェル。

「お前、少し俺に付き合わないか。」

「へ?」

「俺に付き合えと言った。」

「あ、はい。良いっスけど。何の用っスか?俺、旅には…。」

「それは聞いた。」

「なら…。」

「お前、もし旅に出られるとしたらどうだ?」

「それはもちろん嬉しいっス!けど、そんなのアリなんスか?」

「それはこれからのお前の頑張り次第だ。」

「!!」

俄然、目の輝きを増すラッフェル。それを見届け、頷くジェイク。

「すまんな。ヒッカ。少し外してくれるか?」

「分かりました。あまり無茶しないでくださいね。それと、みんなでご飯するタイミングでは声かけしますよ?」

「ああ。そこまで遅くはならないさ。行くぞ。こっちだ。」

ジェイクはラッフェルを連れて行く。ヒッカも二人の背中を見送る前に、家の扉に手をかけた。


(何をするんだろう?何かとっておきの必殺技?いや、それはできたとしても基礎の下地からして、付け焼き刃程度のものにしかならないだろう。だとすると魔力コントロールを身につける?どうやって?後半日、いや半日も時間はない。日々の地道な練習が必要な魔力コントロールがそんな短期間に習得するのは厳しい。後は、武具を買い揃える?確かに高性能な武具なら戦闘面においてはプラスに働くだろう。だけど、高性能な武具を扱うのにもそれなりに訓練がいる。第一、残り半日もない時間でラッフェルの我流の癖を直すのも難しいだろう。)

ヒッカは不意に振り返ろうとした。が、思い止まり、家の扉を開けた。

「ただいま。」


今、ジェイクが何をしようとしているのかは分からない。だが、ジェイクの考えは分からなくとも、何となく想いは伝わっている気がした。ラッフェルもそうだ。不合格を告げたものの、ヒッカ自身もできることならラッフェルを連れていきたい。

それに、不合格と言う事実を受け止め、それでもなお腐ることなく前に進もうとしているラッフェル自身をヒッカは認めていた。

(後、半日か。)

ヒッカはミリィやライクたちの呼びかけが聞こえないかの様に、ジェイクとラッフェルの行動に思いを馳せた。



「大丈夫かなぁ?」

ヒッカ思わず独り言を呟いていた。そして自分のその声の大きさに驚いていた。

「ジェイクさんとラッフェルくんのこと?」

「ん、そうだね。しごかれてるのかな?いやラッフェルはタフだから大丈夫なんだろうけど、何してるんだろ。」

「大丈夫ですよ。お兄ちゃんならそんな簡単に根を上げませんよ。」

フィリーがニッコリ笑いながら答える。

「それは分かってるつもりさ。ただ、相手はジェイクさんだぞ?あの人の特訓だとしたら、一体どんな事をしてるのやら。」

「お兄ちゃんはいつからそんな心配性になったの?」

「いつからでもないさ。気になるだけだよ。」

ミリィの問いかけにぶっきらぼうに答えるヒッカ。

「ふう。これでひと段落ついたわ。」

祖母がドッコイショと言わんばかりの動作で椅子に深々と腰を下ろした。先ほどからいい匂いが漂っている。ヒッカは急にお腹が空いてきた。

「父さんたちまだかなー。」

ヒッカは思わずぼやいていた。

「父さんは帰り遅いかもね。母さんもそろそろ帰ってきてもいい時間だけど。」

「だよなー。そろそろ俺もジェイクさんたちを迎えに行かなきゃ。」

ヒッカがそうやって椅子から立ちあがろうとした時、ローグが尋ねてきた。

「あれ?秘密の特訓してるとこに入って行っていいの?」

ローグは少し心配そうな顔だった。

「迎えに行くとは言ってるから大丈夫さ。多分。」

「そう?でも良かったら僕が見てくるよ?」

「んー。」

ヒッカは腕組みをしたまま天を仰いだ。

「いや、いいさ。俺が行ってくる。」

「分かった。行ってらっしゃい。」

「ん。」

扉に向かうヒッカ。

(さて、どんなことをしてるのかな?)

ヒッカは家とドアを開けた。辺りはもう暗くなってきている。

(ダメだぁ。二人の影も形も見えない。すぐ近くにいるといいけど。)

ヒッカは家の軒先に吊ってあるカンテラ手に取った。カンテラの蓋を開け、魔力核を確認した。まだ薄く発光している。この光量ならば、その辺を探索するくらいの魔力はあるだろう。

ヒッカはカンテラに明かり灯し、歩き始めた。

(特訓するならきっと広いとこだろう。だったらこっちの河原辺りかな?)

そう思いながら河原の方を歩き続けた。

「ん?」

遠目に二つの人影が見える。

「師匠!」

「お迎えか。ちょうど今お前の家に向かっているところだった。」

「ちょうど良かったです。こっちですよ。着いてきてください。」

ヒッカはジェイクとラッフェルを家に案内するために元来た道を戻り始めた。

「ラッフェル。特訓はどうだった?」

「ふっふっふっ。明日を楽しみにしててくださいっス。今までの俺とは一味違うってことを見せてあげるっスよ。」

不敵に笑うラッフェル。

「へえ、それは楽しみだな。期待してるよ。」

「へへっ。」

ヒッカの言葉に、ラッフェルは照れ笑いを浮かべる。その後ろを歩いているジェイクも気持ち愉快そうな雰囲気の様に見えた。

(一体二人は何をしたんだ?)

ヒッカの疑問は尽きない。だがそれも明日の手合わせで分かることだ。

「明日、楽しみにしてるぜ。」

「うす!」

ラッフェルそう答えると緊張が解けたのか誰ともなくお腹が鳴った。

「お腹すいたね。」

「…っスね。」

「そうだな。」

「…。」

「…。」

「…。」

「よし!家まで突っ走るぞ!」

突如駆け出したヒッカ。

「かけっこなら負けないっスよ!」

それに続くラッフェル。

「おい!ったく。」

不満の声色ながら、それに続くジェイク。

三人の足音は瞬く間に夕闇の中に消えていった。



「「ただいまー!」」

ヒッカとラッフェルが同時に言う。いや、正確にはヒッカがドアを開けたその一瞬の隙にラッフェルが突っ込んできた形だった。

「あらお帰りなさい。」

シェリーは驚きもせずに言葉を返す。

「連日、世話になる。」

ジェイクはシェリーに一礼した。

「いいのよ。気にしなくて。そこに座って。」

シェリーはニッコリと笑って応える。

「おばあちゃん。これはどこに置けばいいの?あ、兄さんお帰り。」

厨房から大きな鍋を抱えたローグが出てきた。

「ああそれはこのテーブルの真ん中に置いとくれないかい?」

「ここだね?はい。」

「ローグ。まだ持ってくるものはあるのかい?」

「うん。まだあるよ。」

「了解。俺もそっちに行く。ジェイクさんたちも座っててください。」

ヒッカはそう言ったのちに、大皿料理を両手に持ってきた。

「コイツはすごい。」

どこかのレストランの様に次々と運びこまれる料理の数々。腹ペコたちの我慢は限界の様だった。

「父さんはまだ帰ってないけど、遅くなるだろうし暑いうちに食べちゃいましょ。」

シェリーの一声で皆が歓声をあげた。その場にいる全員が席に着き、宴が開始された。ミリィの快気祝いとヒッカの旅立ちの前夜祭ともあって、宴は最初から熱い熱量を発していた。


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