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30話 へぇ、俺意外とすごいんだね

周りがみな和気藹々とした空気の中、ジェイクは酒を片手に物思いに耽っていた。

(いいな。家族ってやつは。)

一瞬、柔らかな笑みを浮かべる。そして元の顔つきに戻る。

(ヘレナ。すまない。俺が必ず…。奴を!)

「ジェイクさん。どうしたんですか?」

お酒を持ってきたヒッカが不思議そうにジェイクの顔を覗き込んでいた。

「ん?そうだな。家族団欒もいいものだなって思ってたところさ。」

「そうなんですか?」

「ああ。それに料理も最高だ。こんなに美味い酒を飲んだのは久しぶりだ。」

「なら良かった!はい。おかわりどうぞ!」

ヒッカは新しい酒を注いだ。

「ありがたくいただく。」

「はい。明日に備えてしっかり英気を養ってくださいね。」

ヒッカはそう言うと空いた皿やグラスをまとめて片付けた。ジェイクはボンヤリとその後ろ姿を目で追っていた。


(今のままだと俺だけでは奴を倒すのは厳しい。すまないな。ヒッカ。お前をこんなことに巻き込もうとして。)

ジェイクは手元のグラスの水面を眺めている。

(俺は手段は選ばないと決めたんだ。それにお前は有用な魔法を持っている。俺はお前の力を借りたい。)

顔上げるとラッフェルがパンにかぶりついていた。

(奴を倒すには少しでも戦力が欲しい。ラッフェル、お前はまだ荒削りだが鍛えれば伸びるだろう。力の仕方を間違えていることは今日のことで分かったはずだ。)

ゴクっとジェイクが喉を鳴らす。グラスは再び空になった。

(頼んだぞ。今日のことを活かせば必ず活路は開けるはずだ。)



「時にジェイク殿!」

「!!??」

いつの間にかグランがジェイクの隣に座っていた。顔が赤く、鼻息が荒い。面倒な酔い方をしているなとジェイクは直感した。



「そうなんだ…。」

「ええ。衰弱したままずっと寝てるわ。可哀想にね。」

シェリーがヒッカにそう語っているのは、例の不思議な石を埋め込まれた小動物についてだった。石はとりのぞかれたもの、衰弱から中々回復しないようだ。魔力を使いすぎたために仮死状態もしくは冬眠して体力回復を図っているのでは?とはシェリーの弁だ。

ヒッカもやはりあの小動物が気になっていた。ぱっと見は猫に見えるが、背中にコブができている。それが石が埋め込まれていた影響によるものなのかは分からない。

それ以外にも疑問はつきない。

何故あそこであんな風になっていたのか?

石は誰がなんの目的で埋め込んだのか?

埋め込んだのは人なのか?それとも魔獣なのか?魔獣ならどうやって外科的な施術を施したのか?

結局あの石は何だったのか?

「あの石もね。結局良く分からないの。日毎に色がくすんでいくから魔力核なのかなって思ったんだけど、魔力の反応はなくてね。」

とシェリーは語っていた。もちろんシェリーたちは調べたのだろう。

(王宮魔導士の集う研究所で調べても、何一つ分からないことだなんてあるんだろうか。)

ヒッカの頭はぐるぐると記憶が回る。

いきなり現れたゴーレム軍団に合体した大型のゴーレム。魔獣の活発化。極め付けはドラゴンだ。ここ数日立て続けに色んなことが起きている。父や街の防衛隊は王国の警備に目の回る忙しさだ。そんな中、ヒッカは旅立とうとしている。

ヒッカは不意に震える手を握りしめた。これが武者震いかは分からない。ただ、これから何か新しい扉が開かれようとしている予感はあった。




「では、私はこれで失礼するよ。君たちもはしゃぐのは構わないが、ちゃんと休んでおくんだぞ。冒険者は体が資本だからな。」

席を立とうとしたグランが放ったその一言で、親睦会はお開きとなった。

「感謝します。彼らは私が責任をもって旅に連れて行きます。ではヒッカ。出発前にもう一度手合わせを頼む。朝の二つ目の鐘がなった後にここに迎えに来る。」

「分かりました。準備しておきます。」

「ああ。皆も明日から頼んだぞ。」

「「はーい。」」

「了解っス!」

「…。」

「…!」

ジェイクが何やらアイコンタクトをラッフェルに送った。ラッフェルは力こぶを作ってジェイクを見送った。

「師匠!俺も片付けしたら休ませてもらいます。」

「了解。こっちの片付けは俺でしておくから、そっちをまとめてくれるだけでいい。明日に備えてラッフェルもゆっくり休みな。」

手早く片づけを済ませるラッフェル。

「師匠の母上!ご馳走ありがとうございました!お先に失礼します!」

「ええ。お休みなさい。」

ラッフェルはそのまま寝室に向かった。

ライクもフィリーもそれに続き挨拶を交わした。ヒッカの祖父母はもう寝てしまっている。大騒ぎしていたミリィも、今ではすっかり体力が尽きたようだ。スースーと寝息を立てている。ローグも重くなった瞼をしきりにこすっている。

ヒッカは母に挨拶を済ませ、フィリーを抱き抱え寝室に寝かしつけた。

(眠いな。早く休むか。)

そう思いながらヒッカもベッドに向かった。

(ミリィも重くなったな。元気なようで何より。)

ミリィをベッドに連れて行き、優しく毛布をかけた。

(俺も休まなきゃな。お休み。ミリィ。)



その足でヒッカは家の外に出た。空には満天の星が輝いている。

(明日はどんな日になるだろうか。)

星空は優しく輝き、ヒッカの旅立ちを見守っているようだ。

(何とかなる。何とかしてみせる。)

ヒッカは目を閉じて魔力を集中し始めた。木々がざわめき、微かに風が唸る。

「【キュアブリーズ】!」

ヒッカは風魔法を唱えた。

(よし。明日に向けてはこんなものかな。ゆっくり休もう。)

ヒッカは自分自身に回復魔法をかけて強引に疲労を打ち消した。家の階段を昇るヒッカの足取りは軽い。自室にたどり着いたヒッカは手早く着替え、ベッドにダイブした。

(明日からはこのフカフカベッドとはしばらくお別れかな。旅先でもフカフカベッドがあればいいな。)

そんな呑気な事を考えながら眠りについた。


ヒッカは目覚めた。いつものように手早く着替えを済ませて家の扉を開けた。大気の流れを感じながら深呼吸をする。

(今日もいい天気になりそうだな。)

「ヒッカ。おはよう。」

シェリーが声をかけてきた。

「母さん。おはよう。」

思えば母とこなすルーティンも今日でしばらくお預けだ。

「今日も行くわよ。旅立ちだからといって手加減はしないわ。」

ヒッカは思わず吹き出した。

「分かってるよ。母さん。母さんがそんな器用なことできる人じゃないってこと。」

「さあ?どうかしらね。でも今日は早めに行くわ。ついてきなさい!」

母は瞬く間に空を舞い上がった。

(…。)

ヒッカもそれに続き空を翔った。しばしの沈黙の時が流れ、やがて魔力の衝突する音が響いた。



「今日はここまでにしましょうか。」

額の薄い汗を拭いながらシェリーが言う。

「母さん。これはちょっとやりすぎだよ。俺今日旅に出るんだよ?何かあったらどうするのさ?」

「ふふ。何言ってるの。貴方ならこれくらい何ともないでしょ?貴方は魔法士見習いだなんて謙遜してるけど、魔導士くらいの実力はもう持ってるわよ。」

「へぇ、俺意外とすごいんだね。」

「貴方の才能もあるけど、私の教え方が良かったのよ。」

「何だよそれ。」

そう言って二人は笑い合った。



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