22話 これ。俺に貰えませんか?
「みんなを連れて行くのは簡単だ。」
「それなら…!」
「でも、だからこそなんだ!」
ヒッカは少し怒気を含んだ声で言った。
「ごめん。さっきも言ったが、本気でついてくるなら自分たちの身は自分で守らないといけない。」
「…。」
「場合によっては、見捨てなければいけないことも出てくるかもしれない。これは勿論、俺であってもだ。ラッフェルは見捨てられたらどうする?俺を見捨てる覚悟はある?」
「そんなことないっス!」
ラッフェルは全身から声を出していた。
「師匠はそんなことする人じゃないっス!ただの勘ですけど、そんな気がするっス!それに俺だってそんな師匠を見捨てたりはしないっス!!」
「…。」
ヒッカはやれやれと言う表情を浮かべつつ、ラッフェルたちを改めて見た。ラッフェル、フィリー、ライクの三人とも真っ直ぐにこちらを見ている。
「…困ったな。」
そんな時、グランがおもむろに話し始めた。
「ヒッカ。みんな本気のようだ。ここは一つ、みんなにかけてみるのはどうだ?」
「父さん!」
「勿論、旅の道中は自分たちの役割を果たしてもらう。自己防衛もしてもらう。それにパーティーメンバーは役割分担できる方が強い。」
「それでも!」
「ヒッカ。お前の言いたいことは分かっている。俺の提案はお前の旅に同行させる。ただ、本気でついて行きたいと願い、実力を出すことができた者のみだ。」
「どう言うこと?」
「単純な話だ。出発までにお前が『これなら連れて行ってもいい』と思えた者を連れて行くんだ。」
「それは…。」
「人を選ぶようで嫌か?だが、お前もみんなも本気なんだ。だったらお互いがその想いをぶつけ合うしかないんじゃないか?」
確かにグランの言うことは一理あった。
「そうさな…。期限は明日の昼まででどうだ。」
「分かったよ。みんなもそれでいい?」
「俺問題ないっス!」
「任せてください!」
「OKよ!」
みんなの気合も十分なようだ。それを見届けてグランは家を出た。その後、みんなで朝ごはんを済ませた。一時はピリピリしたムードも漂っていたが、終わりには和やかな会話に終始していた。ただ、みんなの意気込みは見てて伝わってくるほどだった。
「じゃ、私もそろそろ出るわね。ヒッカ。夕方には帰るのよ。今日はミリィも帰ってくるからね。」
「はーい。」
母を見送った後、ヒッカはジェイクの元に向かった。みんなの本気を見せてもらうことにしたかったが、ジェイクとの方が先約だったからだ。
「来たか。なら早速行くぞ。にしても大人数だな。楽しいところに行くわけではないんだぞ?」
ジェイクが言うのも無理はない。ヒッカの他三名は特に期待に胸を膨らませ、目をキラキラとさせながらついて来ていたからだ。
「師匠がいるとこならどこでも大丈夫っス!」
「随分懐かれたものだな。行くぞ。」
そう言って、ジェイクたちはギルドに入った。昨日、討伐した魔獣たちの魔力核を精算するためだ。
「コイツの精算を頼む。ヒッカ。お前のも自分で出せよ。ライセンスはまだなかったよな?ここで登録しておくといい。」
「了解です。」
「ふむ。確かに全部引き取ったよ。これがその代金だ。」
ジェイクは硬貨と魔獣討伐証を受け取った。ジェイクに続き、ヒッカも魔力核を提出した。
「ゴブリン種にサーペント種に、そしてコイツはバトルガルーダかい?華を持たせてもらえて良かったな。ボウズ。」
魔力核を丹念にチェックする店主。
「ほら、これがその代金だ。次も頑張んなよ。」
ヒッカは初めてギルドの報酬を得た。
「硬貨がこんなに…!」
「驚きすぎだ。次はクエストを閉じに行くぞ。」
ジェイクはヒッカたちを連れて、クエストカウンターに赴いた。
「はい。これでこの四つはミッションコンプリートね。まさか本当に四つとも終わらせるなんて思ってもなかったわ。どんな魔法を使ったの?」
「そんなものはない。最短で潰して行っただけだ。」
「そうなの。」
「ライセンスの更新を頼む。コイツはライセンスを発行してくれ。」
「良いわよ。ライセンス貸して。」
受付嬢は慣れた手つきで、ライセンスに魔力の刻印を打った。
「はい。どうぞ。あなたは登録ね。ヒッカ=ロイルさんで良い?」
クエスト受注時の書類を見ながら受付嬢が尋ねてきた。
「はい。そうです。」
少し緊張気味の声で答えたヒッカ。
「ん。ちょっと待ってね。」
手早くライセンスに魔力で刻印を刻んでいく。
「あら?いきなりあなたDランクね。中々やるじゃない。今後も頑張ってね。」
受付嬢は魔獣討伐証を見ながらヒッカのライセンスにDの刻印を刻んだ。
「はい。お待ちどう様。」
「ありがとうございます。」
ヒッカはライセンスを受け取った。これでヒッカも冒険者の一員だ。
「さすが師匠!俺も早くライセンス欲しいっス!」
ラッフェルは自分のことのように喜んでいた。
「さて、俺は武具の仕上がりを見てくる。もう少しついてきてくれるか?」
「はい!」
ライセンスに目を落としたままヒッカは答えた。
「おお、お前さんか。できとるよ。」
「ありがたい。早く見せてくれ。」
「そう慌てなさんな。おーい。例の武具一式持ってきてくれ。」
親方は工房の奥に大声で叫んだ。やがて、弟子の一人が武具を持ってきた。
「破損が軽微なところは埋めておる。破損が酷い箇所は打ち直したり交換しているから、最初のうちは少し戸惑うかもしれん。」
「こいつはありがたい。」
「左肩の方は特に破損が酷かったから苦労したわい。」
カカカと笑う親方。
「じゃがお前さん、よく無事じゃったのう。どんな戦に巻き込まれたらあんなにボロボロになるんじゃ?」
そう言った親方をジェイクは鋭い視線で睨みつけた。
「とと。余計な詮索じゃったな。」
ジェイクの圧に親方は言葉を引っ込めた。ジェイクは無言で武具を纏って行く。カチッカチャと金属音が響く。
「良い仕上がりだ。助かった。」
「お前さん。左手の籠手と肩アーマーは着けんのか?気合い入れて作ったんじゃが。」
「ああ。これで十分だ。こっちには盾もあるしな。」
そう言って包帯巻きの左手を振った。
「まあそう言うなら仕方ないが。」
「ヒッカ。これらがいるなら使っても良いぞ。俺には使い道のないものだからな。」
剣を帯刀したジェイクは、籠手と肩アーマーをヒッカに差し出した。
「ありがたいですが、俺も使わないかな。魔力バランスが崩れるかもしれないんで、このマントで行こうかなって思います。」
ヒッカがそう言うのも無理はない。金属と魔法の相性を気にして身に着ける武具を制限する者は多い。魔法を発動するためには、魔力を圧縮してマナに変換する必要がある。だが困ったことに金属は魔力を拡散させる性質を持つものが多い。一説には大地の恵みである鉱石を武器に加工する際に火、水、風の属性を使って精製するためだと言われている。
ヒッカは魔法士見習いのため、金属鎧を纏うことで魔力圧縮比や発動時のバランスが変わることを嫌っての発言だった。下手に物理防御を高めるより、魔力で身体能力を引き上げて回避する方が良いとも思っていた。魔法攻撃相手なら、魔力で障壁を作ることで対抗も可能だ。その一方で武器による直接攻撃や、投石のような物理攻撃には金属鎧による防御が有効である。
ヒッカは遠距離にて相手を攻撃する手段を持っているため、近づかれる前に打ち倒す考えのようだ。
「これ。俺に貰えませんか?」
「構わんぞ。好きに使うと良い。」
「あざす!では遠慮なく。」
「あれ?ラッフェルって左利きなの?」
「いえ!違うっス。右利きっス。軽い攻撃ならこれで受けられそうだと思ってのことっス!」
「なるほどね。」
納得したヒッカたちは店を出た。
「ヒッカ。済まないがお前の特訓場を貸してくれないか?明日の出発までに武具の状態を確認しておきたい。」
「良いですよ。お?」
ヒッカは改めて思った。
(そうだった。四人いるんだった。まあ良いか。昨日よりも近場だし。)
ヒッカはジェイクたちを連れて特訓場に向かった。
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