21話 …俺も師匠について行くのはダメっスか?
「やったわね。ヒッカ。いい時間になっちゃったし、早く帰りましょう。」
「うん!母さん。ありがとう!」
そして二人はいつもより帰路を急いだ。
(それにしてもさっきのは驚いたわ。一体いつの間にあんな魔法を?今だって【エアライド】でこうして飛んでるのを見ると、全く炎属性属性を感じさせない。)
シェリーは先ほどの光景を思い返していた。自分の目で見るまではヒッカの話に疑念があったのは否めない。仮にヒッカが炎属性を撃てたとしても、低位魔法程度を想像していた。だがその疑念は全く逆の形で裏切られた。
(あんな威力。炎属性の中位どころか高位と言っても差し支えないわ。確かにあれならバトルガルーダを一撃で倒せるのも頷ける。)
ブンブンと曲芸飛行しながら帰るヒッカ。上機嫌なのは誰の目にも明らかだ。
(友達のガルダスくんは確か炎属性使いのはず。彼から教わった?仮にそうだとしたらどうやって?ガルダスくんは高位魔法を習得しているの?)
シェリーはまるで答えの出ない袋小路に入ったように感じた。
(いえ、仮にガルダスくんが高位魔法を習得していたとしてヒッカはそれをどうやって身につけたの?ヒッカが炎属性を纏っていたことなんて見た記憶がない。隠れて習得していたの?)
シェリーはここでもかぶりを振った。
(そんなことをする理由がない。私に炎属性を習得することを遠慮して?仮にそうだとしても、それならさっき見せるはずはない。第一、あそこまでに高めた魔力であるなら、日常でも炎属性を感じたっておかしくない。そして今もこうして自由に風を操っているのに、一切炎属性の気配がない。)
母の心配をよそに、ヒッカは気ままに飛んでいる。
(あの感覚が掴めた気がするけど、結局あれは何だったんだろう?炎属性だなんて基礎理論くらいしか知らないし。何であんなのがいきなり使えたんだ?全くわからない。もしかして、俺は風属性より炎属性の方が適正あるのかな?)
ヒッカは腕組みしたまま曲芸飛行を続けている。
(仮に炎属性の方が適正あったとしても、母さんに教わった風魔法は今の所どれも習得できてるし、褒めてもらったからそんなに風属性に適性が無い方ではないと思うんだよなあ。)
「うーん。」
思わす声が出た。
(それに違和感。あの鳥を見た時に形容し難い感覚…。どちらかと言うと、あれがスイッチになって炎属性が使えた気がする。)
ぐるんぐるん!と弧を描きながらヒッカは飛び続けた。
(俺には炎属性の適性があったってことかな?これが才能ってやつかも。もっと自在に出せるか練習しないとな!)
思わずニヤけるヒッカ。そして母の方に目線を移した。シェリーも考え事してるような顔つきで飛んでいる。
そして不意にヒッカとシェリーは目が合った。
「母さん!」
「っ!。何??」
「どうしたの?」
「ううん。考えごと。」
「そっか。それでさ、母さん。」
「何?」
「俺、今日はすごく調子いい気がするんだ。久しぶりに競争しない?」
「そうね。いいかもしれないわね。」
「決まり!」
「「3…2…1…ゴー!」」
二人の魔力は底知れないのか。特訓が終わった後だと言うのに、疲れを知らないかの様に飛翔する。二人は弓矢の如く、空を切り裂いた。
「えい!やぁ!たぁあああ!」
朝から稽古してるラッフェルが見える。ヒッカとシェリーは少し距離を置いて家に帰着した。
「…?」
剣を止めてこちらを見るラッフェル。
「師匠!師匠の母上!おはようございます!」
「おはよう。ラッフェル。」
「おはよう。朝から元気ね。昨日はゆっくり休めた?」
「はい!美味しいご飯で体力つけてフカフカベッドでぐっすりでした!」
「それなら良かったわ。すぐ朝ごはんの準備するから少し待っててね。」
「ありがとうございます!師匠の母上!」
「それ言いづらくない?普通にさん付けでいいわよ。」
「ではお言葉に甘えて…。了解しました!シェリーさん!」
家に入るシェリーを見送ったラッフェルはすぐさまヒッカに向き直った。
「師匠ぉ〜。朝から修行なんですか。水臭いですよ。俺にも稽古つけてくださいよ〜。」
少し不満げなラッフェル。
「すまない。あまりに気持ちよく寝てるみたいだったから静かに出てたんだ。」
釈明するヒッカ。
「今何やってたんだ?」
「型の練習ですよ。ちゃんとした稽古は受けてないスけど、俺に良くしてくれた人から教わったんス。」
「そうか。」
「はい。その人は世界中を旅してるみたいな人なんで今はどこにいるのかもわからないっス。元気にしてるかな。」
「なるほどね。ところで俺に稽古ってのは剣の稽古なのか?俺も剣はそんなに習ってないぞ。第一に俺は魔法士だしな。見習いだけど。」
「あれだけの魔法が使えるのにそれでも魔法士見習いなんスか?魔法の道って厳しいんスね…。」
驚いたり落ち込んだりと、ラッフェルは表情がコロコロと変わる。
「でも!俺には剣があるし、魔法だって練習中です。いつか凄い冒険者になってみせるっス!」
「俺だって母さんを超えるくらいの凄い魔導士になるぜ!」
ヒッカも負けてはいない。
「なら師匠は師匠であり、ライバルってことっスね!」
「だね。で、剣の稽古ならジェイクさんに聞いてみようか。あの人はかなりの剣の使い手だぜ。」
ヒッカは何となく、ジェイクが元聖騎士であることを伏せた。
「お願いします!あ、でも俺は師匠にも学びたいっス!今の俺はまだ剣も魔法も半人前なんで、戦略の幅を広げるためにも魔法も習いたいっス!」
ヒッカはラッフェルと話をして理解した。どうやらラッフェルは基礎的な身体強化魔法とファイアボールしか使えない様だ。確かに昨日見たファイアボールでは中型魔獣相手には牽制程度の使い方しかできないだろう。
「じゃあお昼から少し特訓に付き合うよ。」
「ありがとうございます!師匠!」
「それから…」
「何スか?」
「あ、いやフィリーやライクが揃ってからがいいかな。」
「隠さないで教えて欲しいっス〜。」
「そう言うなよ。まずは朝ごはんだ。」
「了解っス〜。」
その日の食卓もちょっとしたパーティー状態だった。ヒッカ家族四人、ライク、ラッフェル、フィリー合わせて七人がそれぞれに舌鼓を打っていた。
「俺は嫌っス!師匠と離れ離れになるなんて!」
口火を切ったのはラッフェルだった。フィリーは少し寂しそうに目を伏せていた。
「そう言ってくれるのは嬉しいけどさ。ラッフェルもフィリーもなるべく大勢の人がいるところがいいと思うんだ。」
「…俺も師匠について行くのはダメっスか?」
「ダメだな。遊びで行くんじゃない。昨日だって、たまたま俺とジェイクさんが君たちに出会ったから事なきを得たんだ。それに下手したら俺もジェイクさんもやられてたかもしれない。」
「…。」
「それに孤児院なら剣や魔法以外にも勉強もさせてくれる。一、二年で自立しなければいけないけれど、冒険やギルド所属を考えるのはその後でも良いんじゃないのか?」
ヒッカの話はこうだ。ラッフェルとフィリーを近くの孤児院に送り、ライクはそこの臨時職員として雇ってもらい生活をしてもらうと言うものだ。
「俺、俺…。」
ラッフェルがポツリと言う。
「俺、師匠とはまだ会ったばかりっスけど、何だかこの人について行きたいって思ったんスよ。」
故郷の街を出て、苦労してきたであろう兄妹はこうも続けた。
「ヒッカさん。私からもお願いします。私久しぶりにこんなに楽しくあったかい時間を過ごせました。皆さんともっと一緒にいたいです。」
ライクも続けた。
「ヒッカくん。何とかならないかな?それに私だって水魔法使えるから、足手まといにはならないと思うよ。」
ヒッカは重い口を開いた。
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