20話 …できた!できたぞー!
「くっうう。」
大きく伸びながら目覚めるヒッカ。
(ちょっと眠いな。)
昨日、体力も魔力もすっからかんになる勢いで行動してはいたものの、いつもの時間に起きていた。習慣とは恐ろしいものだ。
(ふう。)
ふと目を横にやると、ラッフェルが毛布にくるまって静かに寝息を立てている。よほど安眠しているのだろう。
(起きるか。)
もそもそと半目のままヒッカは身支度を済ませた。
「母さんおはよう。」
「あらヒッカおはよう。そんな疲れた顔しないで。」
「大丈夫だよ。これから行ける。」
ヒッカは重たい瞼を開けつつ、準備万端をアピールしている。
「そう。ならいいわね。じゃあ、行くわよ!」
「は〜い。」
ヒッカは生返事で答えたものの、思いの外その足取りは軽かった。
「っし!」
頬を叩いて気合いを入れ直したヒッカは、母と共にいつもの修練場に向かった。
「ヒッカ?」
「何?」
「何はこっちのセリフよ。さっきから何をしようとしてるの?」
「何って、秘密兵器だよ。」
「秘密兵器?」
「そうさ!」
ヒッカは昨日の話を母にした。無意識に炎魔法を放ち、バトルガルーダを討伐したことを。
「やるじゃない。私にもそれ、見せて。」
「それがね。母さん。昨日と同じ構えをとってるんだけど、全然発動しなくてさ。」
「…そうなの。」
「うん。こうだっけな?ハイパーファイアー!」
ヒッカの声は虚しくこだまする。
「何だったんだろ。あの感覚は。」
「あなたは小さい頃から本が好きだったからね。それで無意識に炎魔法も頭に入ってたんじゃないかしら。」
「理論だけであそこまでの火力をぶっつけで出せるものなのかな?」
「それは…ほら。才能があったってことよ。喜びなさい。」
「んー。」
ヒッカは腕組みをしながら天を仰いだ。
「それならもっと自在に使えてもいい気がするんだけどね。確かに本を読んでて基本の四属性は頭に入ってるけど、風魔法以外は低位を学んだくらいだしなぁ。父さんからも土魔法を教えてもらったから、どちらかと言うと土魔法の方が出てくれても良かったかも。」
「…。」
「いや、土魔法だとバトルガルーダを討伐できなかったか。」
ヒッカは再び目を瞑り、昨日の情景を思い出した。
(どうやって構えて発動させたんだっけ?確か無我夢中で走ってて。たしか、こんな感じ…。)
ヒッカの纏う魔力が一瞬、炎を帯びるものに変わった。シェリーはそれを見逃さなかった。
(…大きく息を吸って。)
ヒッカは集中を続ける。
(あの時は勝手に発動したようなものだったかもしれない。でもそうなら俺はきっと使える。できるはずだ!)
「はっ!!」
右の掌を大きく突き出すと熱風が吹き荒れた。
(あの時の感覚と違う…。一体どうすれば。そもそも本当に俺は炎魔法を使ったのか?)
「…。」
シェリーはヒッカの魔力の揺らぎを見ていた。ヒッカは風属性を操る風魔法士だ。そして今ヒッカが纏っている魔力も風属性だ。だが確かに一瞬、ヒッカが纏っていた魔力が風属性から炎属性に変わるのを見た。
(どう言うことなの?確かにあの子には基本の四属性全ての基礎理論は教えたわ。初歩の低位魔法なら四属性とも使えるはず。)
シェリーは想いを駆け巡らせる。
(だけどあの時一瞬、あの子の纏う魔力の属性自体が変わったわ。あの魔力量ならバトルガルーダを一撃で撃ち倒す魔法は発動できるでしょう。でも何故?操る属性そのものが切り替わるだなんて聞いたことないわ。)
一方のヒッカも自信が炎属性の魔力を帯びた感覚はあった。だがそれが何なのかは分からなかった。
「ヒッカ。」
「何?」
「貴方が炎属性を操ることについてもう少し試してみましょう。」
そう言ってシェリーは指先に魔力を集結させる。
「行くわよ…。はっ!」
シェリーは小さな火炎弾を放った。シェリーは風属性の魔導士だ。だがこれまでのたゆまぬ努力の結果もあり、他属性でもある程度は扱える。ヒッカはその火炎弾を見てから、自身のローブでその火炎弾を振り払った。
「次からは連続で行くわよ。貴方はこれらを撃ち落としてみなさい。」
その言葉でヒッカも咄嗟に母と同じ構えをとる。
「行くわよ!」
シェリーは火炎弾を放った。
「はっ!」
ヒッカも火炎弾を放った。…つもりだったが、日頃の練習で使っている【ガストシュート】を思わず放っていた。シェリーの火炎弾とヒッカの【ガストシュート】が真正面からぶつかり合い、一瞬大きな炎となって滅した。
「くそ!」
「落ち着いて!まだまだ行くわよ。」
(集中だ集中だ。意識を炎に…。)
「はっ!」
今度は火炎弾を放つことができた。
「…。まだまだよ!」
「こい!」
ヒッカとシェリーの撃ち合いは続いた。だが、その中で昨日と同じ魔法は撃てなかった。
「難しいわね。朝一番の時貴方が見せた動きが正解なんだと思うけど。」
それはヒッカが一瞬炎属性を纏った時の話だった。
「貴方が炎属性を使う時、一度風属性を解放して魔力を纏い直してるのよね。そしてそこから魔法発動部位に魔力を集中させて、炎属性に変換して撃ち出してるの。」
シェリーは自身の右手を左手で指しながら話した。
「だけどあの時の貴方は風属性が炎属性にそのまま切り替わっちゃったように見えたの。まるで最初から炎属性を使える人のように。」
「…。」
「…。」
(最初から炎属性が使えるかのように…か。)
「…続けるわよ!」
頷くヒッカ。
(思い出すんだ!あの時の感覚を!)
「…そろそろ時間ね。帰りましょうか。」
「くそっ!」
ヒッカはついに、昨日の魔法を発動できなかった。
(あれは一体何だったんだ?夢だったのか?それとも何か足りない?)
ヒッカは自分の両手に魔力を集中させた。無意識に風属性を帯びている。
「ふー。」
深呼吸をし、魔力を解除した。
(今日の空は晴れてるな。)
快晴の空を見ながらヒッカは思った。
(吸い込まれそうな青だ。)
そうヒッカが想いに耽っている時に、一羽の鳥が空を飛んでいるのが見えた。大翼を広げ、悠々と飛ぶその姿にヒッカは何か心をかき乱される気がした。
(何だ?この感覚は?)
ヒッカはその鳥に魅入られていた。
(あの時と同じ?)
体の芯が熱を帯びてきている気がした。
(やれるかもしれない…。いや!俺ならできる!)
大きく深呼吸し、圧縮した魔力を解放するイメージをヒッカはもった。
「…。」
「ヒッカ!?」
「はぁあああっ!」
一気に爆ぜる魔力。そしてその魔力は、紛れもなく炎属性を帯びていた。
(今ならできる気がする。)
ヒッカは昨日と同じ構えをとり、その勢いのまま、【オメガエクスプロージョン】を放った!
「…!」
天を穿つその炎熱にシェリーは肝を冷やした。
「…できた!できたぞー!」
「凄いわね。いつの間にあんな魔法を覚えたの?凄すぎてびっくりしちゃった。」
シェリーが驚くのも無理はない。一般的に人は一つの属性を極めることが多い。得意属性は育った環境や本人の興味、適正によって育まれることが多いからだ。中位〜高位の呪文を使えるほどに、二つの属性を操ることは珍しい。高位の魔導士が補助的に別属性を修めることはあるが、精々低位から中位にかけての呪文である。
それは、発動する呪文の位は基本的には魔法習得に費やした時間に比例することが知られているからだ。高位魔法を習得するには時間がかかる。だがヒッカの放った先の一撃は、シェリーの予測を超えているものだった。シェリーは風属性の極位魔法を習得しているが、他には低位の土属性を修めている。炎属性も扱えないことはないが、実戦では使い物にならないレベルのものだ。
だがヒッカは高位と遜色ないと思われる炎属性の一撃を放ったのだ。ヒッカ自信が得意としているのは風属性であり、母親からの英才教育もあって、多様な風魔法を修めている。にも関わらず、放たれたヒッカのその一撃はこの世界における一般常識では計り知れないものであった。
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