130話 生きてやがるってのか?
「おーい」
遠くから野太い声が聞こえる。
「大丈夫ですかー?」
また別の声だ。こちらの声は柔らかい印象を受ける。
ヒッカは声が聞こえた方に顔を向けた。ドインとヅーチェが走り寄ってくるのが見える。
「ドインさん! ヅーチェさん!」
「やりましたね。ヒッカ」
「お前さんに頼んで正解だったな。おかげでワシの出番が無くなってしまったぞ。ガハハ」
豪快に笑うドイン。心から喜んでいる様に見える。
これでもう泥かぶり大トカゲの脅威に怯える事はないのだ。
「何とか……どうにか倒せました」
流石に安堵の表情を見せるヒッカ。が、すぐに顔がこわばる。
「そうだ。ヅーチェさんにお願いがあって」
「何ですか?」
「その……ファイさんを治癒してくれませんか?」
「……どう言う事ですか?」
ヒッカは事のあらましを説明した。
「なるほど。それであれだけの爆炎が渦巻いていたと言う事なんですね」
納得した様に頷くヅーチェ。
「はい。それで俺も加減ができなくてファイさんが吹っ飛ばされてしまった感じです。ファイさんはこっちです」
ヒッカに先導され、ヅーチェとドインが続く。
「ファイさん? ファイさん!」
ヒッカが呼びかけるも反応は無い。
「ヅーチェさん! ファイさんが……」
「落ち着いてください。……大丈夫。眠っているだけの様ですね」
「眠っているだけ? 良かった」
「ですがダメージは大きい様ですね。すぐさま治療に取り掛かります」
ヅーチェは魔力を高め始めた。
(ファイさんごめんなさい。俺がもう少し上手くコントロールできてれば……)
微かに地面が揺れる。
「ん?」
「何ですか?」
「こいつぁ……」
地面が盛り上がり、それが顔を出した。
「みんないただ! 何があっただ?」
現れたのはドルクだった。
「ドルク! お前は大人しく待ってろと言っただろうが!」
「だって心配しただ。あそこからでも見えるくらいどんぱちしてただ。そしたらオイラ、居ても立っても居られなかっただ」
「たくよぉ。言われた事をきちんとやってから口答えするんだな。そう言えば前にもお前は……」
ドインの説教が始まった。
(これは長くなりそうだな)
「ともかく、僕は治療を始めますので離れててください」
ヅーチェが静かに魔力を集中させる。
「っ!」
ヒッカは一瞬、ヅーチェの魔力が乱れたのが感じた。さすがに疲労の色が隠せなくなってきた様だ。
「ヅーチェさん、大丈夫……ですか?」
「大丈夫ですよ。ちょっと疲れただけです。僕だって人間ですからね」
「だったら俺が少し補助します。俺も少しは回復魔法が使えるんですよ」
そう言ってヒッカは静かに目を閉じた。優しい風が吹く。
「【キュアブリーズ】」
ヒッカの魔力がファイの自己治癒能力を強化する。小さな傷はみるみる塞がっていった。
「ぐっ!」
「ファイさん! 目が覚めましたか?」
「んあ。ああ」
ファイは周囲を見渡した。
「それで? 泥トカゲはやったんだよな?」
「はい。一気に焼き尽くしたんでさすがに耐えられないと思います。顔や腕も吹き飛ばすほどの威力でしたので……ほらあんな感じに」
ヒッカの指差す方向には泥かぶり大トカゲの亡骸があった。
「ふっ。これで一安心だな。疲れたー」
ファイは倒れたまま大きく伸びをする。
ヒッカは何となく泥かぶり大トカゲに目を向ける。
「!!」
ヒッカの背中に悪寒が走る。
「どうした? 何かあったか?」
「まさか……そんな」
泥かぶり大トカゲの顔は半分吹き飛ばされている。だが、顔面を肉壁の様なものがゆっくり覆い被さったかと思うと、目玉らしきものが形成され始めている。
「泥かぶり大トカゲが再生していきます!」
「ば、かな……」
ファイも事の大きさに衝撃を受けた。
「生きてやがるってのか?」
「まさか! あの状態から復活するだなんて通常の魔獣ではあり得ませんよ」
「有り得ないっつっても、現にこうして復活してるんだろうが!!」
泥かぶり大トカゲは新しい目玉を生成し、ヒッカたちを睨みつけた。
ダメージを負った体表はすっかり剥がれ落ちている。まるでダメージなど無かったかの様な出立ちだ。
「ゴコココゲー!」
「うわっ!」
「っ!」
「う、うるさいだー!」
耳をつんざく様な雄叫びが響く。泥かぶり大トカゲの怒りは最高潮の様だ。
「……これはマズイ事になっちまったな」
「ですね」
「このザマで連戦とはさすがにキチィがな」
フラフラと立ち上がるファイ。確かに戦力としては随分と心細くなった。
ダメージを受け満身創痍のファイ。
ヅーチェも高位の治癒魔法の連続発動で疲労が見える。魔力切れも間近に迫っているかもしれない。
ドインはヅーチェの治癒魔法を受けたばかりなので体力的には大丈夫だろう。ただ、先制攻撃に賭けていた魔力は消費してしまっているので、本人談からするとハンマーで全力攻撃できるのはあと一回と言ったところだろう。
ドルクは一番疲労が少ない。だが、戦力としては未熟であろう。攻撃力を期待する事は難しい。かと言って、撹乱役をさせるにも荷が重い。それに何より、万が一の時にはドルクを庇う余裕は今のヒッカたちには無い。
ドインが皆の前に立つ。
「ここまでありがとな。お前さんたちは逃げてくれ。ワシがコレで奴を仕留める!」
「そんな無茶ですよ! ここは引いて態勢を立て直すべきです」
「そうしましょう。俺がみんなを連れて村に戻ります!」
「そうしたいんだがなぁ。どうにもやっこさんは見逃してはくれなそうだ」
泥かぶり大トカゲは敵意剥き出しの様相で今にも飛びかかってきそうだ。
「……確かにな」
「それに逃げたとて、奴はまた村に来る。ワシは村を守るドンの一人として、奴を倒さねばならん!」
ドインは手にしたハンマーを強くにじり締め、まるで自分に言い聞かすかの様に叫んだ。
ちょっと間が開きましたがエタるつもりはさらさらありませんのでー
まだまだ書きたい事は沢山ありまして、これからもよろしくですー




