129話 やった……のか?
「お前……本当にユニオン魔法を使うつもりのか?」
「ええ!」
「随分と簡単に言ってくれるな。それで? 勝算はあるのか?」
「はい。母からユニオン魔法について教わってますし、友人と発動させた事もあります! 泥被り大トカゲを炎の嵐で焼き尽くすんです。これならあいつの持つ水と土の属性に対抗できると思います」
「そうか……。なら、試してみる価値はあるな……よっと」
ファイがヒッカの近くに来た。
「先に言っておくが、俺は近距離戦専門だ。遠距離攻撃できない事はないが、精々牽制に使う程度のレベルだ」
「……」
黙って頷くヒッカ。
牽制程度と言う事は低位レベルだろう。確かにそれでは、効果的なユニオン魔法を発動する事はできない。泥被り大トカゲに効果的なダメージを与えるほどの威力を出すのであれば、ヒッカの魔法がファイの魔法を飲み込んでしまうだろう。かと言ってヒッカの魔法の威力を弱めればさしたるダメージにならないどころか、打ち消しあって無駄に魔力を消費しかねない。
どうするべきか、とヒッカが思案したのも束の間、ファイからもう一つの解決策が提示された。
「一つ、中距離でも使えそうな魔法はある。ただし、これも普段は近距離で使うものだ。距離が離れる事で威力が減衰するかもしれん。が、正直やってみないとどこまで減衰するかは分からん」
「それでやってみましょう。俺が合わせます! それはどんな魔法なんですか?」
「ああ、それはな……」
ファイはヒッカに魔法の説明をした。
泥被り大トカゲがゆっくりと近づいてくる。すでに尻尾が再生しており、鞭のように地面を打ち鳴らしている。
「さっき言ったとおりだ。頼むぞ」
「ええ! 任せてください!」
ファイは嬉しそうに笑う。
「頼もしいな。はぁっ!」
ファイは炎の魔力を全身に纏う。その爆熱は天を焦がすかのようだ。
(あちちっ! けど、俺だって!)
「はあああーっ!」
ヒッカも負けじと風の魔力をその身に纏う。吹き荒ぶ風は、炎と共鳴しているかの様だ。
「行くぜ!」
ファイが泥被り大トカゲに向かって走る。
(火炎玉を頭上から手を振り下ろす、だったよな。合図は)
ヒッカは両手に魔力を収束させながら呟いた。
「こっちはいつでも良い。来なよ。俺たちが倒す」
両手の炎がビリビリとした感覚を伝えてくる。
(そろそろ、だな)
ファイは両手を空に向けて構えた。小さな炎がポツッと現れたかと思うと、瞬く間に巨大な火球となった。
チラリと横目にヒッカの方を見る。ヒッカは準備万端だとでもいいたげに深く頷いた。
(準備オッケーって事だな!?)
攻撃の機を察したファイはいよいよ魔法発動の体制に入った。
天に掲げた火球は激しさを増す。並の魔獣ならば、そのまま飲み込んでしまいそうなほどに巨大な火炎玉となった。
(すごいや……あんなに巨大な火炎玉。これなら行けるかも!)
ヒッカも臨戦態勢である。いつでもユニオン魔法を発動できる状況だ。
ファイが泥被り大トカゲが少し距離をとる。火炎玉はもう限界な程に膨れ上がり、今にも破裂しそうだ。
「くらえ! 【ファイアバンガ】!」
ファイは泥被り大トカゲ目掛け、勢いよく両手を振り下ろした。辺りを焦がしながら泥被り大トカゲに向かっていく。
(今だ!)
ヒッカは火炎玉が打ち出されたその瞬間、すぐさま反応した。
風魔力は十分に圧縮されている。これならば効果的なダメージを与えられるだろう。
ヒッカは右手の人差し指と中指に収束させた風魔力を一気に解放した。
「【ガストバースト】!」
ヒッカの風玉はファイの火炎玉に真っ直ぐ向かっていく。
(……! 思ったより魔力の拡散が早い!?)
ファイの火炎玉は見た目以上に減衰していく。
時間にしてごく僅かな、一瞬と評しても差し支えないその時間が、ファイにはどうしようもなく長い時に思えた。
刹那、ヒッカの風玉がファイの火炎玉に激突する。凄まじい爆熱風が巻き起こり、周囲を焼き尽くす。
あまりの威力にファイは思わず目を閉じる。
(って。やれやれ、今日はとことんついてねえや)
ファイは爆熱風に吹き飛ばされていた。無理もない。あれだけの爆発の中を棒立ちで立っていて無事なはずがないのだ。
全身の魔力をほとんど攻撃に回す【ファイアバンガ】は、一撃必殺の威力を持つ。だがその代償に身に纏う魔力が薄くなれば、それは発動者の防御が著しく低下する。まさに諸刃の剣であった。
(泥……トカゲはどうなった……んだ?)
まだ視界がぼんやりしている。
泥被り大トカゲが見える。ただし、その顔面は半分に吹き飛ばされ、右の腕部も焼失している。脚部の皮膚も焼き尽くしている様だ。
「やった……のか?」
泥被り大トカゲはピクリとも動かない。
目線をずらすとヒッカが立っているのが見えた。こちらに笑いかけている様に見える。
(そうか……やったんだな)
ファイは倒れたまま起きあがろうとはしなかった。全身に痛みが響く。
(やっぱユニオン魔法はすげぇな。俺の魔力の炎なのによ。まさかこんな事になっちまうなんて)
安心したら眠くなってきた。ファイはゆっくり瞼を閉じた。
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