128話 反省会はヤツに勝ってからだ
泥被り大トカゲに吹き飛ばされたヒッカは、自分を庇ってくれていたであろうファイの元に駆け寄った。
「……」
「ファイさん?」
「……」
返事はなかった。が、体が微かに動く。
「ファイさん!」
「ぐっ、っああ」
うめき声を上げながらゆっくりと上体を起こすファイ。
「だ、大丈夫ですか?」
「何とか、な。俺も……ヤキが回ったもんだぜ」
「ファイさん……。ごめんなさい。俺を庇ったせいで……」
「お前に泥トカゲの弱点探しを指示したのは俺だ。気にするな。想像以上にヤツの動きが早かった。ただ、それだけの事だ」
「……」
「さて、と……。どうするかな」
いつもとは打って変わって鈍重な所作で立ち上がるファイ。左手はだらりと下がっている。
「ファイさん……その手……」
「ん? ああ、折れてるみたいだ。吹き飛ばされなかっただけでも上出来だろ?」
ヒッカは言葉を失っていた。自分が意識を集中するあまり、泥被り大トカゲの攻撃に気づけなかった。それを身を挺して庇ってボロボロになっているファイ。その事実すら寛容に受け止める度量。
ヒッカは茫然自失となっていた。
優しくヒッカの肩に手を置くファイ。
「反省会はヤツに勝ってからだ」
遠くから地響きが聞こえる。
「ふう。やっこさん、どうしても俺たちを潰したいらしいな」
泥被り大トカゲが土埃を巻き上げながら迫ってくる!
「ファイさん!」
「うおっ!」
ヒッカはファイに対して、自己治癒力強化の【キュアブリーズ】を発動した。
ファイの傷が少しずつ塞がっていく。
「おお。これは」
「まだいきます。【キュアブリーズ】!」
今度はファイの左腕に集中的に発動する。
「ぐっぐぐ。つぅ」
「もう少し……です。まだ! ええい!」
「うおお!!」
「はぁはぁ……っはぁ」
肩で荒く息をするヒッカ。
「お、おい。大丈夫か?」
「ええ。俺は平気です。それで、腕の方はどう、ですか?」
「あ、ああ。悪くない。完璧に折れたと思ったがくっついているみたいだな。ほら!」
そう言って手を振り回すファイ。
「いって!」
「まだ、みたいですね。ならもう一回!」
「よせ! 無茶はするな!」
「【キュアブリーズ】!」
吹き荒ぶ風属性の魔力がファイを包み込む。
荒々しいながらも、全身から痛みが引いていくのを感じた。
「これは……!?」
「これで、多分大丈夫、です」
ファイは左手に右拳を打ちつける。
「確かにこれなら戦える。すまんな」
泥被り大トカゲの足音がいよいよ大きくなる。
「それで? 泥トカゲの弱点らしきものは見つけられたのか?」
「いえ、それはまだ……」
「そうか」
ファイは静かに炎の魔力を高める。
「こうなったら挟み撃ちで仕留めるか」
「挟み撃ち?」
「俺とお前でそれぞれに炎と風をぶつけるんだ!」
ついにヒッカとファイの元に辿り着いた泥被り大トカゲ。先制攻撃と言わんばかりに逞しい前腕を振り下ろしてくる。
ヒッカとファイは二手に分かれる事にした。
まるでアクロバットの様に跳躍するファイ。
「いくぜ! 【ヒートハート】!」
左手に右拳を打ちつけ、炎の魔力を一気呵成に纏う。
「すごいや……。でも、俺も! はぁああああ!」
ファイとは正反対の方向に降り立ったヒッカ。全身に荒れ狂う風の魔力を纏う。
「……」
泥被り大トカゲは一瞬、逡巡したがすぐさま手近のファイに攻撃を向ける。
振り下ろされる巨大な爪を掻い潜る。懐に渾身の魔力を込めた一撃を見舞う。
「ギギー!」
「どうだ。効いたか?」
ファイ渾身の一撃がついに泥被り大トカゲにダメージを与えたのか、動きが鈍る。
(今だ!)
この時を待っていたと言わんばかりに、ヒッカが特大の風魔法を発動する。
「【ガストバースト】!!」
「!!!!」
巨大な風玉は泥被り大トカゲの背中を抉っていった。
(何!? まさか滑った!?)
ヒッカは確かに泥被り大トカゲの胴体を目掛けて【ガストバースト】を発動した。にも関わらず、胴体を貫通する事はできなかった。まるでヒッカの攻撃をいなす様に、【ガストバースト】の力のベクトルを空にずらした様に思われた。
だが、そうは言っても泥被り大トカゲの体の一部を削り取ったのは事実である。ヒッカはこのまま攻撃を続ける選択をする。
(このまま押し切ってやる!)
再び風魔力を右手に集中させるヒッカ。
「ヒッカー! 下がれー!」
「!!」
ファイの大声にヒッカは思わず後退する。
その刹那、地面が抉られる。泥被り大トカゲが長い舌でヒッカを狙っていたのだった。
(なんて奴だ。けど……)
ヒッカは風魔力を収束した指を泥被り大トカゲに向ける。
「コイツはお返しだー!」
再び風玉が放たれる。
その風玉は先ほどよりは小さい。が、魔力は大きく収束させてある。これが直撃すれば、さすがにかなりのダメージを見込めるだろう。そうヒッカは思っていた。
泥被り大トカゲの尻尾が奇妙な動きを見せる。
違和感を覚えたヒッカ。その直感が現実のものとなり、風玉は泥被り大トカゲにヒットする前に爆ぜる事になる。
「な!?」
「ヤツめ、自分の尻尾を盾にしやがったか」
泥被り大トカゲの尻尾は先端部の方が消失していた。
「くそ! だけどこれで終わりじゃないぞ!」
ヒッカは再び、素早く魔力を収束させる。
「……」
ヒッカの攻撃態勢を認め、泥被り大トカゲは千切れた尻尾を地面に突きした。
(ん? 何をしている?)
ファイは嫌な気配を感じた。
「くらえーっ!!」
再び放たれる風玉。何と泥被り大トカゲは当然の様に尻尾で風玉と相打ちに持ち込む。
「なんて……やつなんだ」
一気に疲労感がヒッカを襲う。ヒッカは見てしまっていたのだ。先ほど、確かに爆砕した尻尾が瞬時に再生されていた事を。
(これはまずいな……。あの体躯であれば魔力も潤沢だろう。このまま撃ち続けても俺たちは不利だ。こうなったら……!)
ヒッカはある覚悟を決めた。
「ファイさーん!」
「何だ!?」
「中距離以遠の炎属性魔法使えますかー?」
「何だって? お前、一体何をする気だ?」
「ユニオン魔法です!」
「ユニオン魔法……だと!?」
異なる属性の魔法を合体させてその威力や効果を引き上げる魔法。即席の組み合わせではあるが、ヒッカは一か八かの賭けに出ようとしていた。
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