131話 奥の手があります!
ドインは今にも一人で泥かぶり大トカゲに突撃しそうな勢いだ。ヅーチェがそれを引き止める。
「そんな! あんな化け物相手に無茶ですよ! 僕たちの手に負える相手じゃなかったんです!」
「残念だが……同感だな。俺たちと……泥トカゲでは分が悪い。正直舐めていた。せめてもう一人……手練れがいれば、な」
「父ちゃん……」
みな、泥かぶり大トカゲに立ち向かう事に及び腰だ。
(本当に他に何か手は無いか!? 何か……!)
ヒッカは懸命に善後策を模索してきた。頭の中で思考がグルグル回る。
(魔獣だって生き物だ。絶対どこかに急所はある!)
ヒッカはこれまでの泥かぶり大トカゲの行動を振り返る。
まずヒッカの風属性魔法は泥かぶり大トカゲに対して、さしたる脅威にはならなかった。風属性が効果的ならば相手は土属性、減衰するのであれば相手は炎属性と言うのが一般的な解釈だ。つまり泥かぶり大トカゲの主属性は、土属性でも炎属性でもない可能性が高い事を示している。
続いてファイの炎属性の攻撃だ。こちらは炎属性攻撃の威力が幾分減衰している様子が見受けられた。炎属性が減衰するのは相手が水属性の場合だ。
(やはり泥かぶり大トカゲは水属性か……!?)
水属性に対する優位属性は『土属性』だ。土属性はドワーフの十八番であり、ドインやドルクも使える。ただ、ドインは一撃必殺用の魔力を温存する必要があり、無駄撃ちはできない。ドルクの方も移動魔法しか使っている様子はない。
つまるところ、今のパーティー内に土属性で攻撃できるメンバーはいないと言う事になる。かろうじてヒッカが土属性の魔法、【大地の賢人】を使えるくらいだ。
泥かぶり大トカゲがこちらに向かってくるのが見える。ヒッカに迷っている時間は無かった。
「ドルク、お願いがあるんだ」
「ん? 何だ一体?」
「ファイさんとヅーチェさんを連れて村に帰って欲しい」
「ええー!?」
「な!? 何を言ってるんですか?」
「そうだ。お前一人では自殺行為だ。勇気と蛮勇を履き違えるな」
「だ。オイラだって村を守る戦士として立派に戦うだ!」
ヒッカは皆の声が聞こえていないかの様に魔力を両腕に集中させる。
「おいヒッカ!」
「大丈夫です。俺だけで戦うつもりはありませんよ?」
ヒッカはファイに答える。そしてドルクの方に向き直り、言葉を続けた。
「ドルク、村に戻ったらライクを連れて戻ってきて欲しい。できる?」
「え? 何でだ? 危ないだ」
「お願いだドルク。君にしか頼めない。ライクを連れてきてほしい」
「それはできるだが……何でなんだ?」
「風の精霊の力を借りる」
「どう言う事だ? 訳が分からないだ」
ヒッカはその質問に答えなかった。代わりに両腕の魔力を大地に放った。
泥かぶり大トカゲが突進してくる。とてつもないスピードだ。
「はぁあああ! 【大地の賢人】!」
ヒッカの魔力を受けた地面はたちまち、巨大な両腕となった。
「ドルク! 早く! 頼むよ!!」
泥かぶり大トカゲの体当たりを大地の両手が真正面から受け止めた。泥かぶり大トカゲは激しく暴れ回るものの、ヒッカがそれをどうにか押さえ込んでいる。
「おお、これはすごいな……」
そばで見ていたドインは感嘆の声をあげる。
「ドインさんは……下がってて、ください! それは、まだ……」
ボン! と何かが爆ぜる音がする。泥かぶり大トカゲがヒッカの【大地の賢人】を一部破壊した。土で象られた右腕は手首から先が無くなっている。泥かぶり大トカゲはその空いた隙間に体を滑らせた。
「くっ、そ!」
すぐさま反応するヒッカ。新たに地面に魔力を注ぎ込み新たな右手を生成する。その右手は泥かぶり大トカゲの頭部を掴んだ。
「早く! このままじゃ全滅して村が滅ぶぞ!」
珍しく怒りの感情を滲ませてヒッカが叫ぶ。この状況だ。少なくとも他者を庇うほどの余裕は無い。
「わ、分かっただ! んむむむむむ……」
ただならぬ気配を察し、ドルクは地下トンネルを生成すべく魔力を高めた。
その間にも泥かぶり大トカゲは容赦なく攻め立てる。
(厄介なやつだ。本当に俺一人で持ち堪えられるか!?)
「やー!!」
ドルクが叫んだ。
「みんな早く中に入るだ!」
「俺が尻尾巻いて逃げる訳にはいかん」
ファイは立ち上がってはいるものの、フラフラだった。戦力になるかはかなり微妙なところだ。
「何をするつもりですか? 貴方はボロボロですよ。僕だって魔力をかなり消耗しています。このまま無策で挑んでも返り討ちにあうだけです」
「しかし……ヒッカだけに……」
「ここは俺に任せてください!」
ヒッカがファイの言葉をかき消す。
「奥の手があります!」
「何? まだ何かあるのか?」
「ええ。ですから、大丈夫です。ただ時間も無いので早く村に戻ってください」
「今はヒッカの言葉を信じましょう」
「そうしてください! それに、万が一の時には村を守ってください!」
「お願いなのだ。オイラ、ここに戻ってくるだけの魔力がなくなっちゃうだ」
「さあ早く! 僕たちも時間がありません」
「……そうだな」
つい「ファイはドルクのトンネルに入っていった。ヅーチェもそれに続く。
(奥の手……一体何をするつもりなんですか?)
ドルクのトンネルの入り口が閉まっていく。遠目に見えるヒッカの目は闘志に満ち溢れていた。
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