表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
273/321

9. 現れた軍団

前話のあらすじ


追跡作戦開始。

移動途中でベルタと話をしていたところ、目的の気配が……?

   9



 サルビアが告げた『異界の扉』の存在。


 当然、おれも気付いていた。


 これまでは漠然と方向がわかるだけだった遠い存在が、ようやく距離が把握できるくらいに近付いてきたのだ。


「高度を落としてくれ!」


 大声で指示を叫ぶと、ドラゴンが応じた。


 高度を落として旋回を始める。


 後続のドラゴンたちも従った。

 距離があって様子を窺うことはできないが、今頃、やることのない空の旅に飽きかけていた探索隊の面々は、やっと見付かったかと色めき立っていることだろう。


 おれはリリィに支えられながら、ドラゴンの背中から大きく身を乗り出した。


 近くなった地上の景色には、森ばかりしかない。


 だが、確かに『ある』。

 そう感じられる。


 だから、おれは口を開いた。


「魔法『霧の仮宿』」


 自分に許された唯一の魔法を展開する。


 ゲルトが遺した言葉が正しいのだとすれば、これは『世界の礎石』を除いては唯一の、『異界の扉』を見付ける『羅針盤』であり、こじ開ける『鍵』だ。


 爆発的に広がった霧が、飛行機雲のように尾を引く。

 霧は薄く広がって、周辺の認識を可能とした。


 果たして、感覚の網に引っ掛かるものはあったのだ。


「あれか!」


 視線を眼下の森の一角に投げる。

 もちろん、ここからでは見えないが、把握はできた。


 枠ごと引っこ抜かれた扉。


 神宮司に強奪された『異界の扉』は、森の片隅に放置されていた。


 見張りがひとりくらい残っている可能性も考えていたが、どうやらそれはなさそうだ。


 森の深いところに追跡不可能な空路を使って移動した以上、必要ないものと判断したのだろう。


 それは決して迂闊な判断というわけではないし、むしろこれだけ離れた場所まで逃げてから扉をくぐった神宮司の用心深さには辟易するほどだ。


 だが、その目論見は狂った。


 死した大神官の執念と、里を滅ぼされた竜の敵意が一矢報いたのだ。


 もっとも、扉はただ見付けただけでは意味がない。


「……ここから先は、おれたちの仕事だ」


 多少強引にでも、鍵を突っ込んでこじ開ける必要があった。


 それはおれたちにしかできないことだ。


「サルビア!」

「ええ。やりましょう、旦那様!」


 呼び掛けに応えたサルビアが、うしろから抱き着いてくる。


 感覚を重ね合い、互いが互いを高め合う、


 触覚となった霧が扉に触れる。

 その奥にまで、感覚の指先を伸ばして――


「よし!」


 ――扉の奥の異界に『霧の仮宿』が触れた感触があった。


 この土壇場まで一抹の不安もあったのだが、うまく干渉することができたのだ。


 同時に、抵抗を感じた。


 扉を無理矢理突き抜けた触覚の指先に、侵入を拒む壁のようなものがあった。


 驚きはない。

 事前にハリスンから聞かされていたからだ。


 どうやら異界そのものに備わった防衛機構のようなものらしい。


 たとえ『世界の礎石』を持っていたとしても、正規の手順を踏まなければ開かないようになっているのだ。

 鍵を回したあとで暗証番号を打ち込むようなシステムを考えればわかりやすい。


 ましてや、おれは正規の鍵さえ持っていない。


 抵抗があるのは予想されたことで――


「……え?」


 ――予想外だったのは、思いのほか呆気なく、感覚の手が防壁を突き破ったことだった。


 その呆気なさは、発泡スチロールを殴り付けた感覚に似ていた。


 とは言っても、抵抗が弱かったというわけではない。

 異界でのハリスンの攻防に近い抵抗はあったはずだ。


 変わっていたのは、こちらのほうだった。


「……驚いたわ、旦那様の干渉力、以前とは段違いじゃない」


 サルビアが声をあげたのも、自然なことと言えるだろう。

 おれ自身、戸惑いを隠せなかった。


「どうして……?」


 干渉力が上がっているのは間違いないが、原因に心当たりがなかった。


 以前といま。

 なにか変わったことがあっただろうか。


 しかし、異界に触れたのはつい二日前のことだ。

 この短い間に、思い当たるふしはない。


 せいぜい、加藤さんとパスを繋いだことくらいだろうか。


 あのとき初めて、おれは本来あったはずのかたちで能力を発揮した。

 間違いなく大きな前進であり、変化だった。


 とはいえ、その一方で、それが『霧の仮宿』の異界への干渉力を劇的に向上させたとも考えづらい。


 心を繋ぐ能力はおれの力だが、異界への干渉力は『霧の仮宿』の力であり、まったく別のものだからだ。


 あるいは、別の理由があるのかもしれないが……。


「……いや。いまは目の前のことだ」


 残念ながら、あまり考えている暇はなかった。


 早く神宮寺に追い付かなければならないというのもあったが、もっと直接的な脅威があったからだ。


「孝弘殿! 来ました!」


 最初に異変を見付けたのは、シランだった。

 ある一面ではおれの『霧の仮宿』をも上回る精霊の感知能力を駆使したのだろう。


 森の一角で変化が起きていた。


 半透明の真っ黒い球体が、森に埋もれるようにして膨れ上がったのだ。


 大きさは木々を遥かに超えて、あっという間に小山ほどになった。


 おれが扉の存在を感知していた位置だった。


 もちろん、なにかの偶然などではありえない。


「あれが『異界の扉』……!」


 本来であれば、『世界の礎石』を用いて正しい手順で『異界の扉』を開けた場合は、扉が消失してその向こう側に異界へ続く黒い壁が現れるらしい。


 しかし、今回はイレギュラーな手順で侵入した。


 過去にはエルフたちが『世界の礎石』に接触を測った際に、同様の現象が確認されたらしいのだが、強引に突破したせいで制御が一部崩れた結果、あのような光景が生まれるのだろうという話だった。


 もっとも、見た目が違っても性質は変わらない。

 あの球体に飛び込めば、異界へと突入することはできる。


 あれだけ巨大であれば、このままドラゴンの背中に乗って突っ込むことも不可能ではないが、降りて向かうことが事前に決められていた。


 危険であることが予測されていたからだ。


「来たな……」


 聞いていた通りの光景に、おれは低くつぶやいた。


 広がった黒い球体の表面から、ぼこぼこと生み出されるものがあったのだ。


「『守護の巨人』……!」


 それは、黒光りする体躯を持つ無機質な巨人だった。


 おれが放り込まれた異界のモンスターと同じく、異界から産み落とされた存在である。


 周囲の木々との比較から三メートル以上はあるだろう体に、人間でいうところの頭部はなく、体躯の中央に目のような模様が刻まれている。


 全体的な見た目は、どことなくエルフの使役する精霊に通じるものがあった。


 もっとも、精霊にあるような愛嬌はなく、印象は武骨そのもので非常に剣呑だ。


 それもそのはず。

 世界を維持する『世界の礎石』の安置場所に続く異界を、正規の手段以外で開こうとする者を排除するために初代勇者が準備した防衛機構こそが『守護の巨人』なのだ。


 ハリスンから聞いていたのと少し姿は違ったのだが、まず同じ存在と考えて間違いはないだろう。


 勇者直系とその下のエルフたちの精鋭百名ほどが異界に侵入した際には、半数近くが『守護の巨人』との戦いのなかで戦死したと記録が残っている。


 いまの『守護の巨人』の見た目が精霊のものに近いのは、最後に『世界の礎石』で世界観を書き換えたのがエルフたちであることが影響しているのかもしれなかった。


 黒い球体のそこかしこから『守護の巨人』は生み出されていた。

 あれを突破しなければ、異界に足を踏み入れることはできない。


 ゆえに、役者は交代。ここから先は頼むべき相手がいる。


「ありがとう、あとは離れていてくれ」


 木々をへし折りながら地面に降り立ったドラゴンにお礼を言って、おれはみんなと一緒に背中から降りた。


 続いて、周りに次々と探索隊のメンバーが降り立っていく。


「全員集まれ!」


 中嶋さんが号令をかける声が聞こえた。


 探索隊のメンバーと同様に、おれも眷属たちを連れて中嶋さんのもとに急いだ。


 さいわい、距離は近かったので合流はすぐにできた。


「お、来たな。お疲れ様」

「はい。ここからはお願いします」


 笑顔で声をかけてくる中嶋さんに手を振り返して、全員が揃うのを待つ。

 木々が邪魔で見えないが、おれたちに気付いた『守護の巨人』たちも、こちらに向かってきているようだった。


 かつてはエルフたちの命を奪った『守護の巨人』だが、ひとりひとりが勇者の力を持つ探索隊が統率を保って当たれば、対処は難しくない。


 ここまでは計画通り……と、思ったそのときだった。


 状況が変化したのは。


「……なんだ?」


 突然、大勢のドラゴンの鳴き声が聞こえたのだ。


 おれたちを連れてきた竜淵の里のドラゴンたちの声だった。

 すぐに遠ざかるように言っておいたので、その指示に従った彼らの声は遠くから響いた。


 まるでなにかを見付けたかのような、驚愕と悲痛に満ちた叫び声だった。


 思わずおれたちは頭上を仰ぎ――遠い空に、それを見付けた。


「……嘘だ」


 ぽつりとつぶやいたのは、ロビビアだった。


 大空を飛行していたのは、体長五十メートルにも至らんとする巨大なドラゴンだったのだ。


 より正確に言えば、その骸だった。


 頑丈な甲殻は砕けてなお全身を覆い、その下の肉は腐り果てて、骨まで見えている箇所もある。


 そんな状態でありながら空を飛ぶことができているのは、すでにその身を突き動かしているのが温かな命ではなく、怨念の類であるからだ。


 あの威容を見間違えるはずもない。

 竜淵の里の長だった甲殻竜マルヴィナ――その変わり果てた姿だった。


 屍竜はおれたちとは、ほとんど逆側から異界に突入しようとしていた。


 彼女だけではない。

 よく見れば、その広大な背中には軍勢としか呼びようのないモンスターの大群が乗っていた。


「まさか、王……!?」


 ベルタが愕然とした声をあげるのが聞こえた。


 距離があり過ぎて、細身の少年の姿を見付けることはできないが、あれが工藤の支配下にあるモンスターの群れであることは疑いようがなかった。


 どうしてこんなところに……と、考えたところで、ぞっとした。


 いつか語られた望みを思い出したからだ。



 ――ぼくのことをこんな目に合わせる世界なんて、滅びてしまえ。ぼくは、そう願ったんです。



 工藤はそう言っていた。


 この状況は、まさにその望みを叶える絶好の機会ではないだろうか。


 昨日の時点で、ベルタ経由で世界の真実は工藤に伝わっていた。

 その時点では、さして問題ではなかった。


 しかし、神宮司の行動によって、状況が変わってしまった。


 世界を維持する『世界の礎石』の保管場所が暴かれ、『異界の扉』は強奪され、世界を破壊する道筋ができてしまった。


 だからこそ、工藤は動き出したのではないだろうか。

 己の最大の目的を果たすために。


 そして、まさにいま異界の扉が開いたことで、侵攻を開始したのだ。


 直後、背筋を凍らせるような、怨嗟に満ちた咆哮が耳朶を打った。


 魔王の軍勢を背に、竜の骸が吠えたのだ。


 恨みと憎しみ、怒りで狂い果てた屍竜の鳴き声。

 言葉などなくとも伝わってくるものがあった。


 ――許さない。許さない。絶対に許さない。

 ――我が子の死を贖え。


 ――我が恨みを、思い知れ。


 自分の子供たちを殺された母の憎しみが『竜人』の二つ名を持つ少年の死を望んで荒れ狂っている。


 激情を勢いに換えて、屍竜が『異界の扉』へと突っ込んでいった。


 しかし、次の瞬間、『異界の扉』の黒い表面から無数の熱線が照射された。


 黒い球体の表面から現れた『守護の巨人』が、体躯の中央に刻まれた目のような文様から熱線を放射して、突っ込んでくる屍竜を迎撃したのだ。

 これこそが、おれたちが竜淵の里のドラゴンに乗って突入できなかった理由だった。


 熱線はひとつひとつが第三階梯の魔法にも匹敵する威力がある。

 おれたちを連れてきてくれたドラゴンたちをそのまま突入させていれば、大きな被害が出たことだろう。


 ただ、『異界の扉』出現直後からは、少し状況が変化していた。


 すでに異界の扉は相当数の『守護の巨人』を、おれたちの迎撃のために出している。

 そのため、時間差で現れた屍竜に対して、射線はある程度少なくなっていた。


 加えて、やはりマルヴィナの巨体と、その身を覆う甲殻の防御力は圧倒的だった。

 すでに死した彼女には痛覚さえもなく、欠片の躊躇いもなく突撃は敢行された。


「突っ込んだぞ……!」


 誰かが叫んだ直後、巨体が異界の扉に激突した。

 かなりの数の『守護の巨人』が、その重量と衝撃で破砕されるのが見える。


 そのまま屍竜の巨体は、異界の扉の黒い球体のなかに消えていった。


   ***


「……」


 おれは言葉を失っていた。


 屍竜は異界に突入した。

 その背中に乗った大勢のモンスターとともに。


 魔王の軍勢は、異界へと侵入を果たしたのだった。


「……先を越されたな」


 つぶやきを聞いて、おれは我に返った。


 不敵な笑みを浮かべた中嶋さんの姿がそこにあった。


「どういうつもりかわからないが、『魔軍の王』が動いてるのか。これは負けちゃいられねえな」


 悔しそうではあるものの、その言葉に暗いものはなかった。


 むしろ彼は、昂っているようにさえ見えた。


「とめる相手がひとり増えたぜ! みんな、気合いを入れろ!」


 困難ならば打破する。

 理不尽は屈服させる。

 負けそうならば覆す。


 不屈の意志と無双の力を武器に、前に進む。


 なるほど、これが中嶋小次郎。

 探索隊でリーダーを務める男か。


 自負のある男の声には、同じ男であっても惹き付けられるような魅力があった。


 唐突な事態に呆気に取られていた探索隊の面々が、表情に輝きを取り戻していった。


 その一方で、おれ自身は別の軸で動いていた。


 中嶋小次郎は探索隊の長であって、真島孝弘にとってのリーダーではない。


 自分こそがみんなを率いる主であり、為すべきことがあった。


「ロビビア! 追い掛けるぞ!」


 呆然としているロビビアの両肩を掴んで、顔を覗き込んだ。


「た、孝弘……」

「マルヴィナがアンデッド・モンスターになっていることは、わかっていたはずだ。工藤の配下になっていたのは驚いたが、やることは変わらない。静かに眠らせてやらなきゃいけない。違うか?」


 思わぬタイミングで遭ってしまったために、驚きもしただろう。

 無残に変わり果てた姿を目の当たりにした衝撃はどれほどだったのか想像すると、小さな体を抱き締めてやりたくもなる。


 けれど、おれはロビビアの強さを知っている。


 たとえ幼くとも、彼女には大事なものを守るために戦う心の強さがある。


 そして、関係をこじらせたままで死に別れてしまっていたとしても、彼女は母親を愛していた。

 ここで呆然としたままでいるはずなどなかった。


 自分の為すべきことを思い出した少女の目に、強い意思の炎が燃え上がるのを確認して、おれは肩から手を放した。


「工藤の向かう先もおれたちと同じだろう。追い掛けるぞ」

「……ああ。絶対、追い付いてやる」


 頷き合ってから、おれは視線を巡らせた。

 もうひとり、声をかけておかなれければならない者がいたからだ。


「真島孝弘……」


 気の毒になるほど尻尾を下げて、こちらを見るベルタの姿があった。


「申し訳ないと考えているなら気にするな。あれはお前がやったことじゃない」

「だが……」

「さっき言っていたよな。工藤に自分の在り方を選んでもらいたいって。だったら、こんなところでへこんでいる暇なんてないはずだ」


 良くも悪くも、ベルタを動かすものは工藤の存在だ。


 実直な性格の彼女は、それでも逡巡するものがあったようだが、最後には頷いた。


「ありがとう。そして、すまない」


 後半はロビビアに向けたものだったが、彼女は気にするなとばかりにばさりと翼を羽ばたかせると鼻を鳴らしてみせた。


 こちらはこれで大丈夫だろう。


 視線を向けると、中嶋さんが笑顔を向けてきた。


「もう大丈夫みたいだな」

「はい。お待たせしました。行きましょう」

「よし。道中の安全は任せろ。まず異界に突入するまでは、手筈通りにおれが真島と先頭に立って、残りは側面と後方を守らせる。河津たちは後方の補助を頼めるな」

「わかりました」


 河津が応えた。


 あくまで彼を含めた帝都組は、探索隊と別の集団だ。


 今回の作戦は、探索隊と、聖堂教会属する帝都組、そして、おれたちの三集団の合同作戦なのだ。


 世界の危機を防ぐために、各々が自分の役割を果たすことが重要だった。


「行くぞ!」


 中嶋さんが吠えると、探索隊メンバーはチート持ち特有のすさまじい身体能力で走り出した。


 長期戦を見据えて押さえてはいるのだろうが、おれの全力疾走に近い。


 こんなスピードで走っていては、ほどなく息切れしてしまうだろう。


 この異世界に転移してきた直後とは比べものにならないくらいに近付いてはいるものの、やはりまだおれ個人の純粋な戦闘能力では、探索隊には敵わない。


 無論、それでかまわないのだ。

 ここでのおれの仕事は、戦うことではないのだから。


 おれは大人しくベルタの背中に乗っていた。


 ロビビアとあやめも一緒だった。

 探索隊と一緒の作戦という都合上、ベルタは本性を露わにしておらず、戦闘能力が全力よりやや落ちるのだが、それをロビビアとあやめで補助しようというコンセプトだった。


 さらに、眷属でも一、二を争う戦闘力のリリィとシランが脇を固める。

 探索隊クラス数人に襲われてもそう簡単にはやられはしない布陣だった。


 おれたちは、探索隊と帝都組とともに森を抜けて、異界の扉へと近付いていった。


 しかし、その進路に何十体もの『守護の巨人』が立ち塞がった。


 普通のモンスターではない。

 一体一体が、レア・モンスター……それも、上位の戦闘能力を持っている。


 なにより脅威的なのは、先程の熱線攻撃を集団で仕掛けてくることだ。

 近接戦闘もこなせるし、乱戦であれば同士討ちになる熱線が使えないかと思いきや、お互いには熱線のダメージが通らないのでむしろ乱戦は危ない。


 そうした情報を聖堂教会からもらえたことは、共同作戦の強みではあったが、あれだけいるとなるとまともな対処は難しい。


 正面から戦えば、たとえ探索隊のチート持ちでも足留めを喰らってしまうだろう。


 だが、足はとめない。


 その必要がなかった。


「ああして真島が仕事をこなしてくれたんだ。おれもきっちり自分の仕事はしねえとな」


 駆ける中嶋さんが獰猛に笑い、片腕を振り上げた。


 その掌から、凄まじいまでの魔力が噴き出した。

 魔力は瞬く間に光の剣に変わった。


 中嶋さんは自信に満ちた声で宣言した。


「『片手剣』だ。吹き飛べ」


 中嶋小次郎の『光の剣』は、文字通りに光属性の剣を生み出す能力だ。


 ただし、その威力は剣に魔力を溜めていた時間に比例して変わる。


 溜めなしで使えば『小剣』。

 一日溜めれば『片手剣』。

 十日溜めると『大剣』。


 当然だが『小剣』『片手剣』『大剣』の順番に威力が上昇していく。


 ただ振るうだけでもその威力は驚異的だが、最大威力はそのエネルギーを解き放って振るわれる『最大解放』にある。


「カァアアアアアア――ッ!」


 気合いとともに振るわれた『片手剣』がほどけて、目を焼く光の奔流に変わった。


 これこそが、まさに勇者の一撃か。


 光が消えたそのときには、粉々に打ち砕かれた瓦礫の山と、薙ぎ倒されて木片となった森の木々が『異界の扉』への道を作っていた。


「……あの数を一撃で」


 事前に聞いてはいたものの、目の前の光景の衝撃は大きい。


 思わずつぶやくと、中嶋さんが気の良い笑いを向けてきた。


「『一本消費した』けどな」


 光剣は無制限に使えるわけではない。

 普通に使っていても少しずつ消耗していき、『最大解放』では一発で消費してしまうのだ。


 とはいえ、説明された話では『光の剣』はストックが可能なのだという。


 最大で『片手剣』なら三十本、『大剣』は五本までストックできる。


 つまり、あの攻撃は三十発撃てるということだ。

 そのうえ、数は少ないながらも、より強力な攻撃も控えている。


 ……もう割り切れていることなので、普段はあまり思わないのだが、少しだけ羨ましい。


 これだけの力があれば、リリィたちを絶対に守ることができるだろうから。


 そんな考えが一瞬過ったのを振り払って、おれは近付いてくる黒球を見据えた。


 いまはやるべきことに集中するべきだ。


 探索隊、帝都組とともに、おれたちは異界に突入した。

◆『光の剣』の実力が明らかになりました。

この章では、探索隊メンバーの能力も明らかになるものと思います。お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ