62. 再びの帝都
(注意)本日2回目の投稿です。(11/18)
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危難を乗り越えて、事件は終息する。
その後、おれはリリィたちと無事合流した。
もちろん、幹彦や飯野、島津さんも一緒だった。
唯一の例外は工藤で、彼は合流の直前に姿をくらませていた。
飯野あたりと顔を合わせれば、ややこしいことになりかねなかったから、これは順当と言えるだろう。
幹彦の持っていた遠距離通信用の魔法道具でシランと連絡を取ったところ、同盟騎士団とともに団長を救出した彼女は、アケルから一緒に来たフィリップさんや竜淵の里の面々と合流して、すでに帝都を出たということだった。
竜淵の里のドラゴンたちは空を飛べるため、脱出自体はそう難しくなかったようだ。
また、転移に巻き込まれていたゴードンさんと少数の聖堂騎士の存在についても、そのときに知らされた。
おれたちは帝都から何十キロも離れた荒野に放り出されていたが、その日のうちには、空路を使ったシランたちと合流することができた。
同じく荒野に放り出されていたゴードンさんたちも、魔法『霧の仮宿』を使って発見できた。
ちなみに、転移者らしき人物も数名見付けたが、接触はやめておいた。
触らぬ神に祟りなし。
保護してやる必要はないし、わざわざこちらから攻撃を仕掛けて面倒事を増やす意味もない。放っておくでいいだろう。
合流したみんなと必要な情報を共有したところで――無論、アケルの人々などには世界の真実について話せないこともあったが――その日は休むことになった。
死線をくぐり抜けて、さすがに疲れ果てていたのだ。
幹彦と団長さんはなにやら話をしていたようだ。
積もる話もあるに違いないと、そっとしておいた。
対して、口数が少なく気になったのが飯野だ。
表情は常に強張っており、目元には思い詰めたようなものがあった。
脚を大怪我したことばかりが理由ではないだろう。
彼女が見たものについては話に聞いていた。
探索隊を離れた『竜人』神宮司智也が、元の世界に戻れるという甘言を信じて敵に回っていたこと。
帝都に保護されていた『失敗した転移者』河津朝日と思われる人物が確認されたこと。
探索隊のリーダーである中嶋さんに話をしなければいけないという飯野の表情には思い詰めたものもあって、おれも少し心配になるくらいだった。
ともあれ、一晩も休めば島津さんの体調もある程度は回復して『妖精の輪』も使えるようになる。
行動を取るとすれば、明日からだ。
おれたちは交代で見張りをしつつ、必要な休息を取った。
翌日のことだった。
「帝都に戻りたいと思います」
申し出てきたのは、ゴードンさんだった。
ゴードンさんとその部下は、今回の事件ではシランと一緒に戦ってくれた。
しかし、ハリスンの部下という意味では敵にもなりうる。
そのため、いまは武装を解除して、半ば捕虜のようなかたちで扱っていた。
正確にいえば、そうした扱いをゴードンさん自身が望んだのだった。
相変わらず実直な人だった。
情報の重要性と機密性も鑑みて、騎士たちのなかでも責任者であるゴードンさんだけには、ハリスンから知らされた話を伝えてあった。
知らないで納得できる状況ではなかったし、彼自身が強く望んだことだったからだ。
とはいえ、伝えたのが正しいことだったのかはわからなかった。
「ハリスン様が、そのようなことを……」
おれが伝えたとき、ゴードンさんはだいぶ堪えた様子だった。
「ですが、納得いたしました。それは、わたしには話せないでしょうな。いえ、話したところで意味がないと言うべきか。わたしには罪なき者を斬ることはできそうにない……」
きっと彼は、ただモンスターという危機から人類を守るのであれば、誰よりも勇気と責任感を発揮して戦ってみせるだろう。
しかし、ことはそうではない。
「世界を守ることが聖堂騎士の本分だというのなら、わたしは義務を果たせない……」
彼には人は殺せない。
敵に回ることはない。
もちろん、そんな人物だとわかっていたから、話をしたのだった。
真実を知ったうえで、口が硬く信頼ができる人間は多ければ多いほうがいい。
ただ、懸念があるとすれば、知るべきではないことを知った彼のことをハリスンがどう扱うかということだった。
「どうしても戻るんですか」
「戻らねばなりません」
最初おれはゴードンさんにはこのまま一緒に来てくれないか頼むつもりだったが、彼の意志は強かった。
ゴードンさんと彼の部下は『妖精の輪』の力で帝都に送ってもらうことになった。
島津さんの護衛も兼ねて飯野も同行し、おれもリリィたち数名を連れていくことにした。
もちろん、帝都とは言っても、送る場所は聖堂教会の本拠地の大聖堂ではない。
距離はちゃんと取って、万が一にも襲撃を受けないようにする。
これだけの戦力がひとところに集まっていれば、まず危険はないし、すぐに島津さんの力で戻ってくる予定だった。
あとは、探索隊リーダーの中嶋さんと接触して、妙なことを聖堂教会から吹き込まれないように話をしておきたいところだが、こちらは状況によって可能であればの話になるだろう。
フィリップさんとも話をしたが、場合によっては、接触なしでアケルに帰国することになりそうだった。
「準備はいいね? それじゃあ、行くよ」
転移はつつがなく成功した。
場所は、帝都で島津さんが寝起きしている部屋、王城の一室だった。
帝都に逗留を始めてからそれなりに経つので、私物が多い。
ただ、綺麗に整頓されていて、女の子の部屋という感じだった。
ともあれ、帝都には到着した。
敏感な者であれば、いまの『妖精の輪』の転移の魔力の気配は感じ取れただろう。
探索隊のメンバーの何人かは気付いてやってくることを予想していた。
こちらには探索隊幹部の島津さんと飯野がいるし、可能であればやってきたメンバーに中嶋さんを呼んでもらって、あとは撤収だ。
そうして今後の手筈を頭に過ぎらせていたところで、リリィが声をあげた。
「え?」
愕然とした声だった。
「あ、あれって……?」
リリィは窓の外を見詰めていた。
全員がその視線を追った。
探索隊の一員である島津さんには良い部屋が割り当てられていたらしく、広く取られた窓の外には、帝都の街並みが見下ろせた。
その向こうに、王城よりも立派な建物が聳え立っていた。
荘厳たる白亜の建造物。
聖堂教会の大聖堂だ。
中央には広大なドーム状の本堂があり、連結した六つの巨大な尖塔は天高くそびえている。
……はずだったのだ。
「尖塔がなくなってる……?」
異常事態には、すぐに気付いた。
六本あるはずの尖塔が、四本になっていた。
なくなっている一本は、塔自体が確認できなかった。
もう一本は真ん中でへし折れて、無残な断面を晒している。
よく見れば、他の塔にも破損が見られた。
精緻な彫刻は損なわれ、白亜の壁面はところどころが崩れている。
離れていたのは、たった一日。
この世界で最大の権威と戦力を備え、安寧を司る聖堂教会の象徴たる建造物は、無残な姿を晒していたのだ。
「いったい、なにが……」
誰かのつぶやきが不吉に鼓膜を震わせた。
事件はまだ終わっていない。
世界の崩壊の危機が迫ろうとしていた。
◆これにて7章は閉幕となります。
引き続いて起こった事件は8章に続きます。
世界の根幹を脅かす事件に立ち向かうことになります。お楽しみに。
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