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銀河最果てのスペースオペラ  作者: 三日月
第1部:旅立ちと誓い編
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第8話:嵐の海と決意の砲火

「各部シーケンス正常! メインエンジン、水上離着陸モードから通常航行モードへ移行! 量子調律炉(りょうしちょうりつろ) 、アイドリング開始!」


月影 彗(つきかge けい) の叫びとともに、スターライト号の船底から青白いプラズマの噴出波が巻き起こった。


水上都市ルザルカの宙港を揺らし、船体が一気に上空へと舞い上がる。窓の外には、夜空を埋め尽くす巨大銀河帝国軍《きょだいいんがていこくぐん》 の黒き超大型戦艦――その圧倒的な巨躯と、周囲を取り囲む数十隻の大型ドロップシップ群が立ちはだかっていた。


「警告音を無視して街へ砲撃の兆候あり! あいつら、本当に見せしめでルザルカの水上プラットフォームを壊す気だよ!」


「させるかよっ! 舞台を汚す奴らに、俺たちの歌劇《ステージ》は渡さない!」


操縦桿を握りしめた座長・星原 昴(ほしはら すばる) の目が鋭く光る。


「咲良(サクラ) 、奏芽(カナメ) ! 準備はいいか!?」


「いつでもいけるよ、昴くん! こんな最高な夜のアンコールを邪魔されたんだもん、咲良、絶対にゆるさないんだから!」


ピンク色の衣装の裾をはためかせ、花園 咲良(はなぞの さくら) がシートの上でビシッと拳を突き出す。


そして、その隣――新調した星空と深海色のドレスを纏い、オーロラシルバーの髪を揺らした奏芽が、静かに、けれど揺るぎない眼差しで前方の敵艦隊を見据えていた。


「了解……座長。演算プログラム、および『心』に生じた全リソースを戦闘支援へ集中します。私の歌声は、もうただの出力データではありません。この街を……皆さんの笑顔を守るための旋律です」


奏芽の胸元で、量子調律炉(りょうしちょうりつろ) がこれまでにないほどの黄金色と碧色の光を交互に放ち始める。前話で涙を流し、人の悲しみと温もりに触れた彼女の内部回路は、旧帝国のプログラムを超越した未知の領域へと突入していた。


『――目標、巨大銀河帝国軍第3機動艦隊・旗艦《ヴェスペル》。敵主砲エネルギー充填率、七〇パーセント。ルザルカ市街地への発射まで、あと四十秒』


スターライト号のメインコンソールが激しく真っ赤に明滅する。


「四十秒!? 冗談じゃない、あの規模の主砲を直撃させられたら、ルザルカの半分が津波とショックウェーブで沈むぞ!」


彗が鍵盤の上で指を猛スピードで走らせる。


「ボクたちのシールドを最大展開して敵の射線に割り込むかい? でも、それではスターライト号の装甲が保たない!」


「割り込むだけじゃない! 敵の主砲そのものを撃ち抜いて、出鼻を挫く!」


昴がビシッと指を突きつけた。


「奏芽! 咲良! スターライト号のフロントデッキへ出られるか!?」


「ええっ!? 船の外で歌うの!?」


咲良が目を丸くする。


「そうだ! 彗、船の最前面に『音波指向性フィールド』を展開しろ! 奏芽の歌声をダイレクトに増幅し、エネルギー砲弾として敵の主砲へ叩き込む!」


「無茶苦茶だ……! でも、今の奏芽の調律炉出力なら、理論上は可能だね! 船外用のアシストシールドを二人にかける! 飛ばされないように気をつけてよ!」


「了解しました」


奏芽は迷うことなく立ち上がった。


「私が……皆さんの路を拓きます」


◇


スターライト号の先端、外部観察デッキ。


上空数千メートルを疾走する船体。激しい風圧と大気の摩擦熱が押し寄せるが、彗の張り巡らせた透明なエネルギーフィールドが咲良と奏芽を包み込み、呼吸と視界を確保していた。


眼下には、青く光るルザルカの街並み。逃げ惑う市民たちの姿、そして昼間助けたあのアクアンの少女が、両手を合わせて空を見上げているのが見えた。


「奏芽ちゃん……!」


咲良が奏芽の手をきゅっと握りしめる。


「咲良も一緒に歌う! 一人じゃないよ!」


「はい、咲良様。……呼吸を合わせます」


奏芽は深く息を吸い込み、上空に鎮座する黒き超巨大戦艦を見上げた。主砲の砲身に真っ赤なエネルギーが収束し、今にもルザルカへ向けて解き放たれようとしている。


『――敵主砲、発射五秒前! 四、三……!』


「歌え、奏芽ーーーーっ!!」


ブリッジからの昴の叫びが、通信機を通じてデッキに響き渡った。


奏芽は可憐な唇を開き、全存在をかけた音節を解き放った。


「――♪♪♪」


それは、ただの歌声ではなかった。


前話で手に入れた「誰かを想う心」、咲良や昴から受け取った「温もり」、そしてルザルカの人々の笑顔を守りたいという「誓い」。それらすべての感情データが量子調律炉(りょうしちょうりつろ) を通じて高次元エネルギーへと変換され、眩い銀色の光の柱となって空へと突き抜けた!


「――な……何だと!?」


帝国艦隊の旗艦ブリッジで、司令官がモニターに映し出された光景に目を見開く。


奏芽の歌声に乗せて放たれた銀色の光束は、まさに発射されようとしていた敵主砲の砲口へまっすぐに突き刺さった。


『ガガガガガガガッ――線形エネルギー逆流! 砲身内部で誘爆が発生します!』


『バカな! 単一のアンドロイドの音波攻撃が、艦載主砲のプラズマを押し戻しているだと!?』


ドカンッ――!!


夜空を破裂させる大爆発が巻き起こった。


帝国旗艦の主砲が内部から吹き飛び、巨大な炎と黒煙が巨大な船体を包み込む。爆風によって周囲のドロップシップ群が次々と煽られ、陣形が大きく崩れ去った。


「主砲の破壊に成功! ルザルカへの砲撃を阻止したよ!」


彗が叫ぶ。


「やったぁぁぁっ! 奏芽ちゃん、すごい! すごいよ〜っ!」


咲良が抱きつき、奏芽の頬に自分の頬をすり寄せる。


「……出力、正常。ですが……敵の艦隊はまだ健在です」


奏芽の言葉通り、主砲を失った帝国旗艦だったが、なおも圧倒的な物量を誇る艦隊であることに変わりはなかった。激怒した司令官の声が、壊れかけた外部スピーカーから通信波となって届く。


『おのれ……よくも我が旗艦を! 全艦、対空レーザー斉射! |コード・グランドオペラ《奏芽》 を削り取ってでも回収しろ! 同行する害虫どもは微塵切りにせよ!』


無数の赤いレーザー光線が、夜空を網の目のように覆い尽くし、スターライト号へ降り注ぐ!


「くっ……! 流石にこの数は避けきれない!」


昴が操縦桿を激しく切り、回避運動をとるが、スターライト号の装甲にレーザーがかすり、激しい衝撃が船体を揺らした。


「座長! 船の右舷シールドが限界だ! このままじゃ叩き落とされる!」


「諦めるな! ここまで来て、引き下がれるか!」


絶体絶命の集中砲火。


しかし、デッキに立つ奏芽の瞳には、一切の迷いがなかった。


「……昴様。私に……操縦系統のリンクを一時的に引き渡してください」


「えっ……? 奏芽、お前が船を……!?」


「私の量子調律炉(りょうしちょうりつろ) とスターライト号のメインコンピューターをダイレクトに接続します。私の歌声で……この船を完全に『調律』します」


奏芽は胸のコアに手を当て、そっと目を閉じた。


「私に……皆さんの翼にならせてください」


昴は一瞬目を見張り、そしてニッと太陽のような笑顔を浮かべた。


「……信じるぞ、俺たちの歌姫! 彗、全アクセス権を奏芽へ回せ!」


『了解! 奏芽、スターライト号の全システムを君に託すよ!』


回路が接続された瞬間、スターライト号全体が眩い黄金色の光に包まれた。


船体のエンジン音が、まるで生き物のように美しく、力強いハミング音へと変化する。


「――♪」


奏芽が再び歌い始める。


その歌声と同期するように、スターライト号は物理法則を無視したかのような滑らかな軌道を描き始めた。迫り来る無数のレーザー光線の隙間を、まるで舞い踊る白鳥のようにすり抜けていく!


「バ、バカな!? あのポンコツ船が、我が軍の精密照準を全て回避しているだと!?」


驚愕する帝国兵たちの頭上を、スターライト号は光の残像を残しながら高速で駆け抜ける。


「咲良様! 決めます!」


「うんっ! 咲良たちの最高のクライマックス、見せてあげるんだからーっ!」


咲良がステージ用のホログラム弾幕を空へ放ち、夜空に眩い花火のような光を散らせる。敵のセンサーが完全に目眩ましを食らったその一瞬――。


「行くぞお前たち! 全開 跳躍(ハイパージャンプ) ――っ!」


昴が叫び、操縦桿を限界まで引き絞った!


奏芽の歌声が最高潮のクレッシェンドに達すると同時に、スターライト号は光の粒子となって亜空間へと姿を消した。


残されたのは、主砲を煙らせ、茫然と立ち尽くす巨大銀河帝国軍の艦隊だけだった。


◇


亜空間(ハイパースペース) の穏やかな光のトンネルの中。


スターライト号のブリッジには、激闘を乗り越えた四人の安堵の息が漏れていた。


「ふぅ……! た、助かった〜〜っ! 咲良、本気で星になるかと思ったよ〜っ!」


咲良が床に大の字になってひっくり返り、足をバタバタさせる。


「やれやれ……無茶苦茶な操縦だったけど、スターライト号のポテンシャルを完全に引き出してくれたね。脱帽だよ、奏芽」


彗がメガネを掛け直しながら、温かい眼差しを奏芽へ向けた。


そして、操縦席から歩み寄ってきた昴は、奏芽の前に立つと、誇らしげに彼女の頭をぽんぽんと撫でた。


「見事だったぞ、奏芽。お前の歌が、ルザルカの街も、俺たちの船も救ったんだ」


「……はい。……私の中の『心』が、そう命じました」


奏芽は自分の胸にそっと手を当てた。


「誰かを守りたいと思う気持ちが、これほど大きな力を生み出すとは……私のデータベースには記録されていませんでした。……ですが、いま私は、はっきりと理解できます」


奏芽は可憐な唇を緩め、今までにないほど柔らかく、温かい笑みを浮かべた。


「私は……皆さんと一緒に舞台に立てて、本当に幸せです」


「奏芽……!」


咲良が跳ね起き、奏芽の首に飛びついて抱きしめる。


「わんだほー! 奏芽ちゃんが『幸せ』って言った〜っ!」


「ああ! 俺たちの旅はまだまだ続く! どんな帝国が邪魔してこようと、俺たちの歌声は止められない!」


昴が指揮棒を掲げ、星海の向こうを力強く指し示した。


「行くぞ、スターライト劇団! 次の星へ、最高のショーを届けにな!」


「「「オーーーッ!!」」」


ハイパースペースの輝きに包まれながら、四人の絆はより深く、より強く結ばれていく。


心を持った歌姫と、仲間たちのスペースオペラは、さらなる波乱と感動が待つ次なる舞台へと向かって、力強く突き進んでいくのだった――。

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