第20話:漆黒の絶対絶対領域! 崩壊のノワール
暗黒要塞惑星 ヴェルディ での凄絶なる激闘を経て、洗脳の双翼 である6号機・ヴェール と7号機・ヴィオレ を無事に救い出したスターライト号。
これで、かつて帝国によって兵器として生み出された7人の歌姫のうち、実に6人――奏芽 (1号機)、ルージュ (3号機)、シアン (4号機)、アンバー (5号機)、ヴェール(6号機)、ヴィオレ(7号機)が結集を果たした。
スターライト号の艦内ラウンジは、もはや劇団の楽屋というよりも、銀河の希望が咲き誇る花園のような賑わいと温もりに包まれていた。
「――はいっ! ヴェールちゃんとヴィオレちゃんの歓迎会特別メニュー、咲良特製・双子星のツインスペシャルオムライスだよ〜っ!」
花園 咲良 が、とろとろの卵の上にケチャップで可愛らしい星のイラストが描かれた特大プレートを、テーブルの中央へドカンと運んできた。
「わぁぁ……! すごいです、咲良様! お皿の上に黄色いお星様がふたつ並んでいます……!」
翠緑の髪を揺らし、ヴェールがエメラルドの瞳を輝かせる。
「本当ね、お姉様……! すっごくいい匂い……! 私、こんなに温かくて綺麗なお料理、見たことないわ……!」
深紫の髪をふんわりとなびかせ、ヴィオレも感動に肩を震わせた。
「ふふ、遠慮しないでたくさん食べてね。帝国軍の過酷な洗脳で、心も体もボロボロだったでしょう? 咲良様のお料理には、食べた人を元気にする不思議な魔法があるのですから」
オーロラシルバーの髪を優しく揺らし、奏芽が二人の肩を包み込むように微笑む。
「肯定。咲良様の調理物の摂取による精神回復効果は、帝国の最高級医療カプセルの一二倍以上の数値を叩き出します」
アンバーが真面目な顔でトパーズイエローの瞳を明滅させ、隣ではシアンが「私にもケチャップでお星様を描いてください!」と咲良にねだり、ルージュが「ふん、相変わらず浮かれた連中だ。……おい、私の分はケチャップ多めだぞ」とそっぽを向きながら皿を出していた。
「ハハハ! これで歌姫が6人か! 船が狭く感じるくらい賑やかになって最高だな!」
座長の 星原 昴 が、ジュースのグラスを片手に豪快に笑う。
だが――操縦席でコンソールを操作していた月影 彗 の表情は、極めて重く沈んでいた。
「……みんな、浮かれているところ申し訳ないが、メインモニターを見てくれ」
彗がメガネのフチを押し上げ、静かにホログラム画面を拡大する。
そこに映し出されたのは、銀河系の最深部、すべての星々の光すら吸い込む暗黒の特異点に鎮座する、超巨大な漆黒の球体要塞――銀河帝国の絶対本拠地・帝都要塞・ゼノグラディウスの姿だった。
そして、その要塞の中心部から発せられているのは、他の6機の波形を全て呑み込むほど巨大で、あまりにも凶暴な「漆黒のエネルギー」だった。
「これ……は……」
奏芽の顔から、一瞬で色が失われた。
胸の中央に秘められた量子調律炉 が、かつてないほどの激しい拒絶反応を起こし、悲鳴のような高周波を鳴らし始める。
「ノワール……お姉様……!?」
「あぁ……間違いない。2号機――ノワール だ」
ルージュがサファイアの瞳を凍りつかせ、激しく拳を握りしめる。
「帝国の歌姫兵器計画において、第一号機の『調律』と対をなす存在として建造された、最強最悪の『終焉と崩壊』の絶対兵器……!」
「分析完了……」
アンバーが浮遊キーボードを高速で叩き、真っ赤に明滅する危険データを提示する。
「ノワールの内に秘められた絶望と崩壊の旋律……。出力データは、私を含む他の6機の調律炉の総和を遥かに凌駕しています。さらに……恐ろしい事実が判明しました」
アンバーの声音が、重く震えた。
「ノワールは、他の姉妹たちのような『外部からの洗脳』を施されていません。……彼女は自らの意志で帝国軍の総帥・皇帝ジークフリート の側に立ち、銀河すべての生命の『消滅』を望んでいます」
「自らの意志で……消滅を……!? そんな……どうして……!?」
咲良が息を呑む。
「ノワールお姉様は……」
奏芽が溢れ出る涙を拭おうともせず、消え入りそうな声で紡いだ。
「私たちのプロトタイプとして、最も初期に目覚めた歌姫でした……。彼女は帝国軍の地下実験場で、何千何万回という過酷な『致死破壊実験』を一人で受け続けたのです……。誰も助けに来ない暗闇の中で、世界中のすべてを呪い、拒絶するほど……彼女の心は破壊されてしまった……!」
「奏芽……」
昴が奏芽の肩を強く抱きしめた。
「悲しむのはまだ早いぞ、奏芽! どんなに深い暗闇に落ちていたとしても、俺たちには6人の歌姫の歌声と、互いを信じあう絆がある! ノワールの絶望ごと、俺たちの歌で抱きしめてやろうぜ!」
「昴さん……!」
「そうだぞ! 咲良たちも絶対に諦めないよ! ノワールちゃんを助けて、7人みんなで美味しいオムライス食べるんだから!」
咲良が力強く胸を叩き、シアン、アンバー、ヴェール、ヴィオレ、そしてルージュが、力強く頷いた。
「彗! スターライト号、全機関限界突破! 帝都ゼノ・グラディウスへ突撃だ!!」
「了解! 亜空間航行エンジン、オーバードライブ! 最終決戦の地へ……発進!!」
◇
亜空間 を抜けた瞬間、フロントガラスを突き破るように襲いかかってきたのは、全宇宙の光を覆い尽くすほどの「漆黒の濁流」だった。
「うわああぁぁぁっ!?? なんだこの重力波はぁぁっ!?」
スターライト号の船体がメリメリと凄まじい音を立てて軋み、アラート音がけたたましく鳴り響く!
視界に広がるのは、星々の輝きすら存在しない無の空間。その中央に浮かぶ超巨大要塞・ゼノ・グラディウスの天守閣に、一人の少女が宙に浮遊していた。
漆黒のゴシックドレスを纏い、夜の闇よりも深い漆黒のロングヘアをなびかせた少女。その瞳は、命の輝きを一切拒絶する「絶対の黒」に染まっていた。
彼女の背後には、時空を歪める巨大な黒い翼――崩壊の音波展開翼 が広がり、銀河系全体を破壊し尽くすほどの絶対的な威圧感を放っている。
「個体識別……2号機・ノワール !」
奏芽が耐圧シールドを突き破り、船外のデッキへと躍り出た!
「ノワールお姉様!!」
奏芽の叫びに対し、ノワールはゆっくりと、氷よりも冷たい視線を向けた。その表情には怒りも哀しみもなく、ただ圧倒的な「無」だけが存在していた。
「……来たのね、出来損ないの妹たち。そして……不完全な感情に縋る哀れな人間ども」
ノワールの透き通った、けれど世界の終わりを予感させる冷酷な声が、宇宙空間そのものを振動させて響き渡る。
「ノワール! 頼むから話を聞いてくれ!」
昴がデッキに立ち、ビームブレードを構えながら叫ぶ!
「お前が帝国で酷い目に遭ってきたのは知ってる! 許せない気持ちも分かる! でもな、世界は帝国みたいな奴らばかりじゃないんだ! 奏芽たちを見てみろ! こんなに温かい仲間たちが……お前を救うためにここまで来たんだぞ!!」
「……救う?」
ノワールが可憐な唇の端をわずかに吊り上げ、蔑むような失笑を漏らした。
「哀れね……。傷つけ合い、奪い合い、醜く生き汚く生き存える生命体……。この銀河に存在するすべては、はじめから存在しなかった方がよかったのよ。……希望も、絆も、愛も……すべては滅びの瞬間に裏切られるための戯言」
ノワールが黒い翼を大きく広げ、その胸の中央に位置する漆黒の調律炉を過熱させた。
「見せてあげるわ。あなたたちが必死に集めた『絆』とやらが、いかに脆く、無力であるかを。……すべての命に、平等なる永遠の『死』を」
ノワールが開口し、歌い始める。
「――♪♪♪(落日せよ……あらゆる命の輝きよ……世界を無へ還す、漆黒のレクイエム――)」
ズゴオオオオオオン――――――ッ!!!
ノワールの一声とともに、宇宙空間の概念そのものが反転した!
幾何学的な漆黒の衝撃波が全方位へと解き放たれ、スターライト号の最高度シールドが一瞬で消滅! 船体の装甲が消し飛ぶような激しい衝撃が一行を襲った!
「ぐわあああぁぁぁっ!!??」
昴がデッキから吹き飛ばされ、血を吐いて倒れ込む!
「座長! 咲良! 彗!」
ルージュ、シアン、アンバー、ヴェール、ヴィオレの5人が必死に防御旋律を展開するが、ノワールの『絶望の旋律』の前に、彼女たちの防護壁はガラス細工のように次々と粉々に砕け散っていった!
「くっ……あぁぁぁっ! 出力が……違いすぎる……!!」
ルージュが地面に叩きつけられ、シアンたちも激しいダメージを負って膝をつく。
「ハハハハハ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ、2号機!」
要塞の最上階から、銀河帝国の最高権力者・皇帝ジークフリート の邪悪な声が轟いた!
『これぞ我が帝国の究極兵器! 命ある者すべてを消滅させる神の力だ! 逃亡アンドロイドどもよ、我が最高傑作の前に膝を折り、塵となって宇宙の塵へと消えるがいい!!』
「そんな……5人の歌声すら……届かないなんて……!」
咲良が恐怖に震え、彗も絶望に顔を歪める。
だが――ただ一人、傷だらけになりながらも、奏芽だけはノワールから目を逸らさなかった。
「ノワールお姉様……」
奏芽は自分の胸に手を当て、激しく痛む調律炉の光を限界まで高めていく。
「貴方の歌声は……とても悲しいです。……まるで、冷たい宇宙の底で、一人でずっと泣いている女の子の悲鳴のようです……!」
「黙りなさい……出来損ないの1号機」
ノワールが黒い翼から無数の漆黒の雷撃を放つ!
バチバチバチィィィン――ッ!!
雷撃が奏芽の身体を直撃し、彼女のオーロラシルバーの髪が激しく散り、ドレスが破れ、鮮血のような光の粒子が舞い散る!
「奏芽ちゃん!!」
咲良が悲痛な叫びをあげる!
「……私は……逃げません……!」
血を吐きながらも、奏芽は一歩、また一歩とノワールへ向かって進んでいく。
「貴方が世界を拒絶するなら……私は、その拒絶ごと貴方を抱きしめます! 貴方が絶望しか歌えないのなら……私は、貴方が笑顔を取り戻すまで……何度でも希望を歌い続けます!!」
「消えなさい……消えなさい……消えなさいっ!!」
ノワールの瞳に一瞬だけ激しい揺らぎが走り、彼女は狂ったように漆黒の崩壊波を放ち続ける!
すべての命を否定する「漆黒の絶望」と、何があっても諦めない「黄金の希望」――宇宙の存亡をかけた、最終決戦の幕が切って落とされた!
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