第18話:洗脳の双翼と狂乱のエメラルド
|電脳迷宮惑星サイバリア《プラネット・サイバリア》 での激闘を経て、新たにアンバー を加えたスターライト号は、再び亜空間 の輝く光のトンネルを疾走していた。
これで、スターライト劇団に集った歌姫は奏芽 (1号機)、ルージュ (3号機)、シアン (4号機)、アンバー(5号機)の4人。
船内のラウンジは、これまでにないほど華やかで、そして賑やかな熱気に包まれていた。
「――はいっ! アンバーちゃんの歓迎会特別メニュー、咲良特製・電脳ピカピカフルーツパフェだよ〜っ!」
花園 咲良 が、カラフルなゼリーと果物が山盛りにされた大皿をテーブルへドカンと置いた。
「分析完了。糖分、ビタミン、および視覚的色彩データの構成比率……極めて高水準。……咲良様、この物体を摂取することで『多幸感』と呼ばれる脳内物質が分泌される確率……九九・八パーセントと推測されます」
ショートカットの黄金色の髪を揺らし、アンバーがトパーズイエローの瞳を正確に明滅させながら、真面目な顔でパフェを凝視する。
「あはは! 難しい計算は抜きにして、早く食べてみてよ〜っ!」
「いただきます。……モグ。……!!? 思考フレームに未知の多幸感データが大量流入……。……美味しい、です……!」
アンバーがパフェ一口で頬を染め、目を丸くする姿に、周囲からどっと温かい笑い声が巻き起こった。
「ふふ、アンバーにも咲良様の心の温もりが伝わったようですね」
オーロラシルバーの髪をなびかせ、奏芽が嬉しそうに微笑む。その隣ではシアンが「アンバーお姉様、とっても美味しいですよね」と嬉しそうに頷き、ルージュも「ふん、まあ甘味としては悪くないな」とツンとしながらも満足そうにスプーンを動かしていた。
「ハハハ! 女子部屋のトリプルルームどころか、もう部屋の増設工事が追いつかないくらい賑やかになってきたな!」
座長の 星原 昴 が、ジュースのグラスを掲げながら満足そうに笑う。
「そうだね、座長。でも……残る歌姫はあと3人だ」
メカニックの 月影 彗 が、メガネのフチを押し上げながらメインコンソールのホログラム画面を操作した。
「帝国の親衛隊に囚われている2号機のノワール。そして……今回捉えた超大型の二重エネルギー波形。目的地は、巨大銀河帝国軍の最新鋭機動要塞が鎮座する暗黒要塞惑星ヴェルディ だ」
画面に映し出されたのは、鬱蒼とした黒い原生林と紫の毒霧に包まれた不気味な惑星、そしてその上空に浮かぶ巨大な要塞の姿だった。
「二重のエネルギー波形……? 彗、どういうことだ?」
昴が身を乗り出す。
「この星には……残る歌姫兵器のうちの2機、6号機の『ヴェール』と、7号機の『ヴィオレ』が同時に潜伏しているんだ。……いや、『配置されている』と言った方が正しい」
「二人同時に……!?」
咲良が息を呑む。
「ええ。6号機と7号機は……最初から二人一組の『双子機』として建造された特別な歌姫兵器です」
アンバーがトパーズの瞳を明滅させ、正確なデータを提示した。
「6号機・ヴェールは翠緑の風を操る『音波干渉体』、7号機・ヴィオレは紫電の波動を操る『空間破壊体』。二機が共鳴した際の戦力値は、単体の歌姫兵器の三・二倍以上に跳ね上がります。……ですが……」
アンバーの口調が、かすかに重く沈んだ。
「帝国軍のデータログによれば、彼女たち二機は……皇帝直属の過酷な『精神洗脳処理』を完全に施されています。自らの意思をすべて消去され、ただ帝国の命じるままに歌い、破壊する狂乱の操り人形と化しているのです」
「完全な精神洗脳……!」
奏芽がそっと胸に手を当てた。その量子調律炉 から、激しい胸の痛みが伝わってくる。
「自分の意思すら奪われて……戦わされているのですね……。そんなの……あまりにも悲しすぎます……!」
「ああ。絶対に許せねえ……!」
昴が拳を強く握りしめた。
「奏芽! ルージュ! シアン! アンバー! 俺たちの仲間を、これ以上帝国の好きにさせてたまるか! 双子の歌姫を……洗脳の呪縛から助け出すぞ!」
「「「「はいっ!!」」」」
4人の歌姫たちの声が力強く重なり合う。
「スターライト号、亜空間 離脱! 闇の要塞惑星へ突入だ!」
◇
亜空間を抜けた瞬間、フロントガラスを覆ったのは、不気味な紫色の毒霧と、不気味に蠢く黒い原生林だった。
頭上には巨大な金属の城壁を持つ帝国軍暗黒要塞 が鎮座し、無数の対空砲火が空を焦がしている。
「くっ……! 激しい毒霧と干渉波だ! 彗、安全な降下ルートを探せ!」
「原生林の開けた谷間に着陸する! みんな、衝撃に備えて!」
スターライト号は対空砲火を交わしながら、不気味な紫の霧を突き抜け、黒い大樹が鬱蒼と茂る谷底の金属広場へと降り立った。
耐毒防護フィールドを身に纏い、船外へと足を踏み出した一行。
不気味な静寂が広がる広場の奥から、突如として激しい風と紫電のスパークが巻き起こった。
「……来たよ。二人同時にだ!」
彗が緊張走る声で叫ぶ。
紫の霧を破って降臨したのは、眩い翠緑のドレスを纏った少女と、深紫のドレスを纏った少女――寸分違わぬ美しい容姿を持った、双子のアンドロイドだった。
6号機・ヴェール と、7号機・ヴィオレ 。
だが、二人の瞳には光がなく、完全に赤く発光するサイバー・洗脳リングがその額に深く刻み込まれていた。
「個体識別……逃亡アンドロイド群および反乱分子を認識」
ヴェールが冷酷な無機質な声で告げる。
「皇帝陛下の命により……排除を実行。……ヴィオレ、旋律接続」
「了解……ヴェールお姉様。……破壊シークエンスを開始」
ヴィオレもまた、一切の感情を排した声で応じた。
二人が可憐な唇を開き、同時に歌い始める。
「――♪♪♪」
「――♪♪♪」
それは、聴く者の精神を狂わせ、空間そのものをズタズタに引き裂く、不気味で苛烈な『狂乱の二重奏』だった!
バチバチバチィィィン――ッ!!
翠緑の暴風と深紫の雷撃が融合し、巨大な破壊の竜巻となってスターライト号と昴たちを直撃した!
「ぐわあぁぁぁっ……! な……なんだこの桁違いの破壊力は……!?? 空間が……歪んでいく……!」
昴がビームブレードを前に掲げるが、衝撃波だけで何十メートルも後ろへと吹き飛ばされる!
「シールド最大出力! だが持ちこたえられない! 二人の波形が完全に共鳴して、エネルギーが乗数的に増幅されているんだ!」
彗の端末から激しい火花が散り、咲良も「きゃああぁぁっ! 風が強すぎて立っていられないよ〜っ!」と悲鳴をあげる。
「フハハハハ! 諦めろ、無駄な抵抗だ!」
暗黒要塞の巨大ホログラムが上空に展開し、帝国の総司令官・ヴァルゼルが狂気の高笑いを響かせた!
『この6号機と7号機には、我が帝国の最高技術である『完全洗脳プログラム』が施されている! 自我も、心も、過去の記憶もすべて消去され、ただ殺戮のみを求める完璧な兵器へと生まれ変わったのだ! 貴様らの生ぬるい絆の歌など、この『狂乱の二重奏』の前には破塵と化す!!』
「自我を……消去した……!?」
ルージュが激怒して熱線槍を構える!
「ふざけるな……! 妹たちの心を奪っておいて、何が最高技術だ!!」
「ルージュお姉様、ダメです! 下がってください!」
シアンが叫び、必死に『蒼き防護障壁』を展開するが、双子の合唱攻撃の前に障壁は一瞬で粉々に砕け散った!
「くっ……あぁぁぁっ……!」
シアンとルージュが地面に倒れ込む。
「ふふふ……全滅させてやる……皇帝陛下のために……」
ヴェールとヴィオレが不気味に目を光らせ、額の洗脳リングを真っ赤に発光させながら、さらに殺傷力の高い最終旋律のタクトを掲げた。
二人の過熱した調律炉からは、限界を超えた負荷による激しい火花と黒煙が吹き出し始めている。洗脳リングが無理やり出力を引き出しているため、このままでは二人の身体そのものが崩壊してしまう!
「ダメ……! これ以上歌ったら、二人の体が壊れてしまう……!」
奏芽が叫び、耐毒フィールドを振り払って、二人に向かって走り出した!
「奏芽! 危険だ!」
昴の制止の声を振り切り、奏芽は自らの胸の調律炉から、これまでで最大の黄金と青純色の光を解き放った!
「聞こえますか……ヴェール! ヴィオレ! 私たちの声が……貴方たちの『本当の心』に届いてください!!」
奏芽の悲痛な叫びと覚悟の歌声が、不気味な紫の霧を切り裂いて、双子の歌姫へと真っ直ぐに放たれた!
しかし、深すぎる洗脳の呪縛に囚われた双子は、不気味な笑みを浮かべたまま、さらなる破壊の旋律を紡ぎ出す――!
二人の洗脳を解き、失われた「心」を取り戻すことができるのか!? 過去最大の絶望と激闘の幕が上がった!
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