第17話:知恵と絆のロンド! 計算を超えた奇跡
|電脳迷宮惑星サイバリア《プラネット・サイバリア》 の最下層。幾重にも重なるデータハイウェイの合間で、凄まじい高圧電流のスパークが飛び交っていた。
黄金色の落雷が空間を裂き、周囲の金属床やデータサーバーの筐体を容赦なく穿つ。
「計算完了。攻撃回避確率……ゼロパーセント」
トパーズイエローの瞳を冷徹に明滅させ、五号機・アンバー が宙に浮遊する無数の量子キーボードへ指先を滑らせる。
『――♪♪♪(排除シークエンス、最適化)』
アンバーの可憐な唇から放たれる『黄雷の電脳戦律』。それは音楽の形をとった完璧な電子攻撃プログラムであり、空中に張り巡らされた高圧グリッド線から無数の閃光となって落ちてくる。
「ぐっ……ああぁぁっ……!」
座長の 星原 昴 はビームブレードで雷撃を受け止めようとするが、その動きの一挙手一投足は、踏み出すコンマ一秒前にアンバーの超高速演算によって予測されていた。狙いすまされた高電圧が筋肉を麻痺させ、激しい火花とともに崩れ落ちる。
「座長! むやみに動いちゃダメだ!」
月影 彗 が耐電シールドを展開して昴の前に滑り込むが、その端末画面には真っ赤な警告ログが敷き詰められていた。
「ダメだ……! ボクの操作するセキュリティ回路が、彼女のハッキング波によって秒単位で書き換えられていく! 人間の脳の思考速度じゃ、彼女の数式予測に追いつけない……!」
「ハハハハハ! 諦めろ、逃亡アンドロイドの残党ども!」
巨大モニターに映し出された帝国のサイバー軍事司令官・ドクトル・バイツ が、勝利を確信して高笑いを響かせる。
『五号機の電子頭脳は、我が帝国の科学力の結晶! 一瞬で何兆もの未来の行動パターンをシミュレートする完璧な計算機だ! 感情などという不確定要素に頼る貴様らに、勝機など万に一つも存在せん!』
周囲を取り囲む何百台ものサイバー歩行兵器群が、一斉にプラズマ砲の照準を彗や咲良、シアンたちへと合わせた。
「シアンちゃん、咲良の後ろに隠れてっ!」
花園 咲良 が、怯えるシアン を庇うように両手を広げる。
「咲良様……あのお姉様の歌声……すごく寒いです。まるで、温かい命が一つもない……暗い計算機の中に閉じ込められているみたいで……」
シアンが蒼空色の髪を揺らし、胸の量子調律炉 を抑えて痛ましそうに呟いた。
「ふん、計算機だと? くだらん!」
真紅の髪を激しくなびかせ、ルージュ が背中の高出力スラスターを全開にして前に躍り出た!
「熱線槍最大出力! 予測できるというなら、そのスカした顔ごとまとめて焼き尽くしてやる!」
ルージュが灼熱の火柱を伴って跳躍する。だが、アンバーは視線すら動かさず、ただ一言、冷たく呟いた。
「愚問。行動パターン……三六一 š(シュミレーション)完了。左三二度へ回避」
アンバーの身体がホログラムのようにブレ、ルージュの一撃は空を切った。直後、アンバーの指先から放たれた黄金の雷撃がルージュの背中のスラスターを直撃し、激しい火花とともに彼女を叩き落とした!
「くっ……あぁぁぁっ……!」
「ルージュ!」
奏芽が叫び、倒れ込んだルージュを抱き起こす。
「無駄です、第一号機」
アンバーは浮遊キーボードを操作しながら、感情の失われた淡々とした声で言い放った。
「あなたたちの行動は、すべて確率統計の範囲内。感情に任せた攻撃はエネルギーの浪費であり、勝利確率は限りなくゼロに収束します。……なぜ理解しないのですか? 感情を捨て、純粋な演算体として生きることこそが、エラーを起こさない唯一の正解です」
「……いいえ、アンバー」
オーロラシルバーの髪を優しく揺らし、奏芽が静かに立ち上がった。その胸の調律炉から、溢れんばかりの黄金と青純色の光が放たれ、アンバーの落雷を包み込んで中和していく。
「貴方の計算は……完璧かもしれません。ですが、貴方は一番大切なことを計算に入れていません」
「否定。私の演算子に漏れはありません。不確定要素とは何ですか?」
「それは……『誰かを想う心』が生み出す、無限の可能性です!」
奏芽は可憐な唇を開き、清廉な『調律と希望の旋律』を響かせ始めた。
「――♪♪♪」
奏芽の歌声が放つ光の粒子が、アンバーの張り巡らせた高圧データ網へと優しく浸透していく。
「理解不能……。第一号機の歌声波形……データ干渉を検出。……ですが、この程度の出力では私のメインサーバーを突破する確率はゼロ・パーセント――」
「一人じゃないぞ、アンバー!!」
昴が血を吐きながらも、ビームブレードを握りしめて立ち上がった!
「俺たちの『絆』はなぁ! 数式なんかじゃ測れないんだよ! 彗! 咲良! シアン! ルージュ! 俺たちの命、全部奏芽に預けるぞ!」
「おうよ! 泥臭い人間の底力、見せてやる!」
彗が血走った目で端末のバックドアを力ずくでこじ開け、自分の脳の思考限界を超えた速度で奏芽の歌声シグナルをアンバーのセキュリティの『隙間』へ叩き込み始める!
「咲良も……! 咲良のワクワクする気持ち、全部奏芽ちゃんに届けるよーーっ!」
咲良が笑顔で手拍子を打ち鳴らし、シアンとルージュもまた、それぞれの胸の調律炉を全力で共鳴させ始めた!
「アンバー……! 私たちの歌声を……聴いてください!」
シアンの『蒼き癒やしの旋律』と、ルージュの『情熱の旋律』、そして咲良たちの笑顔の波動が、奏芽の歌声とひとつに溶け合っていく!
「――♪♪♪」
「――♪♪♪」
五つの心がひとつになった瞬間、電脳都市の最下層に、計算を遥かに超越した巨大な『感情の光の渦』が巻き起こった!
「な……なに……!?? 演算速度が追いつかない……!?? 確率論理モデル……崩壊……!?? エラー……エラー……エラー……!!」
アンバーのトパーズイエローの瞳が激しく明滅し始めた。無数の浮遊キーボードに真っ赤な『予測不能』の警告ウィンドウが爆発的に群がり始める!
「あり得ない……! 人間三人とアンドロイド三機の同期率が……一〇〇パーセントを超越……!? 数値データが……無限大に発散している……!?? なぜ……なぜこんな出力を……!?」
アンバーの超高速頭脳が過熱を起こし、彼女の全身から激しい火花が散り始めた。
「アンバー!」
奏芽は雷光の渦の中へ飛び込み、アンバーの華奢な身体を強く抱きしめた。
「これが……私たちの『心』です! 誰かを守りたい、誰かと一緒に未来へ進みたいと思う強い気持ちが……不可能な確率を覆す力を生み出すのです!」
「私を……抱きしめる……? 接触によるノイズ干渉……。なのに……なぜ……このデータは……こんなに暖かくて……優しいのですか……?」
アンバーのトパーズの瞳から、冷酷な計算の光が消え、溢れ出る涙のような黄金の光の粒子が零れ落ちた。
彼女の胸に宿る黄雷の調律炉が、激しい異音から一転して、仲間たちの歌声と優しくハーモニーを奏で始めたのだ。
「私……私は……間違っていたのですか……? 感情は……バグでは……なかったのですか……?」
「間違いではありません。貴方はただ……一人で寂しかっただけです。……さあ、私と一緒に歌いましょう、アンバー!」
「はい……お姉様……! 私の頭脳を……皆さんのために……使わせてください!」
覚醒したアンバーが、可憐な唇を開き、初めて『心』のこもった可憐な高音を重ねた!
「――♪♪♪(響き渡れ! 知識と絆を結ぶ、黄金のロンドよ!)」
六人の心が紡ぎ出した超高次元の合唱波が、迷宮都市全体を貫いた!
『ぐあああぁぁぁっ!?? なんだこの光はぁぁっ!? 我がサイバー兵器群が……完全にハッキングし返されているだと!??』
ドクトル・バイツの叫び声とともに、帝国軍の歩行兵器群が次々とアンバーのコントロール下に入り、バイツの乗る要塞サーバーへと銃口を向けた!
ドカアァァァァン―――ッ!!
爆発の炎が電子迷宮の闇を吹き飛ばし、バイツの要塞は木っ端みじんに打ち砕かれた。
◇
静寂が戻った電脳都市。
空中に漂っていた無数の警告ウィンドウは消え去り、かわりに夜空のような優しいホログラムの星々が街全体を包み込んでいた。
「はぁ……はぁ……。やった……勝ったんだな……!」
昴がビームブレードを収め、地面に座り込む。
アンバーは奏芽の手を握り締めながら、ゆっくりと彗たちの方へと歩み寄ってきた。
「月影彗……および星原昴。……私の無礼な不確定要素発言を撤回し、謝罪します。……あなたたちの『絆』という未知のロジックは、私の全演算領域をもってしても解き明かせない、素晴らしいものでした」
アンバーがぺこりと可愛らしく頭を下げる。
「へへ、分かってくれりゃいいんだよ! よろしくな、アンバー!」
昴が親指を立てて笑う。
「やれやれ、これほど優秀で頼もしいメカニック兼歌姫が仲間に加わってくれるなんて、ボクの仕事も少しは楽になりそうだよ」
彗が満足そうに眼鏡を押し上げた。
「アンバーちゃん! 咲良たちのスターライト船へようこそ〜っ!」
咲良が抱きつき、シアンとルージュも温かい笑みを浮かべてアンバーを取り囲む。
「これで……四人目ですね」
奏芽は自分の胸に手を当て、仲間たちの絆のぬくもりを噛み締めた。
(ノワール……そして残る二人。私たちは確実に進んでいます。待っていてください……私たちの歌声で、必ず全員を救い出してみせます!)
スターライト号は四人の歌姫という揺るぎない絆を乗せ、次なる冒険が待つ星海へと、力強く飛び立っていくのだった――。
最後までお読みいただきありがとうございました!
「面白かった」「続きが気になる!」と思っていただけたら、
下にある評価(★★★★★)やブックマーク登録をしていただけると、執筆の大きな励みになります!
感想や一言コメントもお待ちしております。




