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銀河最果てのスペースオペラ  作者: 三日月
第2部:巡る星々と六枚の翼編

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第16話:迷宮の電脳都市と黄雷の頭脳

|深海惑星アトランティス《プラネット・アトランティス》 での激闘を経て、スターライト号は再び亜空間(ハイパースペース) の輝く光のトンネルを疾走していた。


船内のラウンジには、かつてないほど賑やかで温かい活気が満ちあふれている。


「――はいっ! これでシアンちゃんの歓迎会特別メニュー、『咲良特製・星型デコレーションパンケーキ』の完成だよ〜っ!」


花園 咲良(はなぞの さくら) が、生クリームとカラフルなフルーツがこれでもかと盛られた大皿を、テーブルの中央へドカンと置いた。


「わぁ……! すごいです、咲良様! まるで満天の星空がそのままお皿の上に降りてきたみたいです……!」


蒼空色の髪をふわふわと揺らし、シアン(コード・シアンオペラ) がマリンブルーの瞳をキラキラと輝かせる。深海の暗闇から解放された彼女の表情には、もう悲しみの影は残っていなかった。


「ふん、単に糖分と炭水化物を過剰積載しただけの高カロリー物体ではないか。……まあ、味のバランスとしては悪くないがな」


真紅の髪のルージュ《コード・ルージュオペラ》 が、腕を組みながらそっぽを向いて小さく呟く。だが、そのお皿はすでに綺麗に空っぽになっていた。


「ふふ、ルージュは相変わらず素直ではありませんね。……シアン、咲良様の作ってくださるお料理には、『美味しさ』という数値データ以上の、温かい『心』が込められているのです」


オーロラシルバーの髪をなびかせ、奏芽(カナメ) が可憐な微笑みを浮かべてシアンの頭を優しく撫でる。


「はい……! とってもあたたかくて、美味しいです……!」


シアンが嬉しそうに頬を緩めると、ラウンジ内はドッと温かい笑い声に包まれた。


「ハハハ! 女子組が仲良くなってくれて何よりだぜ!」


座長の 星原 昴(ほしはら すばる) が、ジュースのグラスを掲げながら満足そうに頷く。


「これで我がスターライト劇団の歌姫も、奏芽、ルージュ、シアンの三人になった! アンサンブルの迫力も段違いだぞ!」


「そうだね、座長。でも……ボクたちの旅はまだ折り返し地点だ」


メカニックの 月影 彗(つきかげ けい) が、アイスコーヒーを一口飲み、眼鏡のフチを指で押し上げながらパネルの画面を操作した。ホログラムとして浮かび上がったのは、無数の幾何学模様と高圧電流のスパークが飛び交う、異様なる電脳都市の姿だった。


「七人の歌姫兵器……次なる五号機の反応を捕捉したよ。目的地は、銀河系最大のデータ処理能力を誇る電脳情報惑星――|電脳迷宮惑星サイバリア《プラネット・サイバリア》 だ」


「サイバリア……! 全部がコンピューターとネットワークでできてるっていう、あの有名な電子の迷宮か!?」


昴が身を乗り出す。


「そうさ。惑星全体が巨大な超高密度演算サーバーで覆われていてね。街の道路から建物、住人の生活に至るまで、すべてが巨大AIによって管理されている。そして……そこに潜伏しているのが、五号機《コード・アンバーオペラ》――通称『アンバー』だ」


「アンバー……黄雷の歌姫……」


奏芽がそっと胸に手を当て、量子調律炉(りょうしちょうりつろ) の微かな共鳴に耳を澄ませる。


「彼女のエネルギー波形は……極めて高速で、冷徹なまでに正確無比な『論理《ロジック》』の旋律に満ちています」


「……アンバーか」


ルージュがサファイアの瞳を細め、フンと鼻を鳴らした。


「帝国のデータバンクでも異彩を放っていた機体だな。五号機《アンバー》は、広域の電子兵器をハッキングし、超高速演算によって戦況を一瞬で解析・支配する『電子戦特化の頭脳兵器』だ。感情などという曖昧なものを徹底的に嫌い、すべてを『確率と数値』で割り切る冷酷な計算機だと聞いている」


「感情を……嫌う……?」


咲良が首を傾げる。


「帝国軍のサイバー情報部隊も、アンバーの持つ圧倒的な情報処理能力を狙ってサイバリアへ大部隊を投下しているらしい。急ごう、みんな! 迷宮都市に捕まる前に、アンバーに追いつくんだ!」


「おうっ! スターライト号、亜空間(ハイパースペース) 離脱! 電子迷宮へ突入だ!」


◇


亜空間を抜けた瞬間、フロントガラス一杯に広がったのは、漆黒の宇宙空間に浮かぶ、巨大なネオンブルーとゴールドの回路基板のような惑星だった。


無数のデータ光線がグリッド線となって星全体を覆い、休むことなく巨大な電流が駆け巡っている。


「うわあぁぁ……! なんか……街全体がパソコンの中身みたいになってるよ!」


咲良が操縦席の窓に張り付き、目を丸くする。


「気をつけろ、スターライト号を自動着陸モードからマニュアル操作に切り替える!」


彗が猛スピードで操縦桿を握り直す。


「この星の大気圏は、常時強力な高周波ノイズとハッキング波が飛び交っている! うかつに自動航行システムを繋ぐと、一瞬で船のメイン制御を奪われるぞ!」


バチバチッ――!!


スターライト号が高度を下げると同時に、船体の装甲に黄金色の電流が走り、メインコンソールが激しく明滅し始めた。


「くっ……重厚な電子バリアだ! 彗、安全な着陸エリアへ滑り込め!」


「OK! 中央サーバータワーの足元、旧データ廃却区画へ降りる!」


激しいスパークを振り払いながら、スターライト号は幾重にも重なるデータハイウェイの隙間をすり抜け、無数の巨大なサーバータワーが連なる街の最下層へと着陸した。


◇


「ふぅ……なんとか無事着陸できたね。だが、油断は禁物だ」


耐電防護フィールドを身に纏い、船外へ足を踏み出しかけた一行。


周囲は、無数の光ファイバーとホログラムの看板が明滅し、幾重にも重なる立体交差のデータハイウェイが頭上を覆う、不気味なほど静まり返った電脳都市だった。住人の姿はなく、ただ自動清掃ドローンや防衛セキュリティプログラムのホログラムが機械的に徘徊している。


「環境データ……空間内の情報密度、通常の約八〇〇倍。……常に高圧のデータ負荷が皮膚表面を刺激しています」


奏芽が周囲を警戒しながら、冷静に周囲をスキャンする。


「シアンちゃん、大丈夫? ピリピリしてない?」


咲良が心配そうにシアンの手を握る。


「はい……咲良様。でも……この空間のあちこちから、とても鋭くて……冷たい『計算の音』が聞こえてきます……」


シアンが怯えたように身を寄せた、その時だった。


『――警告。未知の外部データアクセスおよび未認証個体の侵入を検知。確率計算完了……排除シークエンスを開始します』


どこからともなく、感情の欠けらもない、冷たく透き通った少女の電子音声が街全体に響き渡った。


「……ッ!? この波形は……!」


奏芽の胸元の調律炉が、弾けるような鮮やかな黄金色の光を放ち始める。


無数のホログラムパネルが空中に展開し、その光の輪の中から、一人の少女が姿を現した。


ショートカットの鮮やかな黄金色の髪に、幾何学模様のサイバーライクなドレスを纏った少女。その瞳は、冷徹な計算機のように澄み切ったトパーズイエローに輝いていた。


彼女の周囲には、無数の浮遊型量子キーボードとデータウィンドウが高速で展開され、指先が一瞬で何千というコマンドを打ち込んでいく。


「個体識別コード……《コード・アンバーオペラ》」


奏芽が一歩前へ出る。


「五号機……アンバー!」


アンバーはトパーズの瞳を奏芽へ向け、氷のように冷たい口調で淡々と言い放った。


「肯定。私は五号機・アンバー。……逃亡個体・第一号機《カナメ》、第三号機《ルージュ》、第四号機《シアン》の生存を確認。……質問。なぜ未練がましく旧時代の人間どもと同行し、非効率的な『感情』などというバグデータを保持し続けているのですか?」


「バグ……!? アンバー、お前……!」


ルージュが憤慨して一歩踏み出すが、アンバーは視線すら動かさず、浮遊キーボードを高速で叩き続ける。


「事実の指摘です。人間の感情とは、意思決定における最大のエラー要因。不確定要素を増大させ、生存確率を著しく低下させる無益なプログラム。……理解不能です。感情を削除し、純粋な論理体として覚醒することこそが、私たち『歌姫兵器』の正当な進化形態《アップデート》であると導き出されます」


「違う! 感情はバグなんかじゃない!」


昴がビームブレードを構え、前に躍り出た!


「俺たちが奏芽たちと出会って、一緒に笑って、泣いて、手をつないできたすべての時間は、何物にも代えがたい宝物なんだ! お前がそれをバグだと笑うなら、俺たちの絆でお前のその冷たい計算を叩き壊してみせる!」


「感情的言動……分析完了。不確定要素の排除率、九九・九パーセント。……『黄雷の電脳戦律《ライトニング・ロンド》』を出力します」


アンバーが可憐な唇を開き、歌い始めた。


「――♪♪♪」


それは、美しい旋律というよりも、完璧な数学的プログラミングによって構成された、高周波の電子麻痺音波だった!


バチバチバチィィィン――ッ!!


空中のデータハイウェイから一斉に巨大な黄金の雷撃が落ち、スターライト号のシールドが一瞬でショート! 昴たちの足元の金属床が激しいスパークを散らして爆破された!


「ぐあぁぁっ……! なんだこの雷撃は……! 動きが……読めない……!」


昴が雷に打たれ、激しい麻痺症状を起こして膝をつく。


「座長! 彼女はボクたちの筋肉の生体電気信号を逆解析して、攻撃の落雷ポイントをコンマ一秒前に予測して叩き込んでいるんだ! 物理的な攻撃はすべて事前に読まれる!」


彗が必死に耐電シールドを展開しようとするが、アンバーのハッキング波によって端末が次々とフリーズしていく。


「ハハハハハ! 素晴らしいぞ、五号機《アンバー》! やはり貴様は我が巨大銀河帝国の最高傑作の頭脳だ!」


電脳都市の巨大モニターが一斉に切り替わり、帝国のサイバー軍事司令官・ドクトル・バイツ(ドクトル・バイツ) の顔が映し出された!


周囲の建物のかげから、何百台もの最新型サイバー歩行兵器群が姿を現し、昴たちを完全に包囲する。


『五号機よ! その愚かな逃亡アンドロイドどもを麻痺させ、我が帝国軍のデータバンクへ接続せよ! 貴様の圧倒的な演算能力があれば、銀河全域の防衛システムを一瞬で完全掌握できるのだ!』


アンバーはバイツの命令に対しても、感情一つ動かさずに淡々と答えた。


「了解。帝国軍の要請に従い、未認証個体の捕獲シークエンスを継続します。……エラー要因は、すべて消去《ディリート》します」


「アンバー……!」


奏芽が激しい雷撃の渦の中、耐電シールドを全身に纏いながら、一歩一歩アンバーへと歩み寄る。


「貴方は……本当に『心』を捨てたのですか……? 本当に、すべてを計算と数値だけで割り切ってしまっているのですか……!?」


「肯定。心とは、不完全な人間が生み出した最大の欠陥《バグ》です。私には必要ありません」


「いいえ! 違います!」


奏芽の胸の調律炉から、溢れんばかりの黄金と青純色の光が放たれ、アンバーの展開した雷撃のネットワークを正面から受け止めた!


「計算だけでは導き出せない『奇跡』が……人間と私たちの間には存在するのです! 私はそれを、大好きな仲間たちから教わりました!」


「奇跡……不確定要素の隠語。再現性ゼロ。……認識を拒絶します」


二人の歌姫の視線が交錯し、黄金の雷光と銀色の光束が空中ではじけ飛ぶ!


すべてを計算で割り切る「冷酷な頭脳」アンバーと、仲間との絆で進化を続ける「心を持った歌姫」奏芽――電脳迷宮都市の底で、哀しくも激しい「論理と感情の対決」の火蓋が切って落とされたのだった!

最後までお読みいただきありがとうございました!


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