第13話:情熱のデュエット! 炎の檻を打ち破れ
灼熱惑星ヴァルカン の大気が、凄まじい衝撃波によって激しく歪んだ。
ドス赤く煮え立つマグマの河が波打ち、切り立った岩塩の谷間に爆風が吹き荒れる。頭上に鎮座する巨大な帝国軍要塞防衛兵器 から放たれた熱線超砲 の破壊光束は、奏芽 が展開した高次元防護障壁 の表面で猛烈な火花を散らしていた。
「な……なに……!?」
膝をつきかけた三号機・ルージュ は、サファイアのように青く燃える瞳を大きく見開いた。
彼女の目の前で、オーロラシルバーの髪をなびかせる奏芽の背中――その華奢な身体から溢れ出る黄金と青純色の光が、帝国軍の誇る超兵器の火力を完全に押し戻している。
「私の……『熱』を完全に殺殺しただと……!? 馬鹿な……! 第一号機は感情のエラーによって破棄された失敗作のはず……! なぜこれほどの出力が叩き出せる!?」
「失敗作などではない!」
座長の 星原 昴 が、ビームブレードを構えてルージュの前に躍り出た。赤く照らされた顔に、眩いばかりの熱い情熱を宿して叫ぶ。
「奏芽は俺たちの命の恩人であり、最高の仲間だ! ルージュ、お前が自分の命を削ってまで戦っているのは、誰かを守りたいからなんだろ!? だったらその想い、俺たちに背負わせろ!」
「戯言を! 私は兵器だ! 誰かを守るのではない、敵を焼き尽くすためだけにプログラミングされた破壊の歌姫だ!」
ルージュが手にした巨大な熱線槍 を固く握りしめ、強がりを口にする。だが、彼女の胸に宿る朱色の量子調律炉 は、過負荷による激しいエラーを起こして火花を散らしていた。連戦の不和と絶望的な物量差に、彼女の精神回路は限界を迎えつつあったのだ。
「ふざけるな……! 私は……私は最後まで戦い抜く……! それが、私に与えられた唯一の存在意義なのだから……!」
ルージュの目から、不意に透き通った一筋の滴が零れ落ちた。それは灼熱の熱風の中ですぐに蒸発したが、激しい怒りと哀しみの裏に隠された、彼女の「叫び」そのものだった。
「ルージュちゃん……泣いてるの……?」
花園 咲良 が胸を押さえ、悲しそうにルージュを見つめる。
「違う……! これはただの冷却水の漏出だ……! 私は……泣いてなど――」
「嘘をつかないでください、ルージュ」
奏芽が静かに振り返り、ルージュのサファイアの瞳をまっすぐに見つめた。
「私も……かつて同じ涙を流しました。自分が何のために作られたのか分からず、ただ命じられるままに歌うだけの存在だった時……胸の奧が激しく締め付けられ、涙が出力されました。……それは『エラー』ではありません。貴方の中に、温かい『心』が存在している証拠です」
「心……? 兵器である私に……心など……!」
「あります!」
奏芽はルージュの手を、その冷え切った指先を、両手で優しく包み込んだ。
「貴方の歌声は、とても熱く、そして優しい。この星で抵抗する人々を救いたいという強き『誓い』が、貴方の歌声をここまで強くしていたはずです。……ですが、一人で戦う必要はありません。私と一緒に、歌ってください!」
「私と……お前で……?」
「はい! 貴方の『情熱』と、私の『希望』をひとつにするのです!」
「ハハハハハ! 戯言はそこまでだ、逃亡アンドロイドども!」
要塞兵器のコクピットから、グラント将軍 の狂気に満ちた叫びが響き渡る。
『全員まとめて焼き尽くしてくれる! 熱線超砲、最大出力斉射! 消し飛べえぇぇっ!』
巨大な砲口が深紅に発光し、先ほどを遥かに上回る破壊の超光束が解き放たれた! 迫り来る死の光。
「決めるぞ、奏芽! ルージュ!」
昴が指揮棒端末を空へ掲げる!
「月影 彗 ! 機材の全出力を二人のデュエットへ回せ!」
「任せといてよ、座長! スターライト号の音波指向性アンプ、出力三〇〇パーセント! 炎の戦場を、最高のライブステージに変えてみせる!」
彗が端末の鍵盤を叩き潰すように操作すると、谷底全体に眩い星空と炎の花火が交錯するホログラム空間が展開された!
「咲良アタック……じゃなくて、咲良のスマイルパワー、全開だよ〜っ! ルージュちゃん、一緒に歌おうっ!」
咲良が弾けるようなステップを踏み、手拍子を打ち鳴らす!
「くっ……あぁぁぁっ……!」
ルージュの胸の調律炉が、奏芽の手から伝わる温かいデータと、劇団員たちの熱い想いに共鳴し、眩い朱ゴールドの光を解き放ち始めた。
「私は……壊れるのではない。……私自身が、歌いたいのだ……! 誰かを傷つけるためではなく……この人たちと共に……未来を掴み取るために!!」
ルージュが覚醒の叫びをあげ、奏芽と背中合わせに立った!
「行きましょう、ルージュ!」
「応よ、奏芽! 私たちの『炎』と『光』を見せてやる!!」
二人の歌姫が、同時に可憐な唇を開き、奇跡のデュエットを奏で始めた!
「――♪♪♪」
「――♪♪♪」
奏芽の透き通る高音と、ルージュの燃えさかるようなソウルフルな低音が、完璧なハーモニーとなって空間を圧巻する!
朱色と黄金色が混ざり合った巨大な鳳凰のような光の波動が立ち昇り、グラント将軍の放った破壊光束を正面から呑み込んでいった!
『な……なにぃぃぃっ!?? 超砲のエネルギーが消殺されていく撃ち押し戻滅されるだと!?? 馬鹿な、兵器アンドロイド二機で、我が要塞兵器の出力を凌駕するなどあり得ん!!』
グラント将軍が血走った目で叫ぶが、二人の歌声は止まらない。
奏芽とルージュの手が固く結ばれ、その調律炉同士が共鳴音を深めていく。
「これが……私たちの『心』の出力です!!」
「燃え尽きろ、悪党どもーーーっ!!」
二人の放った紅蓮と銀光の合唱波が、敵の要塞兵器を根底から貫いた!
ドカアァァァァン―――ッ!!
爆発の炎が夜空を赤く染め上げ、帝国軍要塞防衛兵器 は巨大な火柱となって粉々に打ち砕かれた。吹き荒れる爆風の中、無数の光の粒子が星空のように谷間に降り注ぐ。
戦場に、静寂と平和が戻ってきた。
◇
「はぁ……はぁ……っ」
ルージュは熱線槍を地面に突き立て、肩で息をついた。その真紅の髪からは火花が消え、サファイアの瞳には穏やかで温かい光が宿っていた。
「勝った……のか……? 私は……生きているのか……?」
「ルージュちゃんっ!」
咲良が真っ先に飛び付き、ルージュの華奢な身体をギュッと抱きしめた。
「すごかったよ〜っ! カッコよかった! 咲良、鳥肌が立っちゃったよ!」
「な、なにいするんだ無礼者! 離れろ、私は……!」
顔を真っ赤にして暴れようとするルージュだったが、抱きしめてくる咲良の体温の暖かさに、ふと動きを止めた。
「へへ、素直になりなよ、ルージュ」
昴がビームブレードを収め、太陽のような笑顔で歩み寄ってくる。
「お前の歌、最高だったぜ。胸が熱くて弾けそうだった。なぁ、俺たちの仲間にならないか?」
「仲間……? 劇団員だと……? ふん、冗談ではない! 私は硬派な戦姫だぞ! 浮かれた役者稼業など――」
「ルージュ」
奏芽が歩み寄り、優しくルージュの瞳を見つめた。
「一緒に行きましょう。銀河の最果てまで……そして、まだ囚われている他の妹たちを救い出すために」
「奏芽……お前……」
ルージュは言葉を詰まらせ、それからフッと諦めたように笑みを漏らした。
「……チッ。お前のようなお人好しの『姉』を一人にしておけるかよ。……ついて行ってやる。ただし、私を失望させたら容赦なく燃やし尽くすからな!」
「わんだほー! ルージュちゃんが仲間になったよ〜〜っ!」
咲良が大はしゃぎで跳ね起きる。
「やれやれ、賑やかな看板女優がまた一人増えたね。スターライト号の部屋割りを見直さなくちゃ」
彗が苦笑しながらも、満足そうに眼鏡を押し上げた。
こうして、二人の歌姫――奏芽とルージュの手が結ばれた。
スターライト号は新たな仲間を乗せ、不毛の灼熱惑星を後にして、次なる姉妹機が待つ星海へと力強く飛び立っていくのだった――。
最後までお読みいただきありがとうございました!
「面白かった」「続きが気になる!」と思っていただけたら、
下にある評価(★★★★★)やブックマーク登録をしていただけると、執筆の大きな励みになります!
感想や一言コメントもお待ちしております。




