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銀河最果てのスペースオペラ  作者: 三日月
第2部:巡る星々と六枚の翼編

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第12話:焔の戦場と紅蓮の舞姫

氷結惑星フロスティア《プラネット・フロスティア》 での激闘を終え、スターライト号は再び 亜空間(ハイパースペース) の航行へと入っていた。


ブリッジ内には、重々しい沈黙と、それを吹き飛ばそうとする熱い決意が同居していた。


「――『七つの歌姫兵器』計画……か」


座長の 星原 昴(ほしはら すばる) が操縦席の背もたれに深く体重を預け、天井を見上げながら呟く。


「奏芽(カナメ) やノワール以外にも、あと五人の『姉妹』が銀河のどこかにいる。しかもみんな、帝国の兵器として囚われているか、利用されているなんてな……」


「ええ。《プラネット・フロスティア》で交戦したノワール……《コード・ブラッディオペラ》のデータ解析結果からも裏付けが取れたよ」


メカニックの 月影 彗(つきかげ けい) が、メガネのフチを指で押し上げながらタブレットのホログラム画面を操作する。


「帝国の親衛隊長ヴァルゼルが言っていた通り、彼女たちは超古代文明のコアパーツを基にして作られた『感情を兵器化する人造歌姫』だ。ノワールは一度帝国軍に連れ戻されてしまったけれど……ボクたちのセンサーには、彼女の調律炉に生じた『かすかな揺らぎ』が記録されている。彼女を救い出すチャンスは必ずあるさ」


「……ノワール」


オーロラシルバーの髪を揺らし、奏芽がそっと自分の胸に手を当てた。


「彼女の胸の調律炉は……激しい破壊と殺意の旋律に汚染されていました。ですが……私と同じ命を持つ妹です。いつか必ず、彼女の胸にも温かい『心』を取り戻してみせます」


「うんっ! 絶対に助け出そうね、奏芽ちゃん!」


花園 咲良(はなぞの さくら) が奏芽の手をぎゅっと抱きしめる。


「ノワールちゃんだけじゃないよ! まだ見ぬ他の妹ちゃんたちも、みんな咲良たちのステージに招待して、いっぱい笑顔になってもらうんだから!」


「咲良様……。はい……!」


奏芽の瞳に、やわらかな希望の光が宿る。


「よし! 目標は決まったな!」


昴が力強く立ち上がり、腰の指揮棒端末をビシッと掲げた。


「帝国の野望を打ち砕き、七人の姉妹全員を救い出して、このスターライト号で全銀河を揺らす最高のグランドライブを決行する! ……で、彗、次の目的地はどこだ?」


「準備に抜かりはないよ、座長」


彗が不敵な笑みを浮かべ、メインモニターに一つの赤い惑星のホログラムを投影した。


「ノワールからの微弱な通信ログを逆探知・解析した結果、別の歌姫兵器のエネルギー波形を感知した。行き先は、巨大銀河帝国の軍事要塞が存在する鉱山惑星――灼熱惑星ヴァルカン《プラネット・ヴァルカン》 だ」


「灼熱の惑星……!?」


「そう。星の大部分がマグマと不毛な岩砂漠に覆われた苛烈な環境さ。そこには、反帝国ゲリラと帝国軍の補給部隊が日夜激しい戦闘を繰り広げている炎の戦場が存在する。そして……そこに潜伏しているのが、三号機《コード・ルージュオペラ》――通称『ルージュ』だ」


「紅蓮の歌姫……ルージュちゃん!」


咲良が息を呑む。


「よし、スターライト号、亜空間(ハイパースペース) 離脱! 炎の星へ突入するぞ!」


◇


亜空間を抜けた瞬間、フロントガラス一面を染めたのは、渦巻く赤黒い炎と黒煙、そしてドス赤く煮え立つマグマの海だった。


灼熱惑星ヴァルカン《プラネット・ヴァルカン》 ――その上空には、帝国の巨大な鉱山要塞が鎮座し、地上では激しい対空砲火とビームの光束が交錯している。


「うわあぁっ! 下が火の海だよ、昴くん! 地上からビームが飛んできてる!」


「くっ、激しい戦場だな! 彗、安全な着陸ポイントはあるか!?」


「谷間の岩かげに船を隠すよ! 衝撃に備えて!」


スターライト号は激しい対空砲火をすり抜け、マグマの河が流れる切り立った岩塩の谷間へと滑り込んだ。


船を隠した四人は、耐熱防護フィールドを身に纏い、激しい砲撃音が響く地上の戦場へと足を踏み出した。


「ゴオオォォォン……! チュドーンッ!」


頭上を行き交う帝国の無人戦闘機群と、地上で抵抗を続ける反帝国ゲリラの装甲車。空気を焼く焦げ臭い匂いと、目を開けていられないほどの熱風が押し寄せてくる。


「環境データ……地表温度六五度。大気中の二酸化硫黄濃度、極めて高値。……長時間の生体滞在は危険です」


奏芽が状況を冷静にスキャンしながら周囲を警戒する。


「気をつけて、奏芽ちゃん。いつどこから砲弾が飛んでくるか分からないよ!」


咲良が警戒して周りを見渡した、その時だった。


『――愚かな侵略者どもめ! 我が炎の旋律(ヴァルキリー・ロンド)の露と消えるがいい!!』


戦場の只中に、凛とした、けれど激しい情熱に満ちた乙女の叫びが響き渡った。


「……ッ!? この波形は……!」


奏芽の胸元の量子調律炉(りょうしちょうりつろ) が、燃え上がるような朱色の光を放ち始める。


谷間の開けた戦場の中央。そこには、赤蓮のドレスを纏い、背中に巨大な炎の羽のような高次元エネルギースラスターを輝かせた一人の少女が立っていた。


燃えるような真紅の髪、そしてサファイアのように燃えさかる青い瞳。


彼女が手にした巨大な熱線槍《ブラスター・スピア》を旋回させ、可憐な唇を開いて歌い出す。


「――♪♪♪」


それは、戦場を統率し、兵士たちの士気を極限まで跳ね上げる『高揚と情熱の軍歌』だった!


彼女の歌声に合わせて、周囲の反帝国ゲリラの兵士たちが歓声をあげ、帝国軍の無人兵器群を次々と撃破していく。燃え盛るマグマの火柱が、彼女の歌声と同期して巨大な龍のように空へ舞い上がった。


「な……なんだあの歌声は! 聴いているだけで、体が熱くなってくる……!」


昴が胸を押さえ、その圧倒的な熱量に目を見開く。


「彼女こそ……三号機《コード・ルージュオペラ》……『ルージュ』だ!」


彗が端末の数値を凝視しながら叫ぶ。


「見てごらん! 彼女の調律炉は『戦意の高揚』と『熱エネルギーの変換』に特化している! 彼女はゲリラたちの『勝利の女神』として戦場に立ち続けているんだ!」


だが、その時――戦場の空気を切り裂く、冷酷な機械音声が響き渡った。


『――威勢がいいな、反乱軍の狂犬どもめ』


要塞の上空から、超大型の重装甲歩行兵器――帝国軍要塞防衛兵器《ヴァルカン・ゴライアス》 が地響きを立てて降下してきた。


乗っていたのは、帝国の東方宙域司令官・|グラント将軍であった。


『ルージュよ、貴様がいくら兵士どもの士気を上げようと、我が要塞の絶対的な物量と熱線超砲《メガ・ブラスター》の前には無力! 貴様の調律炉がオーバーヒートを起こすまで、兵士ごと焼き尽くしてくれる!』


要塞兵器の巨大な砲身が赤く発光し、ルージュとゲリラ部隊へ向けて収束エネルギーが充填され始めた。


「くっ……! させるか! 燃え尽きるまで……私は歌い続ける!!」


ルージュが血を吐くような覚悟で熱線槍を構え、さらに出力を上げようと調律炉を過熱させる。だが、連戦の疲労により、彼女の真紅の髪が激しく火花を散らし、膝がガクリと折れかけた。


「ルージュの調律炉が限界だ! このまま最大出力を出したら、彼女自身が焼き切れて自爆してしまう!」


彗が悲鳴をあげる。


「ルージュちゃんっ!!」


咲良が叫んだ。


その瞬間――。


「――♪」


燃えさかる炎の谷に、氷のように澄み切った、けれどどこまでも温かい『鎮魂と防護の旋律』が重なり合った。


「な……なに……!?」


膝をつきかけたルージュが、驚愕して振り向く。


光の粒子となって戦場の只中に舞い降りたのは、オーロラシルバーの髪をなびかせた奏芽だった。


奏芽は胸の調律炉から溢れ出る黄金と青純色の光で巨大な防護障壁(ハイ・シールド) を展開し、グラント将軍の放った熱線超砲の激流を正面から受け止めた!


「ドカアァァァン――ッ!!」


凄まじい爆風とマグマの飛沫が散り散りになる。だが、奏芽のシールドはビクともせず、ルージュとゲリラたちを完璧に守り切っていた。


「な……なんだ貴様は!? 私の『熱』を殺殺《オフセット》しただと……!?」


ルージュが信じられないといった様子で奏芽を見つめる。


奏芽は静かにルージュへと歩み寄り、その華奢な手を取った。


「初めまして……三号機。私の名前は、奏芽《カナメ》。……貴方の『姉』です」


「あ……姉……!? 馬鹿な、第一号機《カナメ》は感情のエラーを起こして破棄されたはず――」


「私は生き破棄されていません。そして……『心』を手に入れました」


奏芽は温かい眼差しでルージュのサファイアの瞳を見つめた。


「貴方の歌声は……とても情熱的で、美しい。ですが……その胸の調律炉は、戦いの悲しみと命の危機で悲鳴をあげています」


「悲鳴……? ふ、戯言を! 私は兵器だ! 戦場で歌い、敵を討ち倒すためだけに存在する戦姫だ! 温もりなど……私には必要ない!」


ルージュは奏芽の手を振り払おうとする。しかし、奏芽の手の温もりが、彼女の過熱した調律炉を優しく冷却していくのを、彼女の回路は確かに感知していた。


「必要ないなんて言わせないぞ!」


昴がビームブレードを構えて二人の前に躍り出た!


「命を削って歌うのが兵器の宿命だって言うなら、俺たちがその宿命《プログラミング》を叩き壊してやる! 咲良、彗! 奏芽をサポートだ!」


「わんだほー! 任せてよ昴くん!」


「やれやれ、灼熱のステージなんてボクの精密機器には天敵だけど……最高のアンコールを見せてあげるよ!」


咲良と彗がステージ機材を展開し、戦場全体に幻想的な星空のホログラムと軽快なリズムが弾け飛ぶ!


「な……なんだこの人間たちは……!? 戦場の中で……何をしようとしているんだ!?」


ルージュが呆然と叫ぶ。


奏芽は昴たちの背中を見つめ、可憐な唇に咲くような笑顔を浮かべた。


「ルージュ……見てください。これが、私の大好きな『スターライト劇団』です。戦うためではなく……誰かを笑顔にするために歌う、私たちの新しい舞台です!」


奏芽が手を伸ばし、ルージュの胸に優しく触れた。


「私と一緒に……本当の『歌』を歌いませんか?」


「私に……本当の……歌……?」


ルージュの真紅の瞳に、初めて大きな惑いと、あふれんばかりの『情熱の光』が芽生え始めていた――!

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