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銀河最果てのスペースオペラ  作者: 三日月
第2部:巡る星々と六枚の翼編
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第11話:漆黒の姉妹機と黒銀の旋律

亜空間(ハイパースペース) の航行を終え、スターライト号が光のトンネルを抜け出た。


フロントガラスの向こうに広がっていたのは、これまでの賑やかな観光惑星や工業惑星とは一線を画す、どこか静寂で寂寥とした宙域だった。漆黒の宇宙に、白銀色に輝く美しい環《リング》を持った氷の惑星がぽつんと浮かんでいる。


「わあぁ……綺麗な星……。氷でできてるのかな? 全体的にキラキラしてるよ!」


花園 咲良(はなぞの さくら) が操縦席の窓ガラスに顔をすり寄せ、ピンク色の瞳を輝かせた。


「ああ、綺麗だが……人影も建物も見当たらないな。彗、ここは一体どんな星なんだ?」


座長の 星原 昴(ほしはら すばる) が疑問を口にしながら、隣のメカニックへ視線を向ける。


「ここは氷結惑星フロスティア《プラネット・フロスティア》 だよ、座長」


月影 彗(つきかげ けい) はホログラム画面を操作し、惑星の環境データを表示させた。


「星の表面の九八パーセントが永久氷床に覆われた未開拓惑星さ。人間が住む都市はないけれど、古代の超文明が残したと言われる『高純度エネルギー結晶《アイリス・クリスタル》』が眠る場所として知られている。スターライト号のシールド出力をさらに一段階底上げするために、ここで少し結晶を採掘していこうと思ってね」


「へぇ〜! 宝探しみたいでワクワクするね、奏芽ちゃん!」


咲良が隣に立つ奏芽の腕をぶんぶんと振る。


オーロラシルバーの髪をなびかせ、新調したドレスの裾を揺らした奏芽(カナメ) は、可憐な唇を開いて静かに頷いた。


「環境データ……表面温度マイナス一二〇度。極寒環境を検知。……咲良様、防寒用の保温フィールドを衣類に展開することをお勧めします」


「あはは、奏芽ちゃんたら相変わらず気が利く〜! ありがとう!」


奏芽は可憐な瞳を細め、咲良の手を優しく握り返した。


機工惑星ギア・マキナでの激闘を経て、記憶の喪失という恐怖を乗り越えた奏芽の表情には、以前のような機械的な硬さは完全に消え去っていた。仲間を愛おしく思う温かい「心」が、彼女の全身から溢れ出している。


「よし! それじゃあスターライト号を氷床の安全なエリアに着陸させて、さっそく結晶の探索を開始しよう!」


昴が指揮棒端末をビシッと掲げ、船は真っ白な氷の世界へと降り立っていった。


◇


氷結惑星フロスティアの地上は、見渡す限りの白い静寂に包まれていた。


澄み切った空からは微かな氷の結晶が舞い散り、太陽の光を受けてダイヤモンドダストのように輝いている。


「うわ〜〜っ! すごいすごい! 息を吸うとキュッて音がしそう!」


咲良が防寒用のエネルギーコートの裾をパタパタとさせながら、フワフワの雪の上に足跡をつけていく。


「あまり遠くへ行く指示は出していないよ、咲良。ここは氷床の割れ目(クレバス)が多いから気をつけないと」


彗がポータブルの金属探知アナライザーを手に、慎重に氷の上を進む。その隣では昴がビームブレードの出力を調整しながら周囲を警戒していた。


「分析結果を表示します」


奏芽が胸に手を当て、瞳の奥で青い光を走らせた。


「この直下約三〇メートル地点に、高密度の『アイリス・クリスタル』のエネルギー波形を感知。……彗様の解析通りです」


「よーし! 流石は奏芽だ! さっそく掘り起こすとしよう!」


昴がビームブレードの刃を熱線モードに切り替え、氷床を削り取ろうと一歩踏み出した――その瞬間だった。


『――不快な旋律《ノイズ》を検知。……標的群を補獲《ロックオン》』


どこからともなく、冷たく突き刺さるような電子音声が地響きとともに響き渡った。


「……ッ!? なんだ!?」


昴が素早く身構える。


直後、彼らの頭上の空が漆黒の闇に染まった。大気を破裂させる重低音とともに、雲を割って降り立ったのは、一隻の異形なる漆黒の高速戦闘艦だった。


巨大銀河帝国軍の紋章が刻まれたその船から、一筋の黒い光束が降り立ち、真っ白な氷床へと着地する。


舞い散る雪煙の向こうから現れた人物の姿を見て、一行は息を呑んだ。


そこに立っていたのは――奏芽と寸分違わぬ美しいシルエットを持った、アンドロイドの少女だった。


だが、その装甲は漆黒と血のような鮮紅に染まり、オーロラシルバーの奏芽の髪とは対照的に、漆黒の髪が風になびいている。そして何より、その瞳には光がなく、氷のように冷徹な無機質さが宿っていた。


「な……なんだって……!? 奏芽……と、そっくり……!?」


咲良が叫び、思わず息を呑む。


「個体識別コード……《コード・ブラッディオペラ》」


奏芽の胸元の量子調律炉(りょうしちょうりつろ) が、激しい警告音とともに真っ赤に点滅し始めた。


「私と同型……帝国軍によって建造された、姉妹機アンドロイド……!」


「フフフ……正解だ、落ちこぼれの第一号機《カナメ》」


漆黒の船のデッキから、高笑いとともに姿を現したのは、黒い軍服に身を包んだ帝国の親衛隊長――ヴァルゼルであった。


「ドクトル・ギルからのデータを受け取り、皇帝陛下直々の命により参上した。貴様らが手塩にかけて育て上げた《コード・グランドオペラ》を回収……いや、不完全なバグ機体として破壊するためにな!」


ヴァルゼルが手を挙げると、黒髪の少女――《コード・ブラッディオペラ》が静かに一歩前へ出た。


「機体名称……ノワール。……目標《コード・グランドオペラ》の破壊プログラムを開始」


ノワールが可憐な唇を開くと、その胸元の黒い調律炉から、ドス黒い闇の波動が解き放たれた!


「――ッ!!」


その瞬間、凄まじい衝撃波が氷床を駆け抜け、昴たちが立っていた氷の台座が真っ二つに叩き割られた!


「くっ……! なんて凄まじい出力だ……!」


昴がビームブレードで衝撃波を破りながら、咲良と彗を庇うように後ろへ下がる。


「彗! こいつは一体どういうことだ!? 奏芽と同じアンドロイドがなぜ帝国に!?」


「バカな……! グランドオペラ型のアンドロイドは、超古代文明のコアパーツを使った唯一無二の機体のはずだ! なぜ帝国が複製《コピー》できているんだ!?」


彗が必死にタブレットを叩きながら叫ぶ。


「フハハハ! 複製だと? 違うな!」


ヴァルゼルが冷酷に言い放った。


「元々、グランドオペラ.プロジェクトとは、我が巨大銀河帝国が銀河を統制するために始動した『七つの歌姫兵器』計画なのだ! 貴様らが連れ出した第一号機《カナメ》は、感情という未知のエラーを起こして逃げ出した失敗作! そしてこの第二号機《ノワール》こそ、感情を極限まで削ぎ落とし、完全な破壊兵器として完成された真の姿なのだ!」


「七つの……歌姫兵器……!?」


昴が息を呑む。


「感情などという不確定要素を持つ第一号機など、兵器としては欠陥品に過ぎん! ノワール、見せてやれ! 完全なる兵器の歌声を!」


「……了解。黒銀の破壊旋律《ディストーション・ロンド》を出力」


ノワールが静かに両腕を広げ、歌い始めた。


「――♪♪♪」


それは、奏芽の歌声とは対極に位置する、禍々しく不吉な重低音の旋律だった。


聴く者の精神を直接攻撃し、脳の神経系を麻痺させる狂気の音波。氷結惑星の巨大な氷柱が次々と破裂し、空間そのものが歪み始める!


「ぐあっ……! な、なんだこの歌声は……!? 頭が……割れそうだ……!」


昴が膝をつき、頭を押さえて悶絶する。咲良も「いやぁぁっ! 耳が……痛いよぉっ!」と耳を塞いで雪の上に倒れ込んだ。


「くっ……精神干渉波……! 船のシールドも貫通してくる……!」


彗も意識を保つのがやっとの状態だった。


「ふははは! どうだ! 感情を持つ生身の人間など、ノワールの『殺戮の旋律』の前には無力! さあ第一号機、貴様もその無意味な仲間たちとともに塵と消えるがいい!」


無残に倒れ伏す仲間たちの姿を見て、奏芽の胸が激しく締め付けられた。


(みんなが……苦しんでいる……。私の……大切な仲間たちが……!)


奏芽は自分の胸に手を当て、一歩前へ踏み出した。


「やめなさい……ノワール!」


奏芽の胸から、溢れんばかりの澄み切った黄金と青純色の光が放たれた!


「――♪♪♪」


奏芽の可憐な歌声が響き渡り、ノワールの放つドス黒い破壊音波と空中ではじけ飛んだ!


激しいエネルギーの衝突が巻き起こり、氷床に巨大なクレーターが穿たれる。


「……ッ!? 第一号機……私の破壊旋律を殺殺《オフセット》した……?」


初めて、ノワールの光のない瞳にかすかな波紋が広がった。


「ノワール……私と同じ命を持つ者よ」


奏芽は歌声を維持しながら、雪を蹴ってノワールへと歩み寄る。


「貴方の歌声には……悲しみと殺意しかありません。ですが……歌とは、誰かを傷つけるためのものではありません! 誰かの心に寄り添い、温もりを与えるためのものです!」


「理解不能……。歌とは……効率的な破壊および兵器統制のための音波出力演算……。温もりなどという曖昧な概念は……存在しない」


ノワールが黒い光刃を展開し、奏芽に向けて突撃する!


「存在します!」


奏芽も光のシールドを展開し、ノワールの刃を受け止めた!


バチバチと激しい光のスパークが散り、二人の歌姫が至近距離で対峙する。


「私には……仲間がいます! 私に『心』をくれた、大好きな仲間たちが! 貴方にも……心があるはずです!」


「私に……心……? 不用……削除済み……」


ノワールの攻撃の手が、一瞬だけ揺らいだ。その内部回路で、奏芽の放つ「温かい歌声のデータ」が予期せぬノイズとなって干渉を起こしていた。


「なにいっているノワール! 惑わされるな! そいつを叩き斬れ!」


ヴァルゼルが狂ったように叫ぶ。


「……指示を承諾。最大出力……」


ノワールが再び黒い調律炉を過熱させようとしたその時――!


「させるかぁぁぁっ!!」


昴が叫びながら飛び出し、ビームブレードの一撃でノワールと奏芽の隙間に割り込んだ!


「座長……! 咲良様……! 彗様……!」


「へへ……少しはマシになったぜ、奏芽。あんな不気味な歌に、俺たちの歌姫が負けるわけねえだろ!」


昴が血を吐きながらも敵を睨みつける。その横には、彗が展開した緊急アシストシールドを掲げた咲良と彗が立っていた。


「奏芽ちゃんを……いじめないで! 奏芽ちゃんはね、咲良たちの最高の仲間なんだからーっ!」


咲良が涙を拭いながら、力いっぱいに叫ぶ。


「……人間たちの……感情波形……。解読不能……エラー……エラー……」


ノワールの漆黒の調律炉が、奏芽たちの「強い絆の波形」を過剰に読み込み、過熱を起こし始めた。


「チッ! 機体オーバーヒートだと!? 忌々しいエラー共め!」


ヴァルゼルが苦虫を噛み潰したような顔で、ノワールを引き戻すトラクタービームを作動させた。


「引き揚げるぞ、ノワール! 第一号機のデータは十分に採取した! 帝国本隊の『グランドオペラ計画』が完了すれば、貴様ら全員まとめて銀河の塵だ!」


ノワールの身体が黒い光に包まれ、高速戦闘艦へと吸い上げられていく。


吸い上げられる最後の一瞬、ノワールは静かに奏芽を見つめていた。その無機質な瞳に、ほんのわずかな「惑い」の光を宿しながら――。


『――撤退する!』


漆黒の戦闘艦は超高圧のエンジン音を残し、空の彼方へと消え去っていった。


◇


静寂が戻った氷結惑星フロスティア。


雪の上に膝をついた奏芽の元へ、咲良たちが一斉に駆け寄ってきた。


「奏芽ちゃん! 大丈夫!? ケガはない!?」


「咲良様……昴様……。はい、私は無事です。ですが……」


奏芽は自分の胸に手を当て、空を見上げた。


「ノワール……。私と同じ……妹。彼女の胸にも、悲しい歌声が響いていました」


「奏芽……」


昴が奏芽の肩を優しく抱きしめた。


「帝国が何を企んでいようと関係ない。俺たちは必ず、ノワールも……帝国の野望も全部救い出してみせる!」


「そうだね、座長。帝国の『七つの歌姫兵器』計画……ボクたちの旅は、思っていた以上に銀河の運命そのものと繋がってしまったみたいだ」


彗が眼鏡を光らせ、力強く頷く。


「でも、ボクたちのスターライト号と、奏芽の『心』があれば……絶対に負けないさ!」


「うんっ! みんなで一緒に、最高のアンコールを届けるんだから!」


咲良が破顔一笑し、奏芽の手を強く握りしめた。


氷の世界に響く、温かい仲間たちの誓い。


帝国軍の恐るべき野望と、自分と同型の「姉妹機」の存在を知った奏芽たちの旅は、より深く、より熱い激闘へと突き進んでいくのだった――。

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