81話
ガイドたちが出ていくとエスパーたちはプールから上がり、プールサイドの壁にもたれかかって座っていた。
「なんだよ、さっきの……」
湊が苛立ちをあらわにした。
「バーストですね。さすがSSランク。意識を持っていかれるかと思いましたよ」
橘は荒い息を吐きながら答えた。
「俺のせいですよね……。すみません……」
伊織は申し訳なさそうに謝った。
「とりあえず、アランさんに連絡しましょう」
サーシャは震える手で携帯を取り出し、どうにかアランに電話をかけた。
呼び出し音が鳴る間も、甘い匂いの影響で意識が揺らぎそうになるのを必死にこらえていた。
「どうした?」
アランが電話に出ると、受話器の向こうからサーシャの苦しそうな声が聞こえてきた。
「アランさん……すぐに……ガイドたちを助けてください。一花ちゃんがバーストして、エスパー四名が匂いに当てられました」
「バースト……。わかった、すぐ行く」
「お願いします……」
通話が終わると、サーシャは力なく腕を下ろした。
アランはすぐに地下へと向かった。
更衣室やトレーニングルームなど、いくつか部屋があったが、すぐに目的の部屋を見つけることができた。
扉が閉まっているにもかかわらず、隙間から甘い匂いが漏れ出していた。
「オルン、いるか」
アランはドア越しに声をかけた。
「いるよ!」
「一花ちゃんの様子はどうだ?」
「さっきよりは落ち着いたけど、私たちだけじゃ限界かもしれない……」
「あとは俺が引き受ける。鍵を開けてくれ」
「わかった」
オルネアは鍵を開ける前に玲央へと目を向けた。
玲央は黙って頷いた。
ガチャッ。
鍵が開く音がした直後、アランは扉を開けた。
部屋に足を踏み入れた瞬間、強烈な甘い匂いがアランを襲った。
一瞬、意識が引きずられそうになる。
それでもアランは奥歯を噛みしめ、どうにか平静を保っていた。
「二人は平気か?」
アランはオルネアと玲央に目を向ける。
「私たちは大丈夫」
「そうか。二人はオルンの部屋に避難していてくれ。玄関に鍵をかけて、誰が来ても絶対に開けるなよ」
アランに言われ、二人は急いでエレベーターに乗り、オルネアの部屋へと向かった。
二人がエレベーターに乗り込んだのを確認すると、アランは一花のもとへ駆け寄る。
「アランさん、すみません……。私のせいで……」
一花は申し訳なさと不安から涙を流していた。
「大丈夫だ。落ち着け」
アランは一花を抱きしめ、落ち着かせるように頭を撫でていたが、一花の放つ甘い匂いは一向に治まる気配がなかった。
アランは一花に口づけ、逆ガイディングをすることにした。
「アランさん……」
一花の声は震えていた。
「もう少しだ。頑張れ」
アランが逆ガイディングを続けるうちに、少しずつ一花の身体の中で暴れていた力が鎮まっていく。
あれほど強く漂っていた甘い匂いもすーっと引いていった。
アランはゆっくりと唇を離した。
「どうだ?」
「落ち着きました……」
一花がアランに目を向けるとアランの瞳は金色に光を帯びて、額には汗が滲んでいた。
アランは一花を抱き上げ、オルネアの部屋へと向かい、チャイムを押した。
「はい」
「一花ちゃんを連れてきた。保護してくれ」
そう告げると、玄関の鍵が解除された。
扉が開き、玲央が顔を出す。
玲央はアランに抱きかかえられた一花を見ると、心配そうに顔を向けた。
「頼んだ」
「分かりました」
「連絡するまでは気をつけろよ。鍵をかけるのも忘れるな。いいな」
「はい」
二人に一花を託すと、アランはすぐにヒロの部屋へと向かった。
玄関に着くと扉に手をかける。
鍵はかかっていなかったらしく、ガチャリと音を立てて開いた。
「おい、ヒロ! いるか」
声をかけるとヒロが部屋の奥から姿を現した。
「どうしたんですか?」
「一花ちゃんがバーストを起こした。匂いに当てられて、エスパーたちがまともに動けない状態だ。転移を頼めるか?」
アランの言葉にヒロの表情が引き締まる。
「分かりました」
「今日レイはいるか?」
「レイは出かけるって言ってたのでいないと思います……」
「そうか、いないならいい。お前も匂いに当てられないように気を引き締めろよ。現場はまだ危険な状態だ」
「はい。気をつけます」
二人はすぐに部屋を出て、地下のプールへと急いだ。
到着するとプールサイドではエスパーたちが壁にもたれ、ぐったりと座り込んでいた。
荒い息を吐く者もいれば、頭を押さえて顔を伏せている者もいる。
誰もがまだ匂いの影響から抜け出せずにいた。
アランは彼らの様子をひと目で確認すると、すぐにヒロへ告げた。
「転移先は俺の部屋でいい。全員まとめて頼む」
「分かりました」
ヒロは全員を一度で転移させるため意識を集中させた。
次の瞬間、全員がアランの部屋へと移動した。
アランは全員の体調を確かめ、動ける者から順に身体が冷えないようにシャワーを浴びて着替えるよう促す。
全員が落ち着いたところで、アランは改めて一人ひとりの状態を確認した。
しばらくして、アランから連絡を受けた黒川が部屋へやってきた。
「悪い、遅くなった」
黒川は室内を見渡すと橘のもとへ向かった。
「橘、具合はどうだ?」
「もう大丈夫です。問題ありません」
橘はそう答えたものの、まだ顔色には疲労感が残っていた。
黒川は橘の様子を確かめてからアランへと視線を移した。
「アラン、何があったんだ?」
「水中訓練中、一花ちゃんがバーストしたんだよ。ガイドたちは別室に避難させてる。エスパーたちは強い匂いに当てられた」
「そうか……。でも彼女の力がなぜ急にバーストしたんだ」
黒川は険しい表情で呟いた。
「匂いに慣れてる俺でも意識を持っていかれそうになったくらいだ。サーシャたちは相当きつかったはずだな」
アランの言葉に、黒川は改めてエスパーたちの様子を見渡した。
「皆が平気なら彼女らも呼んで話を聞きたい」
黒川の言葉に、エスパーたちは互いに顔を見合わせると問題ないと頷いた。




