82話
アランに呼ばれ、ガイドの三人も着替えを済ませて部屋に入ってきた。
一花は部屋に入るなり、黒川がいることに気がついた。
黒川は一花に冷たい視線を向ける。
「アランからの連絡で君がバーストしたと聞いた。皆に迷惑をかけたことは理解できているか?」
「はい……」
一花は俯き、小さな声で答えた。
「今回はルーフェスの者と橘たちしかいなかったからまだよかったものの、これが管理局や他の場所だったら多くの被害者が出ていただろう。エスパーは衝動を抑えきれず、誰彼構わずガイドを襲う可能性だってある。そしてガイドは傷つけられる。君はそれほど危険なことを起こしたんだ」
黒川は感情的に責め立てるわけでもなく、ただ冷静に事実を突きつけた。
一花はその言葉を聞き、ようやく自分が引き起こした事態の重大さを思い知らされた。
「すみませんでした……」
一花が深く頭を下げると、伊織が一花を庇うようにして前に立った。
「ちょっと待ってください! 今回のことは一花ちゃん一人のせいじゃないでしょう。ガイディングしてもらった俺にも責任があります!」
「それでもだ! ガイドとして、今回のことは見過ごせない。いくら力の制御に慣れていなかったとしても、自分の力を抑えきれなかったのは彼女の認識の甘さだ」
「それはそうかもですけど……。そんな言い方しなくたっていいじゃないですか」
伊織は黒川を真っ直ぐに見据え、彼女だけが責められることに納得がいかず、思わず食ってかかっていた。
黙って様子を見ていたアランが口を開いた。
「まあまあ、お説教はここまででいいんじゃないか? まずは状況を聞いて整理しよう」
アランは黒川に視線を向けた。
「……はぁ、そうだな。とりあえず、二人はこちらに座ってくれ」
黒川に促され、伊織は一花の背中にそっと手を添え、座るように促した。
ダイニングテーブルには黒川とアランが並んで座り、その向かい側に一花と伊織が腰を下ろした。
「まずは状況を教えてくれ」
黒川に促され、伊織が口を開いた。
「水中訓練中、最初は接触ガイディングをしてもらいました。でも、あまり体調が回復しなかったので、粘膜ガイディングをしてくれたんです。そしたら、急に彼女がバーストしてしまって……」
「何かいつもと違うことをしたのか?」
伊織の話を聞き、黒川は一花に問いかけた。
「伊織さんのガイディングは皆さんと少し違くて……。複雑な網目のような回路になっていたので、細かく注意しながら浄化したんです……。そしたら急に……」
「ガイディングの回路がわかるのか?」
黒川が意外そうに尋ねた。
「わかるというか……感じて、見えるという表現のほうが近いです」
その答えに、黒川は玲央とオルネアへ視線を移した。
「君たちも、ガイディングのときは同じように感じるのか?」
「いえ。力が流れる感覚はわかりますが、回路まではわかりません」
玲央が答えるとオルネアも頷いた。
「私も相手の回路までは見えません」
二人の言葉を聞き、一花は初めて自分の感覚がほかのガイドたちとは違うのだと理解した。
自分にしかわからないものがある。
その事実に驚く一方で、自分の力が何なのか、どう扱えばいいのかもわからなくなっていた。
力が再び暴走するかもしれないと思うと怖かった。
「伊織は今までガイディングはどうしてたんだ? パートナーは?」
アランが伊織に尋ねた。
「ガイディングは管理局のガイドさんにお願いしてはいましたが、ガイディングを受けてもあまり回復しなかったのでパートナーを持ったことはありません」
「オルン、伊織に少しガイディングをしてみてもらえるか?」
アランに声をかけられ、オルネアはすぐに伊織のそばへ移動した。
伊織が手を差し出すと、オルネアはその手を握り、ガイディングを始める。
しばらくして、オルネアはそっと手を離した。
「回路までは見えないけど、力が簡単に流れていかない感じはする。ガイドとしてはあまり相性が良くない印象を受けるかも」
「わかった。ありがとう」
オルネアは頷くと湊のもとへ戻った。
「伊織の力が特殊でそれに反応してバーストしたのか……」
黒川は腕を組み、考え込むように視線を落とした。
「今はどのくらい制御できそうなんだ?」
黒川は一花に問いかけた。
「どのくらい制御できるのか、わかりません……」
一花は俯き、小さな声で答えた。
黒川はそんな一花の様子を見つめていたが、やがて席を立って一花の隣へと移動した。
気配を感じた一花が顔を上げると、黒川の冷たい視線とぶつかった。
思わず身構えそうになったが、一花は黒川の瞳にわずかな異変を感じ取った。
瞳の奥がほんの少し曇っているように見えたのだ。
最近は黒川の冷たい視線が怖くて、まともに目を合わせることさえ避けていたから気づかなかったのかもしれない。
「あの……黒川さん体調悪いですか?」
一花は考えるより先にそう声をかけていた。
「なぜそう思う」
「黒川さんの瞳の奥が曇っているように感じます……」
黒川はわずかに驚いた表情を浮かべた。
「だとしたらどうする」
「ガイディングを受けたほうがいいと思います……」
「君が受け持つとでも言うのか?」
「許してもらえるなら……」
その時、黙って聞いていたアランが二人の間に割って入るように声を上げた。
「ちょっと待った! 一花ちゃんはさっきバースト起こしたばかりだろ。もう一度起きても困る。皆を一旦部屋に戻そう」
「……はぁ。そうだな」
黒川の答えを聞いて皆が動き始める。
「橘さんたちは私の部屋にどうぞ」
サーシャがすぐに声をかけた。
「ありがとうございます」
橘と玲央が礼を述べた。
「伊織は残ってくれ」
「分かりました」
黒川に声をかけられ、伊織は頷いた。
皆が玄関へ向かい、それぞれの部屋に戻ろうとした時、オルネアが振り返った。
「アラン、一花ちゃんにあんまり無理させないで。バーストはガイドだけでは抑えきれないから」
オルネアは心配そうにアランへ告げた。
「ああ、黒川も俺も分かってるから大丈夫だ」
アランは安心させるように微笑んだ。
「とりあえず、状況が落ち着いたら皆に連絡入れるから、それまでは部屋で待機しててくれ。あと、ヒロはレイに連絡入れといてくれ。頼んだぞ」
「分かりました」
オルネア、湊、ヒロ、サーシャ、橘、玲央は、それぞれ自室やサーシャの部屋へと戻っていった。
アランの部屋に残ったのは、黒川、アラン、伊織、一花の四人だけになった。




