↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波の音が消える前に  作者: 音香(Otoca )


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/82

8話

小さな洞窟の中で皆は仮眠を取っているが、一花はほとんど眠れないまま時間を過ごしていた。


この一ヶ月で少しは馴染めてきたと思っていた。


オルンギルドの空気にも慣れてきた気がしていたが、あれは自分だけだったのかもしれない。


ヒロの拒絶が頭から離れない。


『ガイディングを許すのはあいつだけだ』


その言葉が胸に刺さっていた。


けれど、こんな好条件で雇ってくれるギルドなんて他にはない。


(極力嫌われないようにしないと……)


一花はぎゅっと身体を丸める。


自分には大した力なんてないけど、暴走だけは止めたかった。


誰かが壊れていくのを見るのは嫌だった。


そんな考えが頭の中でぐるぐると渦巻いていた。


その時。


「一花ちゃん、お水どうぞ」


優しい声が降ってくる。


顔を上げると、サーシャがペットボトルを差し出していた。


一花は慌てて身体を起こし受け取った。


「ありがとうございます」


冷たい水が火照った身体へ染み込んでいく。


サーシャは一花の隣へ静かに座った。


「あまり悩まないでくださいね。ヒロは態度はあんなですけど優しいんですよ」


穏やかな声だった。


一花は少しだけ目を伏せ、小さく頷く。


「あんまりうだうだ考えるなよ」


冷たい声が落ちた。


少し離れた場所で横になっていた湊がこちらを見ている。


「サーシャに迷惑かけるだけだよ」


「湊!」


サーシャが止めるように名を呼ぶが、湊は気怠そうに続けた。


「だって言わないと分からないでしょ。サーシャはテレパシーで人の感情受け取っちゃうんだから」


一花は息を呑んだ。


サーシャの能力はテレパシー。

良くも悪くも、人の感情に敏感だった。

だから一花の不安や自己嫌悪も伝わってしまう。


一花は慌てて頭を下げた。


「すみませんでした……」


胸が苦しくなる。


何も考えないようにしようとしても、余計に感情が溢れてくる。


(また迷惑をかけてしまった……)


するとサーシャが困ったように微笑んだ。


「心の感情を勝手に聞いたりはしないので安心してくださいね」


最後まで優しい声だった。


その気遣いが逆に申し訳なくなる。


湊は呆れたように小さく息を吐くと、再び横になり目を閉じた。


洞窟の中に静かな空気が戻る。



しばらく経った頃、アランが立ち上がった。


「そろそろ行くぞ」


全員が静かに立ち上がる。


仮眠を終えた男たちの空気は、先ほどよりさらに鋭くなっていた。


一花も慌てて立ち上がる。



再び洞窟の奥へ進み始め、しばらく歩いた時だった。


突然地面が大きく揺れ始めた。


「……っ!」


前方の空間が裂けるように歪み、新たな黒いゲートが現れた。


ゲートの中に、さらにゲート。


このゲートの本当の正体は"二重ゲート"だった。


「やっとお出ましか」


レイが笑みを浮かべた。


皆、躊躇なくゲートへ入っていく。


一花も慌てて後を追った。


中へ入った瞬間、さらに空気が変わる。


濃密な魔力に息苦しいほど重い圧迫感。


「っ……」


一花は思わず顔を歪めた。


昨夜とは比べ物にならなかった。


暗闇の奥から、無数の赤い目が浮かび上がった瞬間、魔物達が一斉に飛び出してくる。


「数やばっ!」


湊が笑いながら前へ飛び出した。


短剣が閃き一瞬で魔物の視界が奪われ、そのまま喉が裂ける。


レイは巨大な岩を持ち上げ、そのまま魔物の群れへ叩き落とすと肉が潰れる音が響く。


ヒロは瞬時に空間を移動し、死角から魔物の核だけを正確に破壊していく。


サーシャは後方で一花を守りながら精神干渉を行っていた。


緑色の光が走る度に魔物達が苦しみ始め、泡を吹き、自ら頭を打ち付けながら絶命していった。


そしてアランは黒い影が床を這うと次の瞬間、魔物達の身体が重力に押し潰されたように地面へ叩きつけられる。


骨が砕ける音に悲鳴。


さらに影が飲み込むように広がり、魔物達を侵食していく。


一花は固まっていた。


(強すぎる…… )


まるで人間ではないみたいだった。


激しい戦闘の末、ようやく最奥へ辿り着いた。


そこは空間そのものが歪んでいるような不安定な場所だった。


空気は重く息をするだけで肺が締め付けられる。


その中央に赤く輝く小さな結晶があった。


一花は初めて実物を見た。


(これが……)


二重ゲートにしか存在しない核の塊。


管理局でも滅多に見られない高濃度エネルギー体。


アランは迷いなく近づくと黒い影を伸ばし核を包み込んだ。


「今回はこれで終わりだ。帰るぞ」


アランの纏う空気が重く息が詰まるようだった。


まるで暴走前のエスパーのような不安定さを感じる。


一花は思わずアランを見ると、金色の瞳がどこか鋭く光って見えるのに、誰も何も言わなかった。


慣れているような雰囲気だった。


ゲートの外へ戻ると夜風が肌を撫でる。


湿ったゲート内とは違う現実の空気に一花はほっとした。


振り返ると巨大な裂け目はゆっくり閉じていき、やがて完全に消えた。


一花はしばらくその場所を見つめていた。


「置いてくぞ」


ヒロが振り返り、一花へ声をかける。


「あっ……はい」


一花は慌てて駆け寄った。


帰りもヒロの空間移動を使い事務所へ戻る。


視界が切り替わった瞬間、見慣れた事務所内が広がった。


皆疲れ切っている様子だった。


「各自シャワー浴びたら再度集合な」


アランが声をかける。


「まだ寝れないの~」


湊がソファーへ倒れ込みながら不満そうに言った。


「まだ書類作成の為の聞き取りが残ってますからね」


サーシャが静かに諭す。


「はぁ……だる」


レイも面倒そうに髪を掻き上げた。


そんな中、一花だけはまだどこか落ち着かない気持ちだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。