7話
夜二十二時。
一花が事務所へ降りていくとすでに全員揃っていた。
昼間とは違う空気に包まれている。
皆、白いTシャツに黒パンツというラフな格好に、ホルスターを装着し武器を入れている。
その姿には異様な威圧感があった。
特にアランは白いTシャツ一枚なのに近寄り難い空気を纏っている。
「揃ったか」
アランが椅子から立ち上がり声をかけた。
「はい……」
一花は小さく返事をした。
初めてのゲート同行に緊張で胸がざわついていた。
そんな一花を見て湊が軽く笑う。
「そんな緊張しないでよ。緊張で固まってたら死んじゃうかもね」
「湊」
サーシャが軽く怒ったように湊を止め一花に声をかけた。
「冗談ですから気にしないでくださいね」
一花にはまったく冗談に聞こえなかった。
「行くぞ」
アランの一言で空気が変わる。
ヒロが手を前へ出し力を込めた。
すると空間がゆらりと歪み足元に黒い裂け目のようなものが現れる。
一花は思わず身体を強張らせた。
「移動する。酔うなよ」
ヒロが言った瞬間、視界がぐにゃりと歪み身体が浮くような感覚がし、一瞬の浮遊感のあと足が地面へ着いた。
「……っ」
一花は思わずふらつく。
「大丈夫ですか?」
サーシャが後ろから支えてくれた。
「ありがとうございます……」
顔を上げるとそこは都内某所だった。
立入禁止区域。
赤い警告灯が光り規制線が張られていた。
奥には巨大な黒いゲートが空間を裂くように存在していた。
それを見た瞬間、一花の背筋に寒気が走る。
禍々しく重い空気に息苦しさを感じていた。
(本当にCランクなの……?)
管理局の判断ではCランクと聞いていたが一花にはそう思えなかった。
まるで巨大な化け物が口を開けているようだった。
「お先に」
ヒロとレイは先にゲートへ入って行った。
「行くぞ」
アランが迷いなくゲートへ足を踏み入れる。
湊が続き、サーシャが一花を見る。
「大丈夫です。私の後ろへ」
「はい……」
一花は小さく頷き、ゲートの中へ入ると世界が変わった。
薄暗い視界に湿った空気が淀んでいる。
岩肌から黒い液体が滴っている巨大な洞窟のような空間だった。
しばらく歩くと遠くから不気味な鳴き声が響いた。
「来るぞ」
アランがそう言った瞬間、奥の暗闇から魔物が飛び出してきた。
四足の獣は鋭い牙を剥き向かってくる。
次の瞬間、黒い影が一瞬で魔物を切り裂くと鮮血が飛び散り、魔物の身体が崩れ落ちた。
アランは白いTシャツに赤い血が跳ね返っても表情一つ変えなかった。
その横では湊が軽い足取りで短剣を振るっていた。
「数多いなぁ」
軽い口調で言うと魔物の首が一瞬で吹き飛ぶ。
速すぎて、一花の目では追えなかった。
アランの黒い影が空間を侵食し、魔物を飲み込んでいく。
湊は笑いながら急所だけを正確に裂いていた。
サーシャも後方から一花を守りつつ戦う。
緑色の光が空間を走ると、魔物が苦しみの悲鳴を上げ口から泡を吹いて倒れていく。
一花はただ息を呑むしかなった。
(強すぎる…… )
この人たちは本当にCランクエスパーなのかと戸惑っていた。
ひたすら進むが終わりが見えない。
一花は時計を見るとすでに数時間経っていた。
額には汗が滲み、ゲート内の空気は重く蒸し暑かった。
「まだ続くんですか……」
思わず声が漏れる。
アランが前方を見たまま口を開いた。
「もう少しかかるな」
「そうですね。一度休憩できるとこを探しましょう」
サーシャも警戒を強めながら一花の心配もしていた。
やがて大きく開けた空間へ辿り着いた。
巨大な地下空洞。
そこには、ヒロとレイが待っていた。
レイは壁へ寄りかかりながら煙草を咥えている。
白いTシャツには大量の血が付着していた。
「遅かったな」
「レイさんたちが早すぎなんだよ」
湊が呆れたように言う。
ヒロは周囲を見回しながら口を開いた。
「この先はかなり深い。今日はこの辺で仮眠取ったほうがいいと思います」
「賛成。さすがに疲れた」
「場所はあっちだ」
ヒロについていくと小さめの洞窟があった。
男性陣には高さが狭そうだったが一花は普通に立っていられる高さだった。
皆がその場へ座り込む。
アランは周囲を確認してから入り口に近い場所に座ると一花に声をかける。
「ヒロとレイにガイディングを頼む」
「はい」
一花は小さく返事をした。
近くに座っていたレイの前に膝をつくと、すっと手を出してくれた。
「頼む」
レイの手を両手で包みガイディングを始める。
柔らかな空気に包まれる。
「どうですか?」
「少し楽になった。ありがとう」
レイはお礼を伝えると眠そうに横に寝転がった。
一花は一番奥に座っていたヒロの前に行くと膝をついて話しかけた。
「ヒロさん、ガイディングに来ました」
ヒロは瞑っていた目を開けると一花を睨んだ。
「ガイディングは必要ない」
「えっ…… でも……」
ヒロとアランは一花がこのギルドで働き始めてから一度もガイディングを受けていなかった。
「一度ガイディングをさせてもらえませんか?顔色もあんまり良くないですし……」
一花は思いきってヒロの手に触れようと手を伸ばした。
「俺に触るな!ガイディングを許すのは……あいつだけだ」
そう言い一花を手を思いきり払い除けた。
その様子を見ていたアランが口を挟んだ。
「ヒロ、いい加減ガイディングを受けろ。お前が暴走したら困るんだよ。早く手出せ」
アランの圧に負けて渋々片手を差し出した。
一花は急いでガイディングをする。
「終わりました」
「気持ち悪っ……」
ヒロは頭を抱えて項垂れた。
一花はその様子に拒絶されたのだと理解し謝ることしかできなかった。
「すっ、すみません……」
アランは入り口近くに戻り座ると隣に一花を座らせた。
「あいつのことは気にしなくていいから早く寝な」
「はい」
一花はとりあえず返事はしたもののすぐには眠れなかった。
さっきヒロに言われた言葉が胸につっかえていた。
『あいつだけ』確かにそう言っていた。
(以前のガイドさんかな…… )
何も聞いていないので過去のことまでは知らなかったが胸の奥には微かな不安が残った。




