79話
アランと一花は、駐車場に停めてあった大型のSUV車に乗り込んだ。
ゆっくりと車が走り出す。
途中、ドライブスルーでホットココアとアイスコーヒー、サンドイッチを買ってから再び車を走らせた。
車内には音楽が流れていた。
「アランさんが運転するの初めて見ました」
「最近は手入れするだけで全然乗ってなかったからな。たまにはいいな」
アランも楽しそうだった。
知り合ってから、こんなに楽しそうなアランを見るのは初めてな気がしていた。
窓の外には夜景が広がっている。
「きれい……」
「ほんとだな」
アランもちらっと助手席の窓に目を向けた。
しばらく走ると、二人を乗せた車は山奥の何もない場所に車を停めた。
「背もたれ倒せる? 横にレバーあるから」
一花はアランに言われた通りに背もたれを倒して寝転がった。
アランは後部座席からひざかけを取り、一花に掛けると車のヘッドライトを消した。
辺りは暗闇に包まれる。
アランが天井のサンルーフを開けた。
目が暗闇に慣れてくると、サンルーフの窓から星が見えた。
「うわー……。すごい……」
「綺麗だろ。疲れた時、よく来てた場所なんだ」
「癒されますね……」
二人はそのまま静かに夜空を眺めていた。
しばらくしてアランが一花に目を向けると、一花は小さな寝息を立てていた。
管理局の病棟から帰ってきてから、一花はよく眠るようになっていた。
元気そうに見えても、身体の中はまだ全快していない。
だからそれが眠気という形で現れているのだろう。
「さすがに無理させ過ぎたな……」
アランは一花に手を伸ばし、頭を撫でた。
残っていた珈琲を飲んでから、アランは一花を寝かせたまま帰路へと車を走らせた。
事務所の駐車場に着いたのは、深夜0時を回っていた。
一花はぐっすりと眠っている。
アランは車を降りて助手席のドアを開けると、シートベルトを外し、一花に声をかけた。
「帰るぞ。抱っこしてやるから、ほら、おいで」
アランは一花の手を自分の首に回すと、そのまま抱き上げて車から降ろした。
一花は眠気に身を任せ、アランにぎゅっと抱きついた。
アランは自分の部屋のベッドに一花を下ろすと、その隣に横になった。
二人はそのまま静かに眠りについた。
一花が目を覚ますと、部屋にオルネアとサーシャが来ていた。
(星見に行って寝ちゃったんだ……。せっかくドライブに連れてってくれたのに……)
一花は残念に思いながら、話し声のするリビングへ歩いていく。
(アランさん怒ってないといいな……)
「おはようございます……」
一花の姿を見つけるとオルネアが心配そうな顔をした。
「一花ちゃん、大丈夫? こっちおいで」
オルネアが隣のダイニングチェアをポンポンと叩いた。
一花はなぜ心配されているのか分からなかった。
「朝起きたら一花ちゃんがいなくて心配したんですよ。ベランダに飲みかけのビールが置いてあったし、ぬいぐるみもソファーの前に置きっぱなしになってたから、アランさんに無理矢理連れて行かれたんじゃないかって、レイたちが焦ってたんですから」
サーシャの説明を聞いてようやく理解した。
「すみませんでした……」
一花は申し訳なくなり謝った。
「だから昨日、サーシャに連絡入れただろ」
アランは少し不機嫌そうに答える。
「アランには前科があるでしょ! 皆に聞いてたから、心配するに決まってるでしょ!」
オルネアに怒られ、アランはため息を吐いた。
「一花ちゃんが無事だったならいいですよ」
サーシャは一花に優しく微笑んだ。
四人はしばらく他愛のない話をしていた。
「そろそろ行きますか。準備しないとですし」
サーシャがオルネアに声をかけると一花が尋ねた。
「何を準備するんですか?」
「この間のゲート内で水が苦手なのが露見したので、パートナー持ちの人を対象にプールで訓練するんです」
サーシャが説明するとオルネアが一花に声をかけた。
「よかったら、一花ちゃんも一緒にやる? 橘さんと玲央くんも来るんだよ。伊織も初めてだから参加するって言ってたし」
「いいんですか? 私も参加したいです!」
「あんまり無理するなよ」
アランは一花の体調を心配したが、一花が嬉しそうにしていたので仕方なく了承した。
「なら、そろそろ行きましょう」
サーシャとオルネアと一緒に玄関へ向かった。
「あっ、ちょっと待っててください」
一花はサーシャたちに声をかけると、二人から見えない位置で遅れて見送りに来ようとしていたアランに抱きついた。
「アランさん……」
アランは一花を抱きしめる。
「一花、愛してる」
アランは一花の耳元で囁いた。
一花は少し驚いた顔をしたあと、ニコリと微笑み返す。
「行ってきます」
「無理するなよ!」
三人を見送ると、アランはソファーにどさっと座った。
大きなため息を吐いた。
「俺は何言ってんだ……」
一花ちゃんは黒川のものだと分かっているのに、衝動が抑えきれなかった。
アランは一人天井を見つめていた。
一方、一花はアランの部屋を出ると、支度をするためサーシャたちと別れた。
自分の部屋に戻る前に、ヒロの部屋のチャイムを鳴らした。
するとすぐにガチャっと扉が開いた。
「一花! とりあえず入れ、そこで待ってろ」
ヒロに促され玄関の中に入ると、ヒロがぬいぐるみを持ってきてくれた。
「心配かけてすみませんでした……」
一花は目を伏せて謝った。
「別にアランさんといてもいいけどさ、また何かあったのか心配するだろ」
ヒロは強い口調で一花に話した。
「すみません……」
一花が反省していると分かると、ヒロは優しく一花を抱きしめる。
「無事ならいい。心配かけんな」
ヒロは一花の頭を撫でた。
「あっ、そうだ。クロはサーシャが連れていったから、あとでお礼言っとけよ」
「はい……」
一花はペコリと頭を下げると、置きっぱなしになっていたサンダルを持ってヒロの部屋を出て、自分の部屋に戻った。
時計に目を向ける。
「急がなくちゃ」
一花は急いで支度を済ませ、地下のプールへ向かった。




