76話
ルーフェスの事務所には一花、サーシャ、レイの三人がいた。
一花とサーシャは書類仕事をしており、レイはソファーに座ってテレビを見ていた。
しばらくするとガチャっとドアが開き、アランとヒロが事務所へ帰ってきた。
「お帰りなさい」
一花が声をかけるとアランが微笑んだ。
「ただいま。皆に会わせたいやつを連れてきたんだ」
アランがそう告げると、ヒロの後ろからもう一人の人物が姿を現した。
「お疲れ様です……」
伊織は申し訳なさそうに頭を下げる。
伊織の姿を見た三人は一瞬固まった。
「え……伊織……?」
レイが驚いたように声を漏らす。
「どうしてここに……?」
サーシャも戸惑ったように伊織を見る。
一花は何も言えず、ただ伊織の姿を見つめていた。
そんな三人の反応を見てアランが苦笑する。
「今日からルーフェス所属となった伊織だ」
アランの言葉に三人は驚きを隠せなかった。
「まあ、いろいろあったが管理局から契約解除され、罪人には変わりない。位置情報装置の足輪を外すことはできないし、大丈夫だろうと思って預かることにした」
アランから説明を受けても、気まずい空気は変わらなかった。
伊織は三人の様子を見ながら一歩前へ出る。
「伊織大和です。Aランクエスパーです。よろしくお願いします」
伊織は受け入れてもらおうと誠心誠意、深く頭を下げた。
そんな伊織に声をかけたのは一花だった。
「伊織さん、この間は命を助けていただいてありがとうございました」
伊織が顔を上げると一花は優しく微笑んだ。
レイとサーシャも、一花が受け入れるならと伊織に声をかける。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
「少しずつ慣れていけばいいだろ。まずは部屋だな。今はどこが空いてんだ?」
アランがサーシャに尋ねる。
「今は六階が私一人なので、そこでどうですか?」
「六階だな。部屋に案内する。ついて来い」
そう言うと、アランと伊織は部屋を見に行った。
二人の姿が見えなくなるとレイがヒロへ詰め寄る。
「おい、ヒロ! なにがどうなってるんだよ」
「俺も聞いた時は止めようとしたよ。でも、アランさんと黒川さんの二人の事情もあるみたいでさ。アランさんからそう言われたら受け入れるしかないだろ」
「そうかもしれねーけどさ……」
レイはまだ納得いかない表情を浮かべていた。
「彼がどういう経緯で魔物に取り憑かれていたのかは分かりませんが、目を覚ましたあと、必死に一花ちゃんを助けてくれた姿は嘘じゃないんじゃないですか? そうでなければ、アランさんが責任を持って引き取らないですよ」
「確かに……」
サーシャの言葉にレイは渋々ながらも納得した。
「あの……」
一花の声に三人が顔を向ける。
「伊織さんって今日からここで暮らすんですかね……。部屋には何もないですし、せっかくなので今日は皆でご飯食べませんか? 少しは打ち解けられるんじゃないかと思って……」
一花の言葉に三人はふっと笑顔になった。
「それもそうだな。なら皆が集まるっていったらヒロの部屋だな」
「いいけど。いつも俺の部屋だな……」
ヒロは面倒そうにため息を吐いた。
「時間もないので買い出しに行ってきますね」
サーシャが出かけようと席を立つ。
「私もお手伝いします!」
「ありがとうございます」
サーシャは一花にニコッと微笑んだ。
「俺も行ったほうがいいか?」
レイが尋ねる。
「二人で大丈夫です。一花ちゃんとの時間ですから」
「……。分かったよ」
「では行ってきますね。アランさんが戻ってきたら伝えておいてくださいよ」
「はい、はい」
サーシャと一花は事務所を出ると一階の駐車場に向かった。
マンションの裏手にある駐車場には、乗用車が三台とバイクが五台停められている。
二人はその中の乗用車に乗り込んだ。
「サーシャさん、この車とバイクってどなたのなんですか?」
一花は以前から不思議に思っていたことを尋ねた。
「この車とバンタイプの車、それからバイク五台はルーフェスの所有なので、免許証があれば誰が乗っても大丈夫なんですよ」
「そうなんですね」
一花は駐車場の端に停められている大型のSUV車へ目を向けた。
「あの車は?」
「あれはアランさんの私物車です」
「アランさんって運転するんですか?」
「昔はよく一人でドライブに行ってたんですけどね……。最近はほとんど見ませんね」
「そうなんですね……」
一花にはアランが自分で車を運転し、一人でドライブに出かける姿があまり想像できなかった。
そんな話をしながら、二人を乗せた車は駐車場を出発した。
二人はスーパーへ向かい、皆で食べるおつまみや飲み物など、いろいろな物を買い込んだ。
「いっぱい買いましたね」
「あの人たちは大量に飲みますからね。このくらい買っておけば大丈夫でしょう」
サーシャはそう言いながら、買った荷物を車へ積み込んでいく。
二人で荷物を積み終えカートを戻しに行った帰り、一花は近くのフードカーに目を向けた。
「何か飲みますか?」
「いえ」
一花は咄嗟に答えた。
「ちょっと休憩して何か買いましょう。何がいいですか?」
サーシャに促され、一花はメニューへ目を向ける。
「いちごミルク……」
「いちごミルク一つと、アイスコーヒー一つください」
サーシャが注文し、二人分のドリンクを買ってくれた。
二人は買ったドリンクを持って車へ戻る。
「美味しいですか?」
「はい」
一花は嬉しそうにいちごミルクを飲んでいる。
そんな一花の様子をサーシャは優しい表情で見つめていた。
サーシャは自然に一花の頭へ手を伸ばし、優しく撫でた。
それから携帯を取り出すとヒロへ連絡を入れる。
「さぁ、帰りましょう」
二人が事務所の駐車場へ戻ると、ヒロ、レイ、伊織が手伝うために降りてきた。
「おかえり」
「戻りました」
皆で買ってきた荷物を手分けして運び、ヒロの部屋へ持ち込む。
「あれ? 皆さん部屋着ですか?」
一花が三人の姿を見て尋ねる。
「さっきシャワー浴びたんだよ。もう今日は仕事しないし、ゆっくり飲もうと思って」
ヒロがそう答える。
「そうなんですね」
一花は頷くと、サーシャと顔を見合わせた。
「なら私たちも一度部屋に戻りましょうか」
「はい」
サーシャと一花も一度自分の部屋に戻り、シャワーを浴びて楽な部屋着に着替えてから合流した。




