75話
アランとヒロは午前中から管理局の黒川の執務室へ来ていた。
「愛菜ちゃんの容態は?」
アランが黒川に尋ねる。
「意識が戻らず眠ったままだ。医師によれば、目覚める可能性は低いらしい。今は医療刑務所に移した」
「そうか……。伊織はどうした?」
「彼はあれから、我々の尋問にもきちんと答えた。操られていたとしても罪は重い。エスパーとしての管理局との契約は解除され、終身投獄になるだろう」
「そうだよな……」
黒川の説明を聞き、アランは一瞬考え込んだ。
ヒロも難しい顔をして二人の会話を聞いている。
「黒川、一つ提案したいことがある」
アランは真剣な面持ちで黒川を見た。
「なんだ?」
「伊織の処遇なんだが、うちのルーフェスで預かれないだろうか」
「どういうことだ?」
「確かに伊織のしたことは許されることじゃない。だが、やつは他人の能力を自分の力に変えられる、数少ない能力者だ」
「アランさん! それは無茶じゃないですか」
ヒロは焦ったようにアランを止めようとする。
「何かあれば責任は俺が取る」
アランのその言葉に、黒川は黙って考え込んだ。
アランが伊織をルーフェスで預かろうとしている理由はそれだけではなかった。
伊織をこのまま終身投獄にすれば、管理局としても上層部への説明や処遇の判断など、黒川が背負うものは増えていく。
ならば、自分が責任を負って伊織を引き取ればいい。
一花を助けたことも含め、伊織がやり直す機会を与えられるなら、それが一番いい。
黒川の負担を少しでも減らすためにも、アランはそう考えていた。
やがて黒川はソファーから立ち上がり、執務机まで歩くと受話器を手に取った。
「橘か。伊織を連れてきてくれ」
そう告げると、黒川は電話を切った。
「伊織を連れてくる。本人と話してみてくれ」
「分かった」
しばらくして、部屋にノックの音が響いた。
「失礼いたします」
橘の挨拶とともに、伊織が看守に連れられて入ってきた。
伊織の手首には能力を使えないようにする手錠がかけられ、首には爆薬の入った首輪が付けられていた。
伊織はアランと目が合うと頭を下げた。
「先日はすみませんでした……。彼女は……一花ちゃんは大丈夫ですか?」
「彼女なら今は回復したよ。君のおかげでな」
「そうですか。それなら良かったです」
伊織はそれだけ聞くと諦めたように顔を伏せた。
アランはそんな伊織をじっと見つめる。
「なぁ、伊織。うちのメンバーにならないか?」
アランが尋ねると、伊織は顔を上げ、驚いた表情を浮かべた。
「えっ……。俺は終身投獄されるんじゃ……」
「お前のやったことは許されることではない。だが、操られていたということを加味して、管理局からの永久追放とし、うちで預かろうと思うんだが、どうだ?」
伊織は信じられないという顔をして、ヒロと黒川にも目を向けた。
ヒロは諦めたような表情を浮かべている。
黒川は黙って様子を伺っていた。
「もう一度……もう一度やり直せるなら……機会をください。お願いします」
伊織は涙を流しながら、深く頭を下げた。
アランは黒川に目を向ける。
すると黒川は伊織へ告げた。
「今をもって、伊織大和。お前を管理局から永久追放とする。そして、その身柄はアラン・シードが責任を取り、預かることとする。管理局からは位置情報装置の足輪を付けさせてもらう。これは外そうとすれば爆発する。心に留めておけ」
「ありがとうございます……」
伊織は黒川にも涙を流しながら頭を下げた。
「伊織、よろしくな」
アランは伊織の肩をぽんっと叩いた。
「よろしくお願いします」
それから伊織の手錠と首輪は外され、新たに足輪を装着された。
「ゲートから出てきてから、シャワー浴びてないだろ。入って身なりを整えてこい」
アランに言われ、伊織は橘と看守に連れられてシャワー室へ向かった。
三人の姿を見送ると、アランは黒川へ向き直る。
「黒川、無理言って悪かったな。ありがとな」
「何かあれば、すぐに言ってくれ。力になる」
黒川は静かにそう告げた。
アランが何を考えてこの提案をしたのか、黒川はちゃんと理解していた。
伊織をルーフェスで預かれば、伊織自身にやり直す機会を与えられる。
そして同時に、伊織の処遇について上層部から自分に向けられる負担も減る。
今回の件で愛菜のことも含め、黒川自身が判断し謝罪しなければならないことが多すぎた。
だからこそ、アランは自分が責任を引き受けると言ったのだ。
「……お前は昔から変わらないな」
黒川がぽつりと呟く。
「ん?」
「自分が背負えば済むことなら、何も言わずに背負おうとするところだ」
アランは少しだけ笑った。
「お互い様だろ」
「そうだな」
黒川も小さく笑う。
「……ありがとう、アラン」
黒川が静かに告げる。
「礼はそうだな……。たまには旅行に行くのに付き合え!そしたら許してやるよ」
アランはいたずらそうに笑った。
「考えておく」
黒川も笑みを浮かべていた。
「さて、伊織が戻ってくる前に仕事片付けるか。ヒロ、持ってきた書類を出してくれ」
「はい」
ヒロは空間ポーチの中から書類を取り出し、黒川の前に差し出した。
黒川は書類を受け取り内容を確認する。
その間、アランとヒロはソファーに腰かけ、雑談をしながら伊織を待っていた。
しばらくして、部屋のドアがノックされた。
「失礼します。戻りました」
ドアが開き、橘に連れられた伊織が入ってくる。
髭を剃り、服も着替えていた。
ウェーブのかかった髪は後ろで一つに結ばれ、前髪は左右に分けられて頬にかかっている。
服は大きめの黒Tシャツに、スウェットパンツを履いていた。
「うちのレイに負けないくらい男前だな」
アランに言われると、伊織は申し訳なさそうに笑った。
「伊織も来たから、そろそろ帰るわ」
アランとヒロがソファーから立ち上がり、出口へ向かう。
「お疲れ!」
「ああ。あっ、アラン。例の件で来週ルーフェスの事務所に行くから、よろしくな」
「そうだったな。待ってるよ」
アラン、ヒロ、伊織の三人は執務室を後にした。




