74話
ルーフェスに戻ってきてから二週間が経った。
一花の体調もすっかり良くなり、今は事務所で書類仕事をしていた。
事務所にいるのは一花、サーシャ、レイの三人。
クロはソファーの上で丸くなり、気持ちよさそうに眠っている。
「管理局に提出する書類は終わりましたか?」
サーシャが一花に声をかける。
「はい。終わりました」
一花は作成した書類をまとめ、サーシャへ手渡した。
「ありがとうございます」
サーシャが書類を受け取るとレイが一花へ声をかけた。
「一花ちゃんの仕事、それで終わり?」
「そうですね。一旦、休憩でもいいですね」
「なら俺、コンビニ行くから一花ちゃんも一緒に行かない? 散歩だと思ってさ」
「私も行きます」
レイと一花は椅子から立ち上がる。
「行ってきます」
「気をつけてね。レイ、一花ちゃんに無理させないように」
「分かってるって」
レイは軽く返事をすると一花と一緒に事務所を出た。
外へ出ると春風が強く吹いていた。
日差しは暖かいものの、風はまだ少し冷たい。
「一花ちゃん、寒くない?」
「大丈夫です」
一花はニコッと微笑んでレイを見上げると、レイは一花の手をそっと握った。
レイは一花の歩幅に合わせながら、ゆっくりと歩いていく。
その自然な優しさに一花は小さく微笑んだ。
二人は近くのコンビニへ向かった。
店内に入ると、一花はアイスコーナーへ目を向ける。
その視線に気づいたレイが笑った。
「アイス食べたい?」
「食べたいです」
「好きなの選んでいいよ」
一花は嬉しそうに二つ選びレイに手渡した。
レイはアイスクリームと煙草を購入し、二人は店を出た。
歩きながらそれぞれのアイスを食べる。
レイはチョコレート味。
一花はバニラアイス。
「美味しい?」
レイが聞くと、一花は食べていたアイスを差し出した。
「美味しいね。これも食べてみて」
一花がレイのアイスを一口食べる。
「濃厚で美味しい!」
「うまいよな」
二人は談笑しながらアイスを食べ終え、そのままゆっくりと歩いていく。
しばらくすると、一花が海のほうへ目を向けた。
「レイさん、少しだけ海見て帰ってもいいですか?」
「いいよ」
二人は事務所近くの海岸へ降りていく。
海から吹く風はまだ冷たく、ざぶんと音を立てて波が寄せては静かに引いていく。
「冷えるから、こっちおいで」
レイはその場に座り込むと足の間に一花を座らせ、後ろから優しく抱きしめた。
「寒くない?」
「はい」
背中から伝わるレイの温もりに一花は小さく息を吐く。
以前なら、こうして男性に抱きしめられることにもっと戸惑っていただろう。
けれど、一花は少しずつ皆の優しさに慣れてきていた。
しばらく波を眺めていると、一花がふと思い出したように尋ねる。
「今日、他の皆さんはどうしてるんですかね」
「あー、アランさんとヒロは管理局に行ってて、湊とオルンはデートじゃなかったか?」
「そうなんですね……」
二人はそれ以上言葉を交わさず、しばらく波の音を聞いていた。
穏やかな時間が流れていく。
「一花」
レイが呼ぶと一花が振り向いた。
レイは一花の頬に手を当て唇に口づけた。
一花の肩がビクッとしたが静かにレイを受け入れた。
レイの舌がねっとりと一花の舌に絡み付く。
一花はレイの腕をぎゅっと握った。
「んっ……ん……レイ……さ……」
レイはゆっくり唇を離した。
「気持ち良かった?」
レイがいたずらっぽく聞くと一花は恥ずかしくなり顔を赤くした。
「このまま俺の部屋に連れていきたいけど我慢だな。だからもう少しだけ」
そう言うと、レイは再び一花の唇に口づけた。
「ん……んっ……」
一花の小さな声が漏れる。
レイの抱きしめる力が強くなる。
一花はだんだん何も考えられなくなった。
波音に掻き消され思考回路まで働かなくなっていく。
レイはゆっくり唇を離し一花を見ると目がとろんとしていた。
その反応に思わずため息が出る。
「はーーー。かわいすぎる」
レイは一花をぎゅっと抱きしめ優しく頭を撫でた。
二人の時間は静かに過ぎていった。
しばらくして、二人はルーフェスの事務所へ戻った。
「ただいま」
レイがサーシャに声をかける。
「戻りました」
一花も声をかける。
「お帰りなさい」
サーシャが二人を迎えると一花のもとへ近づいてきた。
「外、寒かったんじゃないですか? 頬が冷たいですよ」
サーシャは心配そうに一花の頬を両手で包んだ。
「サーシャさんの手、温かいですね」
一花がふわっと微笑む。
「体調を崩しやすいので、気をつけてください」
「はい」
サーシャの優しさに一花はほっとした。
その後、二人は残りの書類仕事を片付けていった。
しばらくするとガチャっとドアが開き、アランとヒロが事務所に帰ってきた。
「お帰りなさい」
一花が声をかけるとアランが微笑んだ。
「ただいま。皆に会わせたいやつを連れてきたんだ」
アランがそう告げると、ヒロの後ろからもう一人の人物が姿を現した。




