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波の音が消える前に  作者: 音香(Otoca )


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69話

愛菜を押さえ込んでいたヒロと神崎が突然弾き飛ばされた。


「痛ってぇ……!」


二人は床に身体を打ちつける。


愛菜がゆっくりと立ち上がると俯きながら呟いた。


「邪魔ばっかり……。あんたたちなんて、いなくなればいいのよ」


愛菜の瞳が赤く光り、何事もなかったかのように龍のもとへ歩いていく。


龍が低い唸り声を上げた。


「グルルル……」


そして大きく翼を広げる。


バサッ、バサッ!


巨大な翼が風を巻き起こす。


二体の龍は黒川たちへ向かって飛びかかってきた。


龍が大きく口を開く。


ゴオオオオッ!


口から吐き出された炎が神殿内を焼き尽くすように迫ってくる。


黒川は咄嗟に一花を抱き上げ、炎の届かない端へ瞬間移動した。


オルネアと玲央も橘とサーシャに連れられて奥へ避難していた。


「彼女を頼む」


黒川は一花をサーシャたちへ託した。


「はい」


サーシャが一花を支える。


橘は両手を前へ突き出し防御膜を張った。


次の瞬間、左の一体の龍が橘たちめがけて炎を吐き出した。


ゴオオオオッ!


「くっ……!」


橘が力を込める。


炎が防御膜へ激しくぶつかり、神殿内に凄まじい熱気が広がった。


神崎が手を掲げる。


バチバチッ!ドォンッ!


凄まじい雷が二体の龍めがけて落ちる。


雷が龍の身体を直撃するが龍は何事もなかったかのように飛んでいた。


「効かない……」


神崎が目を見開く。


その隣からレイが飛び出した。


「だったら直接やる!」


レイは龍の背後へ回り込み、手を掲げる。


力を込めて持ち上げると、そのまま勢いよく振り下ろした。


ドォォン!


龍の身体が激しく地面に叩きつけられる。


床が大きく陥没し、周囲に亀裂が走った。


「やったか?」


ガキ……ガキッ……


龍がゆっくりと身体を起こす。


「嘘だろ……」


龍は何事もなかったように翼を広げた。


そして大きく口を開く。


ゴオオオオッ!


凄まじい炎がレイたちに向かって放たれた。


「うわっ!」


「危ねぇ!」


二人は左右へ飛び退き、炎をかわす。


「銅だから攻撃が効かねー!」


レイが叫ぶ。


「俺と湊は魔物じゃないと戦えねぇんだけど……」


ヒロが申し訳なさそうに声をかける。


「どうにか中から出さないと」


湊も苛立ったように龍を見上げる。


その時、アランの影が床を這うように伸びていった。


影が龍の身体へ絡みつくとアランが力を込める。


ギリギリギリ……


影が龍の身体を締め上げる。


ブチッ!


龍が力任せに身体を動かすと影が引き裂かれた。


アランはすぐさま再度龍に手を向ける。


神殿内に激しい風が巻き起こった。


暴風が龍へ直撃し、龍の巨体が大きく弾き飛ばされ、壁へ激突した。


ドォォォン!


しかし、龍はゆっくりと壁から剥がれ出てきた。


傷ひとつ、ついていない。


「あはははは!」


愛菜が突然、高笑いを上げると二体の龍はゆっくりと台座へ戻り、赤く光る瞳を一行へ向ける。


愛菜の笑い声が途中で低く変わった。


「気づいてるか?」


一行が愛菜を見る。


「我を殺せば、この女も消える」


「どういうことだ」


アランが問いかける。


「この女が望んだことだ。そこの男に復讐するんだと」


アランは黒川へ視線を向けた。


「おい、黒川! どうにかしろよ!」


その声に黒川が愛菜に目を向ける。


愛菜がゆっくりと黒川へ歩いていく。


「あなたが私のものになるなら、今すぐ皆をゲートから出してあげる」


黒川の瞳が漆黒の光を纏う。


「お前を手元に置くつもりはない」


「残念……」


愛菜が悲しそうに笑う。


「もっと話が分かると思ったのに……」


そして冷たく呟いた。


「一緒に死ねばいい」


黒川の表情が険しくなり、片手を上げ愛菜へ向けて力を放とうとした、その時。



「だめ……。黒川さん、待ってください!」


一花の声が響いた。


黒川が力を止める。


「一花ちゃん!」


咄嗟にサーシャが止めようと腕を引っ張ったが一花は腕を振り払った。


一花は橘の防御膜から出てフラフラと黒川たちに向かって歩く。


すると伊織がサーシャに目配せしてから一花の肩を支え寄り添った。


黒川が振り向くと、一花は伊織に支えられながらこちらへ歩いてきていた。


一花の顔は血の気がなく真っ青だった。


「愛菜さんを……助けてあげてください」


「こいつはもう、元の彼女じゃない」


黒川は愛菜を見る。


「そんなことないです!」


一花は首を横に振った。


「愛菜さんは私に……『助けて……逃げて……』って言ってくれたんです」


一花は息が苦しそうに続ける。


「彼女は……まだいます」


黒川は黙って愛菜を見つめると愛菜は黒川を睨み付けた。


その瞳の奥に、一瞬だけ苦しそうにこちらを見つめる彼女自身の姿が見えた気がした。


黒川は纏っていた威圧感をゆっくりと消した。


そして、愛菜へ手を伸ばす。


「愛菜……」


愛菜の瞳が揺れる。


黒川はそのまま愛菜を抱きしめた。


「戻って来い」


愛菜は震える手を黒川の背中へ回し、服をぎゅっと握りしめる。


「誠一……」


涙を浮かべながら微笑んだ。


「……ありがとう」


愛菜は黒川からゆっくりと身体を離すと、自分自身を抱きしめるように両腕を回した。


身体の中にいる魔物へ向けてガイディングの力を強く放った。


「やめろ!」


身体の奥から別の声が響く。


「何してるんだ! お前が望んだことだろ!」


「私は……」


愛菜の身体が震える。


「私は、こんなこと望んでない!」


愛菜は自分自身へ向けるように、ガイディングの力を強く放った。


「ぐっ……!」


しかし、身体を乗っ取られている愛菜には魔物を追い出すほどの力が残っていなかった。


「やめろ! やめろ!」


声だけが響き続ける。


その時、一花が愛菜へ駆け寄った。


「おい!」


伊織が慌てて呼ぶ。


黒川も止めようと手を伸ばす。


しかし、一花が愛菜を抱きしめる方が早かった。


「愛菜さん……ごめんなさい」


一花の声が震える。


「私のせいで……本当にごめんなさい」


一花は愛菜の身体へそっとガイディングの力を流し込んだ。


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