66話
アランと一花は黒川の気配を追いながら洞窟を進み、やがて階段へと辿り着いた。
アランが階段の先を見下ろす。
「この下だな」
そう言って階段を下りようとした時だった。
「ニャー!」
クロが突然、声を上げた。
アランと一花は足を止めクロへ目を向ける。
「クロ? どうしたの?」
クロは辺りをキョロキョロと見回した。
「どうしたんだ?」
アランが尋ねる。
「ニャッ、ニャッ」
クロは小さく鳴きながら来た道を少し戻っていく。
アランと一花は顔を見合わせ、その後を追った。
少し進んだところでクロがぴたりと足を止め、目の前の壁を見上げた。
『ここの壁に扉がある。探せ』
「こんなところに?」
一花は壁を見上げる。
そこにあるのは、ただのゴツゴツとした岩肌だけだった。
「初めて声が聞こえたな」
アランが少し驚いたようにクロを見る。
「アランさんにもクロの声、聞こえましたか?」
「ああ、驚いたな。神獣だとは聞いたが、ずっと普通の猫だったしな……」
アランはしゃがみ込むとクロの背中をそっと撫でた。
『早く扉を探せ。仲間がやられるぞ』
クロの言葉を聞いた瞬間、アランの表情が険しくなる。
一花は手で壁を触り、周囲を探った。
「クロ……何もないよ……」
「何か条件があるんじゃないか?」
アランは壁を見つめ、少し考え込む。
そして何かに気づいたように壁に手を当て、微弱な力を流す。
ギギギギ――
岩が擦れるような音が響き、目の前の壁がゆっくりと動き始めた。
隠されていた扉が姿を現す。
「すごい……」
一花が驚きの声を上げる。
「開いたな。本当に扉があるとは……」
アランは警戒しながら、ゆっくりと扉の中を覗き込んだ。
『ちょっと待て!』
クロの声に二人が振り返る。
『中から邪悪な力を感じる。お前たちの力だけでは、己の力を吸い取られて戦えないだろ』
「何か方法があるのか?」
アランがクロを見つめるとクロはアランを見上げた。
『お前、しゃがめ』
アランは言われた通り、その場にしゃがみ込む。
するとクロはアランの両手に自分の前足をそっと重ねた。
その瞬間、クロの瞳の縁が金色の光を帯びる。
淡い光がクロの身体から広がり、アランの身体を包み込んでいく。
アランの全身を薄い膜のようなものが覆った。
「これは……」
『ある程度の攻撃なら跳ね返せる。自身の力も吸い取られない。ただし、もつのは三十分程度だ。気をつけろ』
「すごいな……」
『気配も感じ取られないよう消しておいた』
アランは自分の身体を確認しながら、ゆっくりと立ち上がった。
クロの力によって身体の周囲を覆う薄い膜が揺らめく。
「これなら戦える」
アランが扉の先へ視線を向ける。
一花もその隣に並んだ。
「行こう」
「はい」
二人は警戒しながら静かに扉の中へと入っていった。
中へ入ると、少し進んだところで階段が現れた。
二人は足音を立てないように慎重に階段を下りていく。
やがて階段を下りきると、そこには部屋のような広い空間があった。
壁際には食料や武器が置かれている。
アランと一花は警戒しながら辺りを見回した。
その時。
「はははははっ!」
男の高笑いがどこからともなく聞こえてきた。
二人は顔を見合わせる。
声のする方へ向かい、そっと中を覗き込んだ。
男の姿は見えないが、首に糸を巻きつけられ苦しんでいる仲間たちの姿が見えた。
「……っ」
一花は口元に手を当て小さく震える。
アランはすぐに飛び出すことが賢明ではないと判断し、物陰から静かに様子を窺った。
ーーーー
伊織はゆっくりと視線を動かし、オルネアと玲央へ目を向けた。
玲央はオルネアを庇うように前へ出る。
その二人を守るように橘は苦しみながらも防御膜を張った。
しかし力を使った瞬間、橘の身体からさらに力を吸い取られていく。
「……っ、れ…お……」
限界を迎えると膝から崩れ落ち、その場に倒れた。
「悠!」
玲央が心配そうに呼ぶ。
伊織はそんな二人を見ながらゆっくりと近づいていく。
「君たちもSランクなんだよね」
口元に笑みを浮かべる。
「おとなしく俺のパートナーになれば痛い思いはさせないよ」
「お前のパートナーにはならない!」
玲央が叫ぶ。
伊織の顔から笑みが消えた。
「なら、強制的に従わせるしかないな」
伊織が手をかざすと、エスパーたちの身体から力が吸い上げられていく。
「ぐっ……!」
「……っ、はぁ……!」
力を奪われるたびに、エスパーたちの体内へ毒素が蓄積していく。
身体は限界に近づき意識さえも徐々に薄れていく。
「やめて!」
オルネアが叫ぶ。
震える手を胸元で握りしめ、涙を浮かべながら訴える。
「お願い……やめて……。みんな死んじゃう……」
伊織はオルネアを見つめた。
「そうか。だったらこっちに来い」
手を差し出す。
オルネアは涙目のまま、ゆっくりと一歩前へ踏み出した。
「ダメですよ! オルネアさん!」
玲央が慌てて止める。
オルネアは玲央に腕を掴まれて足を止めた。
「決めるのは君たちだ」
伊織は二人を見ながら冷たく笑った。
「うちのガイドに手出すな」
背後から低い声が響いた。
伊織がハッと振り返るとそこにはアランが立っていた。
クロの力によって気配を消していたため、伊織に気づかれることなく背後まで近づくことができたのだ。
伊織は咄嗟に瞬間移動でアランから距離をとった。
「あいつは何してるんだ」
伊織は苛立ちを露わにしながら神座へ目を向けた。
「あー、愛菜ちゃんなら寝てもらってるよ」
愛菜は意識を失い、ぐったりと身体を預け座らされていた。
「くそっ。役に立たねーな」
伊織が舌打ちする。
「お前の相手は俺だ」
アランが伊織を睨みつける。
伊織は口元を歪めながら手をかざすと、激しい炎がアランへ向かって放たれる。
アランは身体を身軽に逸らして避ける。
炎は背後の壁を焼き、神殿内に熱が広がった。
すぐさまアランが手をかざす。
床を這う黒い影が伊織へ向かって一気に伸びていく。
影は刃物のように鋭く尖ると伊織の足に突き刺さる。
「……ゔっ」
伊織は痛みに顔を歪めた。
突き刺さった影を掴み、炎で焼き切るとアランへ向かって炎を放った。
炎と影がぶつかり合い神殿内に轟音が響く。
アランは一瞬、伊織の手に集まる炎を見た。
(あれは……レイの力)
吸い取った力を自分のものとして使っていることに気づいた。
アランは怒りを抑え、さらに影を広げた。
二人の攻防はしばらく続いた。




