65話
神殿の中にはいくつもの銅像が並んでいた。
一番奥には数段の階段があり、その上に二匹の龍の銅像が左右に鎮座している。
そして二匹の龍に挟まれるようにして、ひとつの神座が置かれていた。
階段の下には、剣を手にした兵士の銅像が数十体並んでいる。
「なんか……気持ち悪い雰囲気だね……」
オルネアが周囲を見回しながら呟いた。
「どうなってるんだ?」
レイも警戒しながら辺りを見渡す。
「なんだよ、ここ……」
湊が眉を寄せる。
「銅像ばかりですね……」
サーシャが呟いた。
その時、兵士の銅像の目が一斉に光を放った。
「おい!こいつら、目が光ってるぞ!」
レイが声を上げる。
ゴゴゴゴゴ――。
地響きとともに、兵士たちが一斉に剣を構えた。
「来るぞ!」
黒川の声と同時に、兵士たちが一斉に襲いかかってくる。
エスパーたちは散開し、それぞれ迎え撃つ。
ヒロは瞬間移動を繰り返し、兵士たちの攻撃を紙一重でかわし、兵士の背後へ移動すると別の兵士が振り下ろした剣を利用して、互いをぶつけ合わせる。
ガキィンッ!
銅の身体が大きく揺らぎ、二体の兵士が床へ倒れた。
だが。
ギギギ……。
ゆっくりと兵士たちが起き上がる。
「また立ったぞ!」
レイが声を上げる。
レイは両手を前へ突き出し、兵士の身体を宙へ浮かせた。
そのまま勢いよく床へ叩きつける。
ドォン!
銅の身体に亀裂が走る。
しかし、兵士は何度でも立ち上がった。
「くそっ!」
湊も能力で兵士たちの感覚を狂わせ、互いの位置を見失わせる。
兵士同士が衝突し、数体が床へ倒れ込む。
だが、それでも立ち上がってくる。
神崎は雷を放ち、兵士の動きを止める。
橘は迫ってきた兵士の足元を凍らせ、その動きを封じた。
「玲央、オルネアさんから離れないで!」
サーシャが二人の前に立ち、迫ってくる兵士を警戒する。
橘が次々と兵士の足元を凍らせていく。
しかし、氷を砕きながら兵士たちは再び動き出した。
「……っ!」
戦えば戦うほど、身体から力が抜かれていく。
先ほどまでとは明らかに違う。
能力を使うたびに、体内へ毒素が溜まっていく速度が早まっていた。
「……はぁ……はぁ……」
皆が荒い息を吐く。
額には汗が滲み、身体は重くなっていく。
それでも兵士たちは、倒れても倒れても立ち上がってくる。
「こいつら……どうやって倒すんだよ」
レイが苦しそうに呟いた。
その時、黒川が一歩前へ出た。
「下がれ」
皆が黒川を見る。
黒川はゆっくりと手をかざした。
次の瞬間、一斉に兵士たちの身体が崩れ始める。
数十体の兵士が、まるで何もなかったかのように灰へと変わっていく。
神殿の中に灰が舞い上がった。
すべての兵士が消え、静寂が戻る。
だが黒川の身体が大きく揺れた。
「……っ」
膝から崩れ落ちる。
「黒川さん!」
橘とヒロが駆け寄った。
黒川は片手を床につき、必死に身体を支えていた。
十分に浄化されていない身体で、強い力を一気に使った。
その反動が押し寄せる。
黒川の目は漆黒の光が宿っていた。
慌てて玲央とオルネアが黒川のもとへ駆け寄ろうとする。
「来るな!」
滅多に怒鳴ることのない黒川が鋭い声を上げた。
二人が足を止める。
「今近づいたら……君たちを傷つけてしまう」
黒川は苦しそうに息をしながら告げる。
「でも……」
オルネアが心配そうに声を漏らす。
二人をすぐに橘と湊が後ろへ下がらせた。
黒川は苦しそうに顔を上げる。
「おい、お前。何が狙いだ」
「……え?」
突然の黒川の言葉に皆は何を言い出したのか分からないという表情を浮かべていた。
「お前だよ。伊織」
黒川は鋭い視線を伊織へ向けた。
「俺ですか!?俺は何も……」
伊織は驚いたように声を上げる。
「その演技やめろ」
黒川が遮った。
「お前、俺たちが合流した時『あと二人は?』って聞いただろ」
伊織の表情が僅かに変わる。
「俺たちはあの時、全員の名前を口にしていない。なのになぜ『あと二人』いると知っていた?」
その言葉に皆が固まった。
「それは……彼女から『アランさんを待ちたい』って聞いていたんですよ」
伊織が答える。
「確かにアランを待とうって言ったけど……、誰がアランかは分からないでしょ」
オルネアが反論する。
続いて、玲央も口を開いた。
「俺たちが仲間のことを聞いた時、伊織さんは『やられた』って説明しましたよね」
伊織は黙ったまま玲央を見る。
「なのに黒川さんには『そのあとはバラバラになったので詳しくは分からない』って言ってましたよね。それに……仲間のことを話すなら、普通は『彼ら』なんて言い方はしないですよ」
玲央の言葉に皆が伊織を見つめる。
それまで困ったような表情を浮かべていた伊織の雰囲気が変わった。
伊織はゆっくりと首を回す。
ゴキッ、ゴキッ。
鈍い音が神殿内に響いた。
そしてゆっくりと顔を上げる。
開かれた瞳が、赤黒い光を放っていた。
「あーあ……めんどくせぇな」
先ほどまでの優しい雰囲気は、跡形もなく消えていた。
「いちいち細けーんだよ」
その声には明らかな威圧感が滲んでいる。
黒川を見下ろすように笑う。
「黒川さんよ。あんたには死んでもらわないと困るんだよ」
「どういうことだ」
伊織は薄く笑った。
「どういうことって。あんた恨まれてるからね」
ちらりとオルネアたちへ視線を向ける。
「女の扱いには気をつけないとな」
伊織は神座のある台座へ向かって歩き始めた。
皆が警戒しながら、その後を目で追う。
伊織が神座の前まで辿り着いたその時、神座の奥から一人の女性が姿を現した。
その姿を見た黒川の目が大きく見開かれる。
「……愛菜」
伊織は神座へ腰を下ろした。
愛菜を抱き寄せると膝の上へ横向きに座らせる。
「彼女が力を貸してくれるって言うんでね」
伊織は愛菜の腰を抱きながら、黒川を見下ろした。
「ガイドの力は俺らにとって必要不可欠ですし、彼女も復讐したいみたいなんで」
愛菜は何も言わず、黒川を見つめている。
「俺を殺してどうする? 他の奴らは関係ないだろ」
「どうするって……決まってるじゃないですか」
伊織は笑った。
「管理局のトップになるんですよ」
その言葉に皆が息を呑む。
「管理局のトップは国の軍事力の全てです。俺はそれが欲しいんですよ」
伊織は神座に座ったまま、愉快そうに笑う。
「そんなことが許されるわけねーだろ」
黙って聞いていたレイが伊織に向かって炎を放った。
だが伊織は慌てることなく片手をかざすとレイの炎が吸い込まれるように消えていった。
「……え?」
レイが目を見開いた瞬間、身体から力が奪われ膝から崩れ落ちる。
「ぐっ……!」
胸元を押さえ、苦しそうに息をする。
伊織はそんなレイを見下ろしながら淡々と告げた。
「無駄なことはやめてください。俺の能力は相手の力を取り入れて己の力に変えることです」
そう言って伊織が再び手をかざす。
次の瞬間、エスパーたちの首に黒い糸が巻き付いた。
「っ……!」
咄嗟に糸を外そうと手をかける。
だが、力を使って防ごうとすれば、その力さえも糸を通して吸い取られていく。
「くっ……!」
「うぅ……っ!」
エスパーたちは苦しそうに顔を歪め、必死に首へ手を伸ばす。
力を使うこともできず、ただ締めつけられる糸に耐え身体に溜まる毒素が増えていく。
「はははははっ!」
伊織の高笑いが広い神殿内に響き渡る。
そして伊織はゆっくりと視線を動かし、オルネアと玲央へ目を向けた。




