62話
エスパーたちは暗闇の中を進んでいた。
「なあ、サーシャの力で他のメンバーを解くことはできないのか?」
レイがサーシャに尋ねる。
「できなくはないですが……本人が拒否反応を起こした場合、どうなるか分かりません。ガイドもいないですし、私も無事ではいられないかもしれないです」
「そうか……」
レイは悔しそうに顔を歪める。
黒川は黙ったまま先頭を歩いていた。
能力により、少し後ろで話していた二人の会話が聞こえてくる。
黒川は立ち止まり皆に声をかけた。
「少し休憩しよう。パートナーがいる者は相手の気配を感じ取れるか試してみてくれ。力が吸われる分、無理はするな」
「「はい」」
湊と橘はそれぞれ周囲へ散らばり、相手の気配を探し始めた。
「俺たちは他に道がないか少し見てきます」
ヒロと神崎が黒川に告げる。
「悪いな。気をつけろよ」
黒川が二人を送り出す。
その頃、レイとサーシャは壁際に腰を下ろし声を潜めて話していた。
そこへ黒川が近づく。
「なぁ、ちょっといいか」
黒川は二人の前にしゃがみ込んだ。
「なんでしょう?」
サーシャが答える。
黒川は自分の手を見つめた。
「俺は……何を忘れたんだ?」
その言葉に二人は目を見開いた。
「違和感を感じますか?」
サーシャが尋ねる。
「少しだが……考えようとすると頭が痛くなる」
「今から話すことを……信じますか?」
「ああ。教えてくれ」
「分かりました」
サーシャはこれまでに起きたことを順番に説明した。
そして、今エスパーたちに何が起きているのかも伝える。
「なるほど……。彼女の記憶だけ書き換えられているのか」
黒川は静かに呟いた。
「今は彼女に対する感情はない。だが……傷つけたのは事実だな」
「そうですね……」
「それにしても、感情や記憶まで操られるとはムカつくな」
その瞬間、黒川の目が漆黒の光を帯びた。
明らかな怒りがその表情に滲む。
「黒川さんがキレてるの初めて見た……」
レイがぼそっと呟いた。
「俺だって人間なんでな。誠実を装うにも疲れんだよ」
そう言うと、黒川は整えていた髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。
それだけで、先ほどまでとは比べものにならないほどの威圧感が増す。
そこへヒロと神崎、湊と橘も戻ってきた。
「黒川さん、なんか怒ってるのか?」
ヒロがレイに尋ねる。
「まぁな……」
「その雰囲気だと黒川さん、アランさんに似てますね」
湊が思ったことを口にする。
「お二人は長年の付き合いですし、息が合うということは……こっちが本性でしょうね」
サーシャが苦笑いを浮かべながら答えた。
すると黒川が振り返る。
「アランと一緒にするな」
黒川はヒロ、湊、神崎、橘へ視線を向け名を呼んだ。
「話がある。何を聞いても受け入れろ。いいな」
名前を呼ばれた四人は顔を見合わせ、静かに頷いた。
黒川は先ほどサーシャから聞いたことを四人に伝えた。
「俺らが……操られてるってことですか?」
ヒロたちは信じられないという顔をしていた。
「確かに……。仲間として一緒にいるのに、一花さんにだけ不快な感情が湧き上がるなんておかしいですよね」
橘は冷静に状況を判断していた。
未だに一花に対する不快な気持ちは消えていない。
それでも黒川から説明を受けたことで、皆その話を受け入れた。
「早く黒幕を見つけないとな」
黒川は暗闇の先を見つめる。
「皆、下がってろ」
全員が黒川から少し離れる。
黒川は一度目を閉じると自身の力を全力で解放した。
周囲に意識を集中させ、あらゆる気配を探る。
皆が息を呑んで見守る。
「……見つけた」
微かに感じる気配。
オルネアと玲央のものだった。
しかしその瞬間、黒川の身体が膝から崩れ落ちた。
「黒川さん!」
橘が慌てて駆け寄り、身体を支える。
「大丈夫ですか?」
黒川は苦しそうに息を吐いた。
「ガイドが見つかれば……それまでの辛抱だ」
そう言って、橘の手を借りながら立ち上がる。
「オルネアと玲央の位置が分かった。だが……側に別の気配も感じた。急ごう」
黒川はそのまま先頭に立ち、歩き始める。
「レイ。この先、コウモリの魔物がいる。一気に焼き払え」
「分かりました!」
先ほどの黒川の姿を見たレイも自身の力を極限まで解放する。
炎が暗闇を駆け抜け、襲いかかってきた魔物たちが一気に消えていく。
一行はさらに奥へ進んだ。
「毒性植物がいる。神崎は電流を。橘は水で押し流し凍らせろ」
黒川の指示に二人が即座に動く。
橘が放った水流に神崎の電流が混ざる。
水と電流が一体となって、行く手を塞ぐ毒性植物を押し流し氷で固めた。
先へ進んでいくと地下へと続く階段が現れた。
黒川は階段の先へ視線を向ける。
「この先にいる」
そう告げると、黒川は迷うことなく階段を降り始めた。
その後を皆が続いていく。




