61話
「オルネアさん! 起きてください」
玲央の声でオルネアは目を覚ました。
ゆっくりと身体を起こすと、自分に掛けられていたひざかけに気づく。
「あれ? これ玲央くんの? ありがとう」
オルネアはひざかけを畳み、玲央へ手渡した。
「いえ」
玲央は受け取ると空間ポーチへしまった。
「起こしてすみません。さっきから妙な気配を感じるんです」
「妙な気配?」
二人は立ち上がり、周囲を警戒する。
「誰かに見られているような気がするんです」
「えっ……。とりあえず、ここから離れよう」
二人はすぐに歩き始めた。
するとオルネアの背中にもゾクリと寒気が走る。
「……っ!」
咄嗟に玲央の服を掴んだ。
玲央はそれに気づき、オルネアの手をそっと握る。
「湊さんに怒られそうですね」
「今は玲央くんだけが頼りだから……ごめんね」
二人は手を繋いだまま洞窟の奥へ進んでいった。
しばらく歩いていると、どこからか唸るような声が聞こえてきた。
「魔物?」
オルネアが不安そうに声を漏らす。
玲央はナイフを手に取り、声のする方へ慎重に向かっていく。
「……はぁ……はぁ……」
近づくにつれ、それが魔物の唸り声ではなく、人間の荒い息のように聞こえてきた。
「誰かいますか?」
玲央がライトで先を照らしながら声をかける。
「……たす……けて……」
微かな声が返ってきた。
「行ってみましょう」
「うん」
二人は声のする方へ進んでいく。
通路の横に人一人が入れるほどの小さな穴が開いていて、そこに男性が座り込んでいた。
「大丈夫ですか?」
玲央とオルネアが駆け寄る。
「……み……ず……」
男性がかすれた声で呟く。
オルネアはすぐに空間ポーチから水のペットボトルを取り出し、蓋を開けて渡した。
「はい!」
男性はオルネアから水を受け取ると一気に飲み干した。
「これで良ければ、どうぞ」
オルネアは続けて栄養バーを渡す。
男性はそれを受け取ると夢中になって食べ始めた。
二人は何も言わず、男性が落ち着くのを待った。
しばらくして、男性の呼吸が少し落ち着いたところで玲央が尋ねる。
「いつからここにいるんですか?」
「……十日前……くらいかな」
その言葉を聞いた瞬間、玲央とオルネアは顔を見合わせた。
この男性は先発でゲートへ入ったエスパーの一人なのだと二人は同時に気づいた。
「俺は管理局所属のエスパー、伊織大和。二人が来てくれて助かった」
「いいえ……」
玲央はそう答えると、そっとオルネアを自身の後ろへ隠した。
伊織は長い髪を後ろで一つに結んで優しげな雰囲気をまとっているが、身体から放たれる気配は威圧的だった。
黒川やアランとはまた違う。
静かなのに、近くにいるだけで空気が重く感じるほどのオーラを放っている。
「二人は……ガイドかな? 仲間のエスパーは?」
「はぐれてしまったんです」
玲央が簡単に事情を説明する。
「俺の仲間も皆やられてしまって……」
伊織は俯くように視線を落とした。
「君たちのチームに同行させてもらえないだろうか」
その言葉に玲央は戸惑った。
けれどガイドだけでは何かあった時に対処できない。
そう考え、玲央は頷いた。
「分かりました」
「ありがとう。助かるよ」
「俺は玲央です。彼女はオルネアさんです」
玲央はなぜか伊織をオルネアに近づけようとはしなかった。
オルネアも軽く会釈をするだけで、それ以上は何も話さない。
三人は連れ立って歩き始めた。
しばらく進むと、地下へと続く階段が現れた。
「階段……」
オルネアが足を止め、暗闇の先を見つめる。
「これ自然にできたものじゃなくない?」
「そうですね……」
玲央は辺りをライトで照らしながら、周囲を見回した。
「でも、他に道はないですね……」
伊織は階段の先へ視線を向け、周囲の気配を探る。
「魔物の気配はない。俺が先に行く。何かあれば二人を守るから安心して」
そう声をかけ、伊織が先頭に立って階段を降りていく。
玲央とオルネアもその後に続いた。
かなり深くまで降りていく。
すると大きな扉が現れた。
「扉……」
オルネアが呟く。
その扉を見つめたまま、少し慌てたように玲央へ声をかけた。
「アランたち待った方がよくない?」
「ですね……」
玲央も扉を見つめる。
「中に入ってもし空間が変わったら、それこそ合流できなくなっても困りますし……」
「ここで待ってれば仲間と会えるのか?」
伊織が尋ねる。
二人は何も言えず言葉を失った。
確証はない。
しかし、この扉を開けて先へ進むことに二人ともなぜか強い不安を感じていた。
「……少し待ってみましょう」
玲央がそう声をかけた。




