↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波の音が消える前に  作者: 音香(Otoca )


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/82

60話

アランは一人暗闇の道を進んでいた。


いくら歩いても終わりが見えてこない。


迂闊に力を使えば、また力を吸い取られ体内に毒素が溜まっていく。


「はぁ……」


アランはため息を吐いた。


ゲートに入ってから、まだ一度もガイディングを受けていない。


先ほどの戦闘でも力を使ったことで、体内にはすでに大量の毒素が溜まっていた。


(このままではまずい。どうしたものか……)


そう思いながら歩いていたその時。


暗闇の先に微かに光るライトの明かりが見えた。


アランは足を止める。


(誰かいる……)


警戒しながらゆっくりと光の方へ近づいていく。


すると聞き覚えのある声が微かに聞こえてきた。


「……どう……し……」


アランは足を速め、その声の方へ向かう。


そして暗闇の先に姿を現した。


「きゃっ!」


突然現れた人影に相手が驚いた声を上げる。


「君か……」


アランが見つけたのは一花だった。


「アランさん!」


一花も驚いたようにアランを見ていた。


「オルンと玲央はどうした?」


「オルンさんと玲央さんは一緒じゃないです……」


「なら二人も一人の可能性があるということか」


アランは険しい表情で呟いた。


「あの……」


「なんだ」


アランが冷たい目を一花へ向ける。


「……いえ……すっ、すみません……」


その威圧感に一花は言葉を飲み込んだ。


アランは呆れたように、はぁとため息を吐く。


「君はどっちから来たんだ」


「こっちです」


一花は自分が歩いてきた方向を指差した。


「残るはこの道だな。先を急ぐぞ」


アランはそう言うと、ライトで足元を照らしながら先に歩いていってしまった。


一花は慌てて小走りでその後を追う。


二人の間に会話はなく、洞窟の中には二人分の足音だけが響いていた。


クロは歩きながら心配そうに一花を見上げ、静かに見守っていた。


しばらく歩くと少し開けた場所へ辿り着いた。


しかし、道はそこで行き止まりになっている。


そこにあったのは小さな湖だけだった。


「地底湖か……」


アランは湖面をライトで照らしながら、周囲の気配を探る。


「魔物の気配はないな。どうするか……」


辺りにもライトを向け、出口になりそうな場所がないか見回す。


ふと、一花へ目を向ける。


一花は肩で荒い息をしていた。


「もう疲れたのか?」


「いえ……大丈夫です……」


アランの歩く速度が早かったせいで、一花はついていくのに必死だった。


アランは一花の様子を見て、諦めたように息を吐く。


「少し休憩だ」


そう言うと、湖畔の岩場に腰を下ろした。


一花もアランから少し距離を取り、その場に座る。


相変わらず二人の間に会話はなかった。


クロが一花にすり寄り足元に座ると、アランへ視線を向けた。


一花は先ほどからアランの体調が悪そうなことに気づいていた。


顔色も悪く、苦しそうにしている。


けれど今のアランには、とてもガイディングをさせてもらえるような雰囲気ではなかった。


一花は心配そうにアランを見つめた。


「なんだ。言いたいことがあるなら、はっきり言え」


その言葉に一花は決心して立ち上がった。


アランの前まで歩いていき、目の前で膝立ちになった。


アランの瞳は金色に光り、苦しそうに息を吐く姿を見て一花の胸が締め付けられた。


「ガイディングでもしてくれんのか?」


「しても……いいですか?」


アランは呆れたように笑った。


「Dランクの君がか?」


「……はい」


一花は恐る恐るアランの両手を握り、真っ直ぐ見つめる。


アランは鋭い目で一花を黙って見ていた。


一花の手が小さく震える。


それが恐怖なのか、悲しみなのか、自分でも分からなかった。


(どうか……アランさんが戻ってくれますように……)


一花は心の中で願う。


そしてゆっくりと目を閉じ、ガイディングを始めた。


アランの身体に溜まっていた毒素が、一花の身体へ流れ込んでくる。


一花はそれを受け止め、綺麗に整えていく。


けれど身体を楽にしてあげるには追いつかない。


(アランさんの力は……もっと強くて、激しくて……重いはず……)


一花は目を開けると目の前のアランと視線が重なった。

「終わりか?」


アランは期待していない感じだった。


一花はニコリと優しく微笑むと、アランの唇に口づけた。


アランからの反応はなかったが、一花は勇気をだしてそっと舌を差し入れた。


するとアランは唇を少し開けて舌を絡めた。


一花は粘膜ガイディングを始める。


すると、先ほどとは比べ物にならないほどの量の毒素が一気に一花の身体へ流れ込んできた。


一花はそれを受け止め、丁寧に整えていく。


その力にアランは目を見開いた。


体内に溜まっていた毒素が素早く浄化されていく。


その時、一花からふわりと甘い香りが漂う。


その匂いとガイディングによって満たされていく心地よさに、アランはゆっくりと目を閉じた。


もっと楽になりたい。


もっと欲しい。


そう思った瞬間だった。


先ほどまで頭の中を覆っていた霧が少しずつ晴れていく。


(大切なもの……)


静かに辛そうな顔で涙を流していた泣き顔。


困った時に見せる焦った顔。


嬉しそうにぬいぐるみを抱き締めていた笑顔。


一つひとつの記憶が鮮明に蘇ってくる。


(……一花……ちゃん……)


アランは唇を離し、ゆっくりと目を開けると一花を見つめる。


一花は不安そうな顔でアランを見ていた。


アランはそっと手を伸ばし、一花の頬に触れる。


「ごめんな……」


その言葉に一花は目を見開いた。


「思い……出したんですか?」


「ああ」


「……よかった……」


一花は安堵から涙を流した。


その涙を見てアランの胸が痛む。


今までの自分の言動が鮮明に蘇ってくる。


(また傷つけてしまった……)


アランは一花をぎゅっと抱きしめ、優しく頭を撫でた。


「一花ちゃん、俺が怖いか?」


一花は首を横に振った。


その動きにアランはほっとしたように微笑む。


少し身体を離すと一花に口づけた。


それはガイディングではない、一花自身を求めるための口づけだった。


一花は戸惑いながらもアランを受け入れた。


洞窟に濡れた音が響く。


「……んっ……」


一花の声が漏れる。


唇を離し、アランは再び一花を抱きしめた。


「ダメだ……止まれなくなりそうだ」


そう言うと一花の首元に顔を埋め、匂いを嗅いだ。


「この匂い、堪んないな……」


「アランさん! 私、汗かいてるので……」


「エスパーには堪らない匂いなんだよ。猫のまたたび的な感じだな」


そう笑いながら身体を離すと、優しく微笑み一花の頭を撫でた。


アランは少し離れたところに座っていたクロへ目を向ける。


「クロ! 一花ちゃんを守ってくれてありがとな」


「ニャー!」


クロは当たり前だと言わんばかりにツンとした様子で答えた。


「さあ、皆と合流してここから出ないとな」


アランはそう言って立ち上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。