53話
休めそうな場所を探していると、神崎が山小屋を見つけた。
「小さいですけど、山小屋を見つけました」
「本当か?」
「はい。あっちです」
神崎が指差した先に、古びた小さな山小屋が見えた。
「ないよりはマシだ。行こう」
アランが声を掛け、一行は山小屋へ向かった。
全員が休むには狭そうだったが、休める場所があるだけでもありがたい。
中へ入ると、山小屋の中はがらんとしていて、家具も何も置かれていなかった。
「とりあえず、二人を休ませよう」
具合の悪いサーシャと橘を寝袋へ寝かせる。
「お二人とも、大丈夫ですかね……」
一花は二人の様子を心配そうに見つめていた。
「ガイディングもしたし、少し寝ればよくなるよ」
レイが安心させるように言った。
「俺たちも休める時に休んでおこう」
ヒロがそう声を掛けると、皆もそれぞれ寝袋を出して横になった。
神崎は壁際に。
橘の横には玲央。
湊の隣にはオルネア。
サーシャの隣にはヒロとレイが並んで寝ていた。
一花は窓際に寝袋を敷いた。
するとクロがすっと中へ入り込み、丸くなる。
「クロ…」
一花は微笑むと足だけを寝袋へ入れ、壁にもたれ掛かった。
窓の外には薄暗く淀んだ森の景色が広がっている。
ふと、ひとりで取り残されたゲート内を思い出す。
カビっぽい湿った匂いや重い空気感に寂しかった想い……
ゲート内は何度入っても慣れなかった。
湿った空気。
薄暗い森。
どこから魔物が現れるか分からない緊張感。
一花はぼんやりと外を眺めていた。
やがて部屋の中には皆の静かな寝息が聞こえ始める。
その頃、外の見回りに出ていたアランと黒川が戻ってきた。
扉が開き、二人が中へ入ると一花が起きていることに気づいた。
黒川が一花の隣へ座り、静かに尋ねた。
「眠れないのか?」
「目が冴えちゃって……」
一花は少し困ったように笑った。
黒川はそんな一花を見つめる。
「病み上がりだろ。睡眠はちゃんと取らないと」
そう言うと、黒川は一花の隣に寝袋を敷いた。
中へ入ることはせず、そのまま寝袋の上へ横になる。
そして片腕を広げ、一花を呼んだ。
「おいで」
その言葉に一花の表情がぱっと明るくなった。
一花は嬉しそうに黒川の腕の中へ入る。
黒川の腕が一花の身体を包み込む。
久しぶりに感じる黒川の温かさとほっとする匂い。
黒川の手が一花の頭を優しく撫でた。
それだけで一花の身体から力が抜けていく。
一花は黒川の胸へ顔を寄せ、目を閉じる。
安心したのか、すぐに穏やかな寝息が聞こえ始めた。
黒川もそのまま一花を抱きしめながら静かに目を閉じた。
任務の緊張が続く中、黒川も珍しく一花と一緒に眠りについた。
その頃、アランは眠れずにいた。
壁にもたれ掛かり、目を閉じてみる。
だが、なかなか眠りにつくことができなかった。
しばらくして目を開け、静かに部屋を見渡す。
オルネアもそして一花も。
パートナーを見つけ、自分のもとから離れていく。
アランはおもむろに自分の手のひらへ視線を落とした。
オルネアとは長い間パートナーとして共に過ごしてきた。
けれど、それが恋愛感情かと言われると少し違う。
ガイディングや身体の相性が良く、互いに必要だったから一緒にいた。
オルネアもきっとずっと前からそれを感じていたのだろう。
だから湊を選んだ。
アランは眠っている一花へ視線を向ける。
黒川の腕の中で安心したように眠る姿を見つめた。
黒川のように不器用でも、ちゃんと愛情を示してくれる人の方が一花ちゃんは幸せになれる。
そう感じていた。
俺はルーフェスを守らなくてはいけない。
自分だけの感情で、皆の暮らしを壊すわけにはいかない。
アランは再び自分の手のひらを見つめた。
記憶はほとんど残っていないが、初めて本気でガイディングをした相手が一花だったことだけは覚えている。
相手のことを考える余裕もなく、己の苦しさから解放された日。
エスパーとして力が発現してから、初めて感じた感覚だった。
だからこそ一花は特別だった。
だがその力を求めた結果、一花を傷つけた。
自分の欲望で、一花の心を傷つけた。
それを忘れることはできない。
アランは静かに息を吐いた。
特別な存在が欲しい。
そんな思いを持ってはいけない。
自分には守らなければならないものがある。
ルーフェスを。
仲間たちを。
そして、その中にいる一花を。
だから一花ちゃんを幸せにできるのが自分ではないのなら、それでいい。
そう言い聞かせるようにアランは再び目を閉じた。




