51話
三日後。
合同調査当日。
ルーフェスの事務所には、出発を控えたメンバーたちが集まっていた。
「一花ちゃん、忘れ物ない?」
オルネアが優しく声を掛ける。
「何があるか分からないから空間ポーチには必要そうな物を多めに入れとけよ」
ヒロも心配そうに言った。
「何回か確認しました。大丈夫だと思います」
一花は迷わず頷く。
「オルンは俺のそばに居れば大丈夫だからね!」
そう言いながら湊がオルネアへ抱きつく。
オルネアは困ったように笑うと、湊の頭を軽く撫でた。
「一花ちゃんをいじめたら許さないからね」
「分かってるよ……」
湊は納得していないような顔をしていた。
その微笑ましい様子に一花は思わず微笑んだ。
そこへサーシャが静かに歩み寄る。
「ゲートの中では、私が一花ちゃんのそばにつきます」
一花は微笑み、軽く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
サーシャも優しく微笑み返す。
「一花ちゃんは何でも一人で抱え込んで遠慮してしまうので、先に言っておきますね」
一花はきょとんとした表情でサーシャを見る。
「私たちは何があっても一花ちゃんを守ります。ガイドとエスパーという関係ではありますが、ここにいる皆は家族のような存在です」
サーシャは穏やかな口調のまま続けた。
「だから、もっと甘えてください。わがままを言ってもいいんです。辛い時は辛いって言ってください。それで嫌いになったりなんて誰もしません」
その言葉が胸に染み渡る。
一花の目にはうっすらと涙が滲んだ。
「……ありがとうございます」
心からの笑顔でそう答える。
すると後ろから、ふわりと腕が回された。
「俺のことも少しは頼ってくれていいからな」
レイだった。
そのまま一花を軽く抱き寄せる。
「一花ちゃんのこのサイズ感が落ち着くんだよな」
そう言って頭をぽんぽんと優しく撫でた。
「おい、一花困ってるだろ。離れろ」
ヒロが呆れたように声を掛ける。
「ちょっとくらいいいだろ」
レイは渋々一花から離れた。
事務所には自然と笑いが広がる。
そんな和やかな空気の中、事務所の扉が開きアランが入ってきた。
「支度はできたか?」
「問題ありません」
ヒロが代表して答える。
アランは全員を見渡し頷いた。
「なら、出発だ」
「ニャー」
その声に合わせるようにクロが元気よく鳴く。
先日まで子猫ほどの大きさだったクロも、今ではすっかり元の姿へ戻っていた。
「クロもちゃんとついてこいよ」
アランが声を掛けると、クロは軽やかに跳び上がり、アランの肩にちょこんと乗る。
「ニャッ」
その鳴き声を合図に、ルーフェスのメンバーは事務所を後にした。
ルーフェスのメンバーは管理局地下にある特殊ゲート開放区画へ到着した。
そこにはすでに黒川と橘たちが待っていた。
「悪い、待たせたか」
アランが黒川へ声を掛ける。
「いや、今最終確認をしていたところだ」
黒川はそう答えると、隣に立つ二人へ視線を向けた。
「そうだ。まだ紹介していなかったな。うちのメンバーを紹介させてくれ」
黒川が二人を呼ぶ。
「橘のパートナー桐生と管理局所属のAランクエスパー神崎だ」
先に神崎が一歩前へ出た。
「初めまして。Aランクエスパーの神崎透です。皆さんほど強くはありませんが足を引っ張らないよう頑張ります」
真面目に頭を下げる。
「彼は雷の使い手だ。実力は間違いない」
黒川が補足すると、アランが興味深そうに神崎を見る。
「雷か。うちにはいないから楽しみだな。よろしく」
「はい。よろしくお願いします」
続いて、もう一人の青年が前へ出た。
「あっ、初めまして。橘さんのパートナーガイド、桐生玲央です。管理局では玲央って呼ばれてます。よろしくお願いします」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。
二十代前半ほどだろうか。
柔らかな雰囲気をまとった優しそうな青年だった。
「橘さんのパートナーって男性だったんだね」
オルネアが驚いたように声を掛ける。
「はい。珍しいってよく言われます」
玲央は苦笑する。
「ガイドは私と一花ちゃん入れて三人だから頑張ろうね」
オルネアが笑いかける。
「よろしくお願いします」
一花も軽く頭を下げた。
玲央は一花の顔を見ると微笑んだ。
「一花さんとは同い年だと思います」
「本当ですか?私、今年二十四になります」
「俺もです」
「じゃあ同い年ですね」
二人は顔を見合わせる。
初対面とは思えないほど、自然に会話が弾んだ。
「二人とも二十代か……。若くていいな」
オルネアはそんな二人を微笑ましそうに見つめる。
その後も簡単な自己紹介を交わし、しばらくの間は和やかな空気が流れていた。
「これからゲートへ向かう」
黒川の声が響いた瞬間、空気が変わる。
全員の表情から笑みが消え、これから始まる任務へ意識が切り替わった。
黒川は全員を見渡す。
「ゲートは山中にある。今回は何が起きるか分からない。全員、無事に戻ってこられるよう気を抜くな」
「「はい!」」
一斉に返事が響く。
こうして、合同調査という新たな任務が始まった。




