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波の音が消える前に  作者: 音香(Otoca )


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28話

国家特務保安管理局の資料室の奥で、サーシャは大量の資料を机に並べていた。


二重ゲート。

異空間。

核の再生成。

過去の消滅ゲート記録。


この二年間、何度同じ資料を読み込んだか分からない。


「何か解決策は…… 」


サーシャは一人言を呟いた。


その時、扉が開く。


「まだ調べてたのか」


「アランさんこそ」


顔を上げるとアランが立っていた。


手には黒川から借りた古い資料を抱えていた。


「黒川さんは何て?」


サーシャが聞くとアランは静かに資料を置いた。


「方法がないそうだ」


その言葉にサーシャの手が止まる。


「……そうですか」


「一度核が消滅したゲートへ再侵入した例は存在しないらしい」


アランは話しながら椅子へ座った。


「オルンの時は核を回収できていた。だから再開放できる可能性があった。でも今回は違う」


あの日、一花を置いて閉じたゲートの核は役目を終え消滅した。


同じ入口はもう存在しない。


理論上は二度と繋げない。


「つまり完全に閉じた世界……ということですね」


「ああ」


アランの静かな返事を聞いてサーシャは目を伏せる。


「一花ちゃん……怒っているでしょうか」


アランは少し考えた。


「怒ってくれてた方が楽だったな。恨まれて当然だ」


アランは自分の手を見る。


最後に伸ばした手は届かなかった。


(いや、違う…… )


自分達を助けるために一花が掴まなかった。


「最後まで笑ってた。だから余計に忘れられない」


アランの後悔を含んだ声だった。


サーシャも同じ気持ちだったから何も言えなかった。



「アランさん」


「なんだ」


「もしもう一度会えたらどうしますか」


その問いにアランは黙った。


昔なら迷わなかった。


大切な存在のオルネアがいる。


でも一花の笑顔が浮かんだ。


アランは正直に答えた。


「どうするかな。でも、もう一度頭を撫でてやりたいとは思う」


サーシャは驚いた。


アランがそんなことを言うのは珍しかった。


「そうですね。私はまたソフトクリームでも食べさせてあげたいです」


「子供扱いだな」


「一花ちゃんにはそれくらいで丁度いいんですよ」


サーシャは優しく微笑みながら言った。


「あの子はずっと我慢してきましたから。次は我慢の仕方じゃなくて、甘え方を覚えてほしいです」


「そうだな……」


アランは静かに目を伏せた。




その夜、事務所。


「アラン」


声をかけられ顔を上げるとオルネアが立っていた。


「また難しい顔してる」


「そうか?」


オルネアは隣へ座る。


「一花ちゃんのこと?」


「……まあな」


アランは否定しなかった。


「優しい子だったんだね。みんなの話聞いてると分かるよ。私を助けてくれた子だもん」


その言葉にアランは視線を落とした。


「俺が連れて行った」


アランの拳に力が入るとオルネアはそっとその手に触れた。


「だったら忘れちゃダメだよ」


アランが顔を上げる。


「一花ちゃんがくれた時間もいたことも、ちゃんと大事にしてあげなきゃ」


オルネアは優しく笑った。


「それが一花ちゃんが守った未来でしょ?私も、もう一度会いたい。ちゃんとありがとうって言いたい。だから諦めずに探そう」


アランはしばらく黙ったあと、小さく笑った。


「お前らしいな」


「そう?」


「ああ」


アランは少しだけ表情を緩めた。


「オルン、ありがとう」


「一人で悩まないで」


オルネアはそう言うと優しくアランを抱きしめた。


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